第25話 謎は解けた!

御影と真奈美は翌日からの2日間はほぼ半日ほどを、T大の「脳量子力学研究所」での訓練に費やした。

真奈美の透視能力は御影の期待通りの上達ぶりであった。


「博士・・これは・・いろはカルタですね。”いぬもあるけばぼうにあたる”って」


「お見事ですね。宮下君は、さすが御影君が見込んだだけのことはある。驚くべき力の持ち主だ」


何十年もサイキックを研究してきた真壁博士も驚嘆するほどだ。


しかし一方の御影の訓練の成果は、彼の基準に照らしてはかばかしくはないようだ。


「ダメだ、これでは。どうやっても視床に影響を与えてしまう。松果体だけを潰せなきゃ、とても使い物にならない」


真奈美も革のケースに覆われた頭部模型を透視してみた。

模型の大脳の中央に赤い松果体が見える。

ラテックスで出来たこの部位にサイコキネシスで圧力をかけて押しつぶすのだ。

こんなに小さな部位を周りに影響を与えずに潰すのはかなり難しそうだ。


「でも御影さん、サイキックの松果体ならこれよりは大きいんですよね?ずっとやりやすいんじゃないですか?」


「宮下君、人間の脳はとても繊細で、熟練の外科医でも細心の注意が必要なんだ。こんな不確かな技術で触るわけにはいかないよ」


御影は椅子の背もたれにもたれかかり、大きく伸びをした。


「これはちょっと間に合いそうにないな。明日は最初の予定どおり僕が安田総理の警護、宮下君が東心悟の因縁切りの儀式と二手に別れよう。ん、電話だ」


御影が携帯電話に出る。


「はい御影です。ああそうですか。わかりました、すぐそちらに向かいます。では」


電話を切ると、御影は真奈美に言った。


「穂積君が意識をとり戻したらしい。彼女の精神状態がわからないから、君は会わない方がいいな。もう少し訓練したらS.S.R.I本部に帰っていいよ。じゃあ後ほど」




T大学の門を出てタクシーを拾い、御影は穂積恵子の入院する病院に向かった。

病院に着くと、病室に急ぐ。


個室のベッドに寝ていた穂積恵子は御影の顔を見ると、顔をくしゃくしゃにして泣き出した。


「・・・所長・・どうもすみませんでした。宮下さんに酷いことを言って、こんな騒ぎを起こしてしまって」


「いや君は東心悟に操られていたんだ。君は悪くない。それより気分はどうだい?」


「はい、ずいぶんすっきりしました。ありがとうございます」


穂積恵子はベッドの脇に掛けられていたタオルで涙を拭いながら答えた。


「あのとき、あの東心悟って人が話しかけてきたら、急に激しい怒りが込み上げてきたんですよ。そうしたらもう訳が分からなくなって。。」


「おそらく後催眠暗示だね。東心悟の言葉の中に行動を起こすキーワードが含まれていたんだろう。・・・ん?まてよ。後催眠暗示ということは、その元になる暗示はいつ与えたんだろう?」


御影は重大なことを見落としていたことに気づいた。


「僕は今まで東心悟はあの瞬間に君を思考操作したんだと考えてた。けどそれはあり得ない。僕と宮下君がずっと傍で彼を監視していたんだからね。テレパシーで思考を操ろうとしたら気づかないわけがない。すると・・」


御影はしばらく考え込んでから言った。


「穂積君は以前に東心悟に会ったことはあるかい?」


「いいえ、初対面でした」


「あの日の君の行動を教えてくれないか?」


「行動と言っても・・朝、自宅アパートを出て電車に乗って出勤して、あとは日がな一日事務所で暇してました」


「来客は無かったかい?電話は?」


「はい、ありません」


「んーん。前暗示は当日とは限らないが、効果を考えると当日の方が可能性が高い。電車の中か?しかし通勤電車の混雑の中でテレパシーで暗示を与えるのは難しい。すると残るは・・そうか!」


御影は携帯電話を取り出し電話をかけた。


「あ、山科さん。御影です。お願いがあります。僕の事務所ビルの警備室から防犯カメラ映像を借りてほしい。あ、ちょっと待ってください」


御影は携帯電話を離して穂積に尋ねた。


「君、出勤したのは何時ごろ?」


「だいたい8時半ごろです」


ふたたび電話に話しかける。


「山科さん、午前8時から9時ごろのエレベーターホールとエレベーター内部の映像が見たい。よろしくお願いします」


御影は電話を切ると立ち上がって病室内をうろうろと歩き回った。

まさに居ても立ってもいられないといった様子だ。


「やられたよ。僕たちはやはりミスリードに引っかかっていた。しかし今ようやく謎は解けた!あとは証拠の確認だけだ。僕の考えが正しければ・・これは恐ろしい事件だ。みんな操られていたんだ。敵はただのサイキックではない、サイコパスだ。他人の痛みや苦しみ、命すらなんとも思っていない、自分の欲するものを得るためには他人の命を奪うことをためらわない怪物だ」


御影は再び携帯電話を取り出すと、真奈美に電話をかけた。


「宮下君、御影だ。ああ、穂積君は元気だよ。それより今、僕にはすべての真相が分かった。確認のため一度事務所に戻るよ。例のデパートの防犯カメラの映像だ。やはり僕たちは肝心な部分を見落としていたんだ。あとで寄るから君は本部で待っていてくれたまえ。すべてはそこで話す」


御影は穂積恵子への挨拶もそこそこに病室を飛び出した。

そしてタクシーを拾おうと、病院を出て車道沿いの歩道に出た。


強烈な殺気に気づいたときは、すでに遅かった。

白いワンボックスカーが歩道に乗り上げ、ブレーキもかけずに突っ込んできた。


御影の身体は大きく宙を舞った。

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