エピローグ

 私がここに来てどれくらい時間が経っただろう。


 背丈も恰好もあの頃とは確かに変わった、と思う。


 彼とはしばらく会っていない。


 しばらくの間、この家を留守にしている。


 …まぁ、定期的に連絡はしてくるから無事なのだろうけれど。


 私も私で、ここで好きにしている分大きなことが言える立場ではないけれど。


 それでも私としては、家主が長い間家を空けるのはどうなのかと思う。


「ここにいたの?」


 ぼんやりとしていた私の耳に、彼女の声が聞こえてきた。


 好きにしろと言って以来、彼女は私の傍に居ることにしたらしい。


 私みたいなひねくれ者の傍に居ても面白いことなんてないと思うのだけれど。


「どうして私にそんなにつきまとうのかしらね」


「またその話?」


「どれだけ考えてもあなたのその考えだけは理解できないから」


「何回も言ってるけど、なんかほっとけなくてね。それに、私がそうしたいからね」


「そう」


「好きにしてるんだよ。私も。あなたと同じ」


 それを言われると、返す言葉が無い。


 私はため息を吐くと、手元にあった本に目を戻す。


「無視しないでよー」


「別に無視なんかしてないわ。私からは別段話すこともないから。…あぁ、そういえば、何か用があったんじゃないの?」


「そうそう。もうすぐ帰ってくるみたいだよ」


「そう」


 これは珍しいこともあるものだ。


 興味があるかと言われれば、そういうわけでもないけれど。


「そういえば、顔を見るのは随分久しぶりかもね」


 無意識に口元が緩んだ。


「あれ?今笑ったの?」


「笑った?私が?」


「そう見えたけど」


「どうなのかしらね?」


「私に聞かれても…」


「そうね」


「まぁいいや。ちゃんと出迎えてあげなきゃね」


「めんどくさ」


「そんなこと言わないで。ほらほら、行こ?」


 彼女はそう言って、私の手を引く。


 めんどくさいという気持ちは確かにあるけれど。


 …まぁ、それでもいいかもしれない。


 思えば、私も随分丸くなったものだ。


 けれど、なんというのだろうか。


 その丸くなった自分も、それを受け入れている自分も。


 悪くないと、心のどこかでそう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Reverse:Rebirth タクト @takutoallfiction

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ