第33話 宇宙の意思

午後5時。


コスモエナジー救世会本部の境内に設置されたステージの中央に、4人の巫女が大きなカウチのようなソファーを運んできた。

東心悟がそれに腰を下ろし、蓮華座のように脚を組む。そして目を半眼にした。

御影が以前言っていた通り、これから東心悟は瞑想に入るようである。


信者たちは皆、静かに祈りを捧げている。


真奈美と山科ら刑事たちはステージ上に目を光らせていた。


・・・私の考えが正しければ、きっとそれはここで起きる。。


真奈美は東心悟の心を読もうとしたが、やはり読めない。

しかし、これは真奈美の想定内であった。


瞑想に入り、5分ほど経過したとき、それは起こった!


瞑想中であった東心悟が突然目をかっと見開いたのだ。

そして両手で胸を押さえた。

ゆっくりと前のめりにステージに崩れ落ちる。


・・・まなぶ。。


その一瞬、今まで一度も読めなかった、東心悟の心の声を真奈美は聞いた。

彼は息子の名を呼んでいた。


巫女たちがあわてて駆け寄り、東心悟の身体を支える。

場内は騒然となった。


「山科さん、早く!私をステージまで連れて行ってください」


その声を聞いた山科は信者の群れに向かって大声を上げた。


「警察だ!通してくれ。道を開けろ!どけ!開けるんだ」


山科の鬼の形相と激しい剣幕に、信者の群れがモーセの海のように割れた。

真奈美は急いでステージに駆け上がる。

そして巫女たちに叫んだ。


「どいてください。私が東心さんを手当てします!」


東心悟の顔は苦悶に歪んでいた。

駆け寄った真奈美は、東心悟の胸を透視した。

肋骨を透かして心臓が見える。

ふたつの冠動脈の位置を探す。探し当てたそれは奇妙な形にねじ曲がっていた。


真奈美は精神を集中して、まだ覚えたてのサイコキネシスを発動した。


・・・冠動脈を、元の形に。。


「・・ううっ。。」


東心悟が呻いたが、その表情は先ほどより和らいでいる。


・・・なんとか上手く行ったようだ。命は助かったはず。


「お父さん!お父さん!大丈夫?」


ステージ脇から、ひとりの少年が目に涙をいっぱいに溜めて走って来た。

東心悟の息子の学である。


学は父親の前にしゃがみ込み、一生懸命に父の胸をさすった。

その心には悲しみと不安が満ちているのを、真奈美は読み取っていた。


「学君、心配しなくていいわ。お父さんはもう大丈夫よ」


口ではそう言いながら、真奈美は学にテレパシーで別の言葉を語りかけた。



・・・あなたがサイキックだったのね。



東心学の心が突然、空っぽになった。


真奈美は学の心の声を聞いた。



・・・僕は宇宙の意思。宇宙の声。愚かな人類を導く超人類だ。。

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