第139話 青田買い

「あの、ヘンリーさん。お忘れかもしれませんが、私は牛耳族なんですけど」


 うん、知ってる。知っているんだ。

 けど、獣人族が更に細分化された種族毎に村を作っているなんて、知らなかったんだよ。

 ……まぁ今になって思えば、樹の上に村がある時点で違うと気付くべきだったのだが。

 けど、リスと牛でも同じ獣人族だ。

 もしかしたら、何か知っているかもしれない。


「シャロン。この女性の話っぷりと、この獣人族の村の立地からして、ここには確かにリスの獣人族しか居ないかもしれない。けど、獣人族の繋がりで家族に繋がる情報があるかもしれないだろ? ……という訳で、どこかで牛耳族の村の事を聞いた事はないか?」


 困惑した表情のシャロンをなだめつつ、リス耳族の女性に尋ねてみると、


「え? 聞いた事なんてないけど」

「じゃあ、知っていそうな人は誰かいない?」

「いないだろうな。みんな樹の上から殆ど降りないし」

「え? マジで? どうやって生活しているの!?」

「どうやって……って、木の実とか樹液とか、あと雨水を貯めておいたりするし、あと時々近くの泉へ行ったりとか……」


 いつの時代の文化だよと、思わず突っ込みたくなる。

 とはいえ森の中に珍しい樹があるそうで、その樹液を採取して街へ行き、衣類などと交換する事もあるのだとか。

 うーん。何だか、ここの獣人族の村人たちは人生を損している気がする。

 もちろん、部外者である俺が口出しすべき事ではないのは十分わかっているんだけどさ。


「えっと、君はこの樹から降りた事は無いの?」

「樹から降りた事くらいはあるに決まっているだろう。泉で水浴びしたりするし」

「街へ行ってみたいとかって思わないの?」

「まぁ興味はなくはないが……けど、母さんたちが許してくれないからな」

「ふーん……って、母さん? あ、あれ? まさかとは思うけど、まだ子供なの?」

「子供って言うなー! 私はもう十三歳だっ!」


 十三歳!? 俺より二つも年下!?

 いや、確かに顔も身体も小柄だし、十三歳と言われればその通りなんだけどさ。

 けど、村への侵入者を防ぐ門番みたいな役割を担っているのが子供とは思えないから、シャロンの爆乳みたいに小柄な種族だと思ったんだけど……違うのか!?


「えっと、リス耳族は十三歳で仕事をするの?」

「仕事? まぁ家のお手伝いはするけど?」

「お手伝い……この村の門番もお手伝いなの?」

「門番? そんな事してないんだけど。ただお昼寝してたら、知らない人たちが突然現れたから、入って来るなって言っただけだ」

「……でも、ずっとここで俺たちをくい止めているよね?」

「それは、お前らが私の尻尾に乗っているからだろっ! 胸は揉むし、抱きつかれるし、尻尾はよだれまみれだし……酷過ぎるっ!」


 言われてみれば、俺とシャロンは立ち上がったけど、ユーリヤは未だに女性、いや少女の尻尾の上で幸せそうに眠っていた。


「……ま、待ってくれ。確か君は十三歳って言ったよな?」

「言ったわよ」

「君の名は?」

「……ティナ」

「ティナ……君はもしかしたら、凄い逸材かもしれない。五年後……いや、三年後にまた会ってくれ!」


 十三歳にしてエリーと同じくらいの程良い大きさの胸の少女ティナ。

 十三歳だぜ、十三歳。ソフィアより年下なのに、この胸……この子は、将来ニーナやジェーン程の巨乳になる可能性を秘めているぞ。

 しかも仮に巨乳でなかったとしても、モフモフ尻尾付きだ。

 是非、育った姿を見てみたい!


『逃げてっ! ティナさん、変態から逃げてーっ!』

(誰が変態だ。今は何もしていないだろ)

『あれだけ抱きついて、その上にずっと胸を触っておいて、何もしていない!? ……ヘンリーさんは、再会した時には何をする気なんですかっ!』

(いや、あれは不可抗力だし。手の中におっぱいがあったら、揉むのは仕方がないだろ?)

『仕方なくありませんよっ!』


 リス耳族のティナ……もしかしたら、巨乳三銃士の新たな一人となるかもしれない少女の事を、しっかりと覚えておこう。

 改めて、マジマジとティナを眺めていると、


「で、いつ帰ってくれるの!? 出来れば、もう来ないで欲しいんだけど」


 ティナが心底疲れた表情で俺を見てくる。


「そうだな。他の獣人族の村がどこにあるか教えてくれたら、すぐにでも帰るぞ」

「だから、知らないって言ってるだろ!」

「そこをなんとか」

「なんとかなる訳ないだろっ!」


 ティナと不毛な言い合いをしていると、


「ヘンリーさん。私の家族を探すためとはいえ、本当にご存知ないみたいですし、そろそろ……」

「……わかった。シャロンがそういうなら、諦めるか」

「お姉さん……ありがとう。あと、この子供を尻尾から降ろしてくれると助かる」


 見かねたシャロンが諦め……いや、最初から俺しかこだわってなかったんだけどさ。

 眠っているユーリヤを抱っこすると、ようやくティナが立ち上がる。

 改めて見ると、結構可愛いし、小柄な割にそこそこの胸……イイな!


「じゃあ、三年後にまた来るから」

「来なくていいよっ! というか来るなっ!」

「あっはっは。照れなくても良いって。その時は、俺は君を連れて帰る。ティナに俺の元へ来て欲しいんだ」

「照れてなんか……え!? それって、どういう意味……」

「じゃあ、そういう事で!」


 驚いた表情を浮かべるティナの前で、テレポートの魔法を使って宮廷へ。

 ユーリヤを抱っこして、シャロンを抱き寄せてテレポートしてみたけれど、意外といけるな。


「シャロン。すまない。家族の情報が何も得られなくて」

「いえ、仕方ないですよ。気になさらないでください」

「また任務の途中で獣人族の情報があったら、教えるから」

「ありがとうございます。……ところで、最後のティナさんへの言葉って、どういう意味だったんですか?」


 神妙な表情から一転したシャロンが困った質問を投げてきた。

 バカ正直に、「胸を揉んでもあまり怒らなかったティナに、胸が育ってから毎日触らせてもらうため」とは言えない。


「あ、あれは……見所があったからね。樹の上で生活しているリス耳族の少女だし、きっと身体能力に優れているから第三王女直属特別隊に推薦しようと思って」

「なるほど。流石ヘンリーさんです。常に部隊や姫様の事を考えられているんですね」


 シャロン、ごめん。

 キラキラと目を輝かせて俺を見つめてくれるけど、本当は違うんだっ!

 というか、むしろシャロンの胸も気持ち良かった……って思ってたくらいなんだ。

 流石に心が痛むので、ユーリヤを抱っこしたまま、今日はそうそうに引き上げる事にした。

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