第70話 いつも心に紳士の掟

 アオイの話によると、この赤い花によって幻覚を見ているのだろうという話だった。

 だが、四階層の先を見渡してみると、この花はかなり広域に咲いているように思える。

 一つ一つ潰して行っても良いが、それでは時間が掛かり過ぎるので、出来れば無視して進みたい。


「ルミ。あの赤い花について何か知らないか?」

「これ? うーん、ごめんなさい。ルミも見た事無いお花だよ」


 森に住むエルフのルミが知らないとなれば、一旦引いた方が良いだろうか。

 サンプルとして持ち帰り、エルフの長老サロモンさんや、ルミのお母さんであるエロエルフ――もといリリヤさんに聞いてみるのも良いかもしれない。

 そう考え、近くに生えている赤い花を幾つか摘んで、鞄にしまう。


「お兄ちゃん。その花は、どうするの?」

「あぁ、持ち帰って調べてみようかと思ってさ」

「そっかー。流石は宮廷魔術士さんだね。すごーい」

「いや、それ程でもないさ。それより、まだこんなに幼いのに魔法を扱えるルミの方が凄いよ」

「えへへ、そうかな? ふふっ、お兄ちゃんに褒められちゃったー」


 ルミが嬉しそうにはしゃぎ、クルクルとその場でターンする。

 その瞬間、短すぎるスカートが広がり、僅かに水色のパンツが見えたような気がした。

 ……いや、だが俺とルミの身長差を考えれば、この視線の位置からパンツが見えるはずなんてないのだが。

 だけど、このスカートの短さだ。ちょっとした事で見えてもおかしくは無い。

 ダメだ。意識しだすと、気になって仕方がない。

 さっきの水色の何かは、ルミのパンツなのか? それとも違う何かなのか?


「ルミ、ちょっとだけ良いか?」

「ん? お兄ちゃん、どうしたの?」


 ルミの視線に合わせてしゃがみ込むと、俺と目を合わせたままのルミが、小さく小首を傾げる。

 その仕草が可愛らしく、全く育ち切って居ない胸や、スラリと伸びた細い手足がとても愛おしくなってきた。

 この幼くて、まだ未熟な女の子はどうしてこんなにも可愛いのだろう。

 柔らかそうな太ももに、プニプニしてそうなお腹。それから、全く膨らみの無いちっぱい……どれも最高だ。

 このちっぱいに顔を埋めてクンカクンカして、ちっぱいを……ちっぱいが……


「ちがーうっ! 何がちっぱいじゃーいっ!」

「え、えぇっ!? お兄ちゃん、突然叫んだりして、一体どうしたのっ!?」


 あ、危なかった。

 どういう訳か、俺の中で突然ルミを愛おしいと思う感情が芽生え、思わず平らな胸に顔をダイブさせる所だった。

 しかも、さっきのパターンとは違って、壁にクンカクンカさせる訳じゃなく、目の前に居る本物のルミにさせるのかよ。

 お、恐ろしい。

 幻覚状態とはいえ、全く興味の無い貧乳幼女を大好きにさせるなんて。


「よし、全員撤退! この階は危険だ! 無策で挑むのは無謀過ぎる!」


 昔のエルフめ。とんでも無い罠を仕掛けやがって。

 これなら三階層みたいに魔法生物が湧きまくる方がどれだけ楽だったか。

 どうしたものかと考えながら、拠点としている小屋へ向かっていると、


「ねぇ、お兄ちゃん。ちっぱいってなぁに?」

「え? ルミ。いきなり何の話だ?」

「だって、さっきお兄ちゃんが、ルミの事を見ながらちっぱいがどうとかって叫んだから」

「……な、何の事だろうな? 俺、ちょっと幻覚を見せられていたから、覚えてないよ」

「そっかー。うーん、ちっぱいって何の事なんだろー」


 ルミが不思議そうな顔で小首を傾げる。

 うん。その仕草は子供らしくて可愛らしくはあるけれど、それだけであって、性的な興奮は無いな。

 良かった。正気に戻った俺は、ちゃんとノーマルであって、ロリコンではない。

 とはいえ、ルミがリリヤさんみたく成長して、悩殺されるような胸になったらムラムラするかもしれないが、それはまだ数十年後の話だろうしな。

 よしよしとルミの頭を撫で、暫く歩いていると、三階層の入口へ作った小屋へ到着した。


「一先ず、今日はここでゆっくり休もう。正直、いろいろ有り過ぎて疲れたよ」

「そうだね。私、もう寝る事にするよ」

「ルミも、そろそろ眠たいかなー。おやすみー」


 早々にアタランテとルミが自分の部屋へと引き上げて行くが、


「うーん。せっかく面白い物がいっぱい見れたんだけど……お兄さん。私の部屋でお話でもしようよ」


 何故かマーガレットだけはやたらと元気だ。


「どうしてマーガレットはそんなに元気なんだ? 俺は精神的にやられてクタクタ……って、そういえば幻覚にやられているのは俺とアタランテばっかりだったな。何故だ?」

「うーん。推測だけど、ルミちゃんは森に住むエルフだから、植物の攻撃に対して耐性があるんじゃないかな?」

「なるほど、一理ある。じゃあ、マーガレットは?」

「え、私? ……あれ、言ってなかったっけ? 私は聖女の力で、毒とか幻覚とかっていう状態異常には耐性があるんだよねー」

「聞いてないよ! マーガレットは退魔が得意なんじゃなかったっけ?」

「うん、そうだよー。でも退魔――つまり、私が倒す悪魔とかの類って、その手の状態異常を物凄く使って来るんだよねー。だから、そういう状態異常の耐性が付いたんだと思うんだー」


 そういえば、ピンクスライムの毒に対しても平然としていたっけ。

 まぁ毒に侵された振りはしていたけどさ。


「そういう訳だから、お兄さん。是非、続きは私の部屋かお兄さんの部屋か……って、ちょっとお兄さん? どこへ行くの?」

「いや、悪いが本当に疲れて居るんだ。じゃあ、そういう事で。お疲れー」

「えぇぇっ! お兄さん、私と遊んでよーっ!」


 精神的に疲れ切っていた俺は、体力が有り余っているマーガレットの相手は無理だと判断し、自室で寝る事にした。

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