第103話 ヘンリーさんのエッチ!

 食事処へ戻ると、皆が食事を終えていて、アタランテとユーリヤだけが三つ目と思われるデザートを食べていた。

 一先ず、獣人族の村を探す手がかりになるかもしれないからと、猫と意思疎通が出来る魔法を修得しようと思っている旨を伝えると、


「じゃあ、ボクは魔法が使えないし、王宮に戻ってますねー」

「主様。私も魔法は修得出来ないかと」


 ニーナとジェーンの騎士コンビは待機するそうだ。

 まぁ予想通りだし、妥当ではある。


「じゃあジェーンは寮まで送るから、俺の部屋で待って居てよ」

「主様のお部屋でしたら、歩いて帰れますが……」

「いや、一応あそこは男子寮だから。ジェーンが正面から入っていったら、パニックになるよ」


 魔法学校側の寮なら、殆どの生徒がジェーンの事を知っているだろうけど、残り半年で卒業だからって、俺は未だに士官学校側の寮に居るからな。

 士官学校の生徒はジェーンの事を誰も知らないだろうし、女子に飢えた男共が寮で巨乳な上に綺麗なジェーンを見かけたら、最悪襲いかかる奴が出てくるかもしれない。

 まぁその時は確実に男の方が痛い目を見るのだが。


「じゃあ、ついでにニーナも王宮の近くまで送るよ」


 ニーナとジェーンを連れて人気の無い場所へ移動し、先ずはいつもの王宮近くの路地へ。


「隊長さん、送ってくれてありがとうございます」

「ん、別に良いよ。それより、明日から頼むな。朝、王宮前にマーガレットを連れて来るから」

「はーい。では、失礼しまーす」


 ニーナを見送り、次はジェーンだ。

 俺の部屋へと移動すると、部屋の中にあるお風呂の水を新しいお湯に換える。


「じゃあ、ジェーン。せっかくだから、お風呂にでも入って待って居てくれ」

「あ、ありがとうございます」

「……ちょ、ちょっとくらい長めに、ゆっくりと浸かっていても良いんだぞ? 具体的には、俺たちが帰って来るまで」

「あの、主様。魔法を修得するのって、そんな短時間で出来るものではないと思われますので、それまでお風呂に浸かり続けるというのは、ちょっと……」

「そこを何とか! ワープ・ドアでお風呂に現れて、『ヘンリーさんのエッチ!』って一度言われてみたいんだ」


『ヘンリーさん。やっぱりMに目覚めていませんか?』

(いやいや、そんな事は無いって。……というか、普通に男なら一度は憧れるシチュエーションなんだけどな)

『それって、かなり難しくないですか? 先ずお風呂に女の子が入って居ないといけないんですよね?』

(いや、女の子ってお風呂が好きなんだろ? 休日はずっとお風呂へ入っているくらいに)

『ヘンリーさんは、女性に対するイメージが歪んでいる気がします』


 アオイの指摘を聞き流しつつ、再び皆の所へ戻る。


「マーガレットは俺と一緒に魔法を学んでもらうとして、アタランテはどうする?」

「ん、私? 暇だから一緒に行くよ?」

「分かった。ユーリヤ……も来るよな?」


 口の周りを白い液体でベタベタにしたユーリヤが、未だに何かを食べつつコクコクと頷く。

 苦笑いしながらユーリヤの口を拭き、会計を済ませると、三人を連れて魔術師ギルドへ。

 先程指定のあった汎用魔法の教室へ行くと、講師のオッサン一人と数匹の猫が居て、俺の姿を見るなり講師が嬉しそうに寄ってくる。


「おぉ、早速来てくれたんだね。いやー、猫好きの同士が増えて嬉しい限……」

「ん? どうかしましたか?」


 ニコニコと笑顔を浮かべていた講師が突然驚き、固まってしまった。

 一体何を見たのかと思って後ろを見てみると……あ、アタランテか。

 頭から猫耳を生やしているし、お尻から尻尾が生えているし、美少女だし……猫好きのオッサンが驚くのも無理は無いか。


「お、お嬢さん! 僕と結婚してください!」

「うぉい! いくらなんでも飛躍し過ぎだろっ!」

「そうだよ。それに、私はもう既にこの人のものなんだから」


 三十代頃のオッサンが唐突にアタランテへプロポーズしたかと思うと、そのアタランテが見せつけるようにして俺に抱きついてくる。

 そして、それを見たユーリヤも俺に抱きついてきた結果、


「し、失礼しました。まさか、常日頃から猫耳を着けてくれる女性が居るとは思わなくて。僕も以前恋人が居たんですけど、猫耳を着けてもらおうと思ったら、変態だって怒りだしてしまってね。君、若くして娘さんまで居たんだ。いいなぁ……猫耳」


 オッサンの中で俺とアタランテが夫婦で、ユーリヤが娘だという事になってしまった。

 顔とか全然似て無いと思うんだけど。


「あのさ、私は猫じゃ無くてライオ……」

「とりあえず、魔法を教えていただけませんか? 俺、猫大好きなんで、早く修得したいんですよ」


 アタランテには悪いと思いながら、その口を塞いで魔法の授業を催促してみた。

 猫耳だと思って、上機嫌で授業を進めてもらった方がお互いに良いだろうしね。……アタランテ以外は。

 ユーリヤが教室に居る仔猫に気付き、「にゃー、にゃー」と言いながら一緒に遊びだした所で、


「では、これより汎用魔法、猫と意思疎通する魔法の授業を始めますニャ」


 話し方が気持ち悪くなったオッサンの授業が始まった。

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