第13話 怪物 対 怪物 2

「学、これから大人の話をするから、家に帰っていなさい。ゲームの前に宿題を済ませるんだぞ」


「はい、お父さん。お姉さん、おじさん、またね」


学は神殿横の自宅に歩いて行った。

その後ろ姿に目を細める東心悟は、学に対してはまったく平凡な父親に見える。


「さあ、こちらへ」


東心悟に案内されて入った喫茶室には昨日と違い、数名の信者と思われる人々がコーヒーを飲み談笑していた。

彼らは東心悟の姿に気が付くと一斉に立ち上がった。


「人払いをしたほうがよろしいですかな?」

東心悟が尋ねると、御影が答えた。


「いや、それには及びませんよ」


その言葉を聞いた東心悟が信者たちに告げる。


「皆さん、どうぞそのまま、お茶を楽しんでいてください。私たちのことは気になさらずに」


信者たちは皆軽く会釈をすると、着席した。


「さあ、おふたりもお掛けください」


香り高いコーヒーが運ばれてくると、御影はカップに鼻を近づけてから一口啜った。


「サントスをベースにブレンドしていますね。僕は甘ったるいブルーマウンテンや、酸味の強いキリマンジャロよりも、こちらの方が好みです。絶妙なブレンドですね。美味い」


「会員の中にコーヒー豆の輸入会社を経営している人が居るんですよ。豆の鮮度にもこだわっています。私の好みでブレンドしていますが、お口に合ってよかったです。さて、今日のご用件は何でしょうか?」


東心悟が話を促すと、御影はまた人懐っこそうに微笑んだ。


「いや、ご用件という程ではないのですがね。私もあなたに一度お会いしたかったのです。どの程度の力をお持ちかも知りたかったが、先ほどのデモンストレーションで大体分かりました」


「ははは・・デモンストレーションですか。稀代のサイキックの御影純一さんから見て、私の能力はいかがでしたかな?」


「あの襲い掛かって来た会員さんたちの気管を念動力サイコキネシスで締めましたね。あなたなら他人の心臓を止めることも簡単にできるでしょうね」


御影は笑みを絶やさずに言った。


「それはあなたも同様でしょう。そう、我々は法に触れることなく殺人が可能だ。あなたはよくご存じじゃないですか?」


「・・・・」


・・・所長も同じことを言っていた。そのときも御影さんは黙り込んだ。もしや御影さんは念動力サイコキネシスで人を殺したことがあるのでは?


真奈美は思った。


傍目にはこのふたりの会話は和やかな談笑に見えるかもしれない。

しかし、これは怪物たちの腹の探り合いなのだ。

真剣を持った、ふたりの居合の達人が向かい合っているような緊迫感を真奈美は感じていた。


「私が予知した首相の健康上の危機が訪れるのは明日を含めて5日後です。私はその日一日、ここに居ます。一般会員の皆さんを集めての因縁切りの大集会が行われるのです」


「・・・・」


「だから私には首相を殺すことはできない。そう思いませんか?もし出来るとするならば・・・」


東心悟は口の端を大きく吊り上げて、笑みを浮かべたが目は笑っていない。


「私は御影さんより強い力を持っていることになりますな」


「・・・・」


真奈美は御影のこめかみを汗が伝うのを見た。

御影の笑みはすでに消えていた。稀代のサイキックである御影が明らかに劣勢に立っている。


「東心さん・・僕は必ずあなたを止めてみせる。たとえあなたの力が僕を上回っているとしても」


「ほう?それなら今やればいい。目の前に居ますよ。あなたがちょっと力を加えればすべてが終わるでしょう」


一瞬、御影は東心悟の顔を鋭い目で睨みつけたが、すぐに表情を緩めて真奈美の方に顔を向けた。


「うん大体分かった。宮下君、そろそろおいとまさせてもらおう。東心さん、美味しいコーヒーご馳走様でした」


御影は立ち上がった。

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