幕話 ≪城門都市ガーディアの定期報告書≫

□月◇日 快晴 


 ≪未踏領域≫嘆きの樹海近辺の定期報告。


 本日正午、冒険者を連れた三つの商隊が城門都市を訪れた。

 いつも物資の補給を担当している商隊だ。

 今回も、物資の取引および≪未踏領域≫の探索が目的の模様。

 聞けば、途中で出会った冒険者を護衛として相乗りさせてここまで来たらしい。


 冒険者の正式な依頼を確認し、商隊もろとも城門都市ガーディアの入場を許可する。


 冒険者は≪未踏領域≫に足を踏み入れていった。

 若手のパーティのようで初々しく樹海に入っていった。彼らが無事に帰ってくることを祈るばかりだ。


 そしてどうやら商人の間では戦争に備えて薬の取引が盛んらしい。

 今回の商人は食料と薬、酒や嗜好品など聖王都では手に入らないような数多くの商品を卸していった。

 日夜、≪未踏領域≫の魔獣が城門を越えないか戦々恐々としている我々にとってはありがたい代物だ。


 食料だけでなく嗜好品の数々は飛ぶように売れていった。


 日々ストレスをためる彼らも、こういう時に羽を伸ばすのは悪くない。

 特に、最近補充された若手は金の使い方というものを知らない。

 幸福というものはチマチマ使うよりいっぺんに使う方がすっきりすると教えてやった。


 城門都市に三日滞在のあと、商隊は聖王都に向かうとのことだった。

 どうやら他方で仕入れたあの嗜好品の数々を卸しに行くらしい。

 確かに、ここの兵士たちの反応を見ればその判断は正しいと言わざる負えない。 


 質、量ともに申し分のない取引。おかげで部下の兵たちの指揮も向上した。

 ぜひまた懇意にしたものだ。


 結局、冒険者数名は≪未踏領域≫からの帰還を確認していない。

 もしかしたら魔獣の餌食になったのかもしれない。

 近頃発生した魔素の活性化に伴う魔獣の凶暴化が原因と思われる。


 以上、定期報告を終了とする。


◇月◆日 曇り


 ≪未踏領域≫嘆きの樹海近辺の経過報告。


 二週間前に城門都市を訪れた三つの商隊が再び、入場の許可を求めてきた。

 前回と同じように、冒険者を護衛にした模様。


 どうやら薬や嗜好品の売り上げが良好らしく、ここにも訪れたらしい。

 道理で食糧の他に薬や嗜好品の量が多いわけだ。

 まったく抜け目のない商人たちである。


 しかし近頃、城内に侵入する魔獣が増えるようになったため薬の補充は大変ありがたい。

 おそらく城門を越えて侵入したと思われる。

 詳しい原因はまだ不明だ。

 今回は、商人の同行者である熟練の冒険者たち活躍によりそれほど被害を受けずに魔獣を討伐することができた。


 城門周辺の見回りを強化するとともに、原因究明に尽力する。


 その後、お礼として商人たちに食事を振る舞うこととなった。

 久しぶりの宴会に加え、我々城門を守護する兵士たちはこの都市を離れられないので商人たちの会話は大変興味深いものだった。


 特に、カルディナ帝国の動きは大変興味深かった。

 戦争が近いというのは本当かもしれない。


 その日は聖王都では大金を稼がせてもらったと自慢げに話し、お開きとなる。


 今回も大量の食糧と薬、嗜好品を卸し三日間の滞在後、ガーディアをあとにする。

 今度はカルディナ帝国に向かうらしい。

 城内の兵士からは惜しまれるようにして送り出されたのが印象的だった。


 まったく、この三日間の取引で何があったのか。

 どうやら商人の卸していった嗜好品が兵たちの間で流行るようになっていた。

 最近来た冒険者たちも同じような嗜好品を手にしていたが、……あれはいったい何という名前だったか忘れてしまった。

 とにかく近頃の若者たちの趣味というものにはついていけない。

 私はあの煙より酒のほうが好きだ。


 しかし、嗜好品に頼らねばやっていけない任務であるというのもまた事実だ。

 今回もまた深夜に魔獣による犠牲者が出た。

 これで十件目だ。

 原因はわかっていない。

 今月に入り、過酷な任務に伴い精神に異常をきたす者が現れ、脱走者まで出るようになった。

 どこに行ったのかすら足取りも掴めない状況だ。

 おそらく夜に脱走しているのだろう。兵士たちの数が合わない。


 それに近頃の樹海は何やら不気味だ。


 未確認の魔獣まで出るようになった。


 さらにいつもなら三日とたたず帰ってくる熟練の冒険者たちが帰ってこない。

 これで十七度目だ。

 ≪未踏領域≫であれ銅階級の冒険者が命を失うとはいうのは珍しくない一人も帰ってこないというのはいささかおかしい。


 そう言えば、始まりの森付近で邪神が誕生したという噂を耳にした。もしかしたら兵士たちの異常や、樹海の活性化はそれが原因かもしれない。

 何かが完全に狂い始めている。


 以上、定期報告を終了する。



◇月●日 快晴。


 やはりおかしい。

 どう対応しても、城内に魔獣が侵入してくる。

 城内はもはや恐慌状態だ。

 これなら脱走者が出てもおかしくはない。

 長くここに勤めていたものからまっさきに消えていく。

 私の友人もついに消えてしまった。


 魔獣の件も脱走の件も誰かが手引きしているのかもしれない。


 近々、聖王都に要請していた応援がくるらしい。

 これで城内の不気味な現象が解決することを願う。


 何か良くないことが起こっているかもしれない。

 あの邪神降臨が元凶でないことを願う。


 五柱の救いがあらんことを。


 以上、定期報告を終了する。


◇月■日 雨。


 本日の定期報告、異常なし。

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