第112話

『――ほら、邪魔だよっ!!』

「ぐ……っ!」


 レンが呆然としていると、ナフィの顔をした魔王はレンの身体を蹴り飛ばした。

 レンは即座に体勢を整え、再び魔王の元へと向かう。


 そして、首目掛けて短剣を滑らせる。

 だが、


『……どうしたの?ほら、切れるでしょ?』


 直前で短剣は止まった。

 いくら動かそうとしても、理性がそれを拒んでしまう。


「……レン!退けっ!」


 ゲンスが大きな白い狼の姿になり、魔王に攻撃を仕掛けた。

 レンはイリヤたちのいる方へと戻る。


 だが、ゲンスの攻撃は目の前で見えない何かに防がれた。


「――なっ!?」

『ああ、そう言えば言ってなかったっけ。私に攻撃は当てられない。あなた達は違う・・から』

「……違う、だと?」

『そう、違う。違うからこそ、魔法も使えない・・・・・・・


 その言葉を表すかのように、レンがいくら魔法を発動しようとしても発動するような気配がなかった。


「……なん、で!?」

『ここは私の空間、生かすも殺すも私の自由でしょう?』


 レンはギッと歯を食いしばると、叫んだ。


狂戦化バーサーク!身体を好きに動かせ!!」


 そう言うと、身体が勝手に動き出す。


 魔力を身体全体に回し、身体強化。

 そして、『魔眼』を使いまくる。


 麻痺、石化、暗闇等々。

 だが、それらを使っても一切効果は表れなかった。


『無駄だよ。ここでそんなものは通じない』


 それでも、レンは短剣での攻撃を続ける。

 どれだけ防がれようとも、できることはこれしかないから。


 すると、イリヤたちも大きな獣の姿になって攻撃を始める。

 結果は何も変わらないけれども、それでも何もしないという選択肢はなかった。


『……いい加減、鬱陶しい』


 魔王がそう言うと、魔王を中心に衝撃が駆け抜けた。

 それによりレンたちは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


『……ああ、もう少し遊んでやろうかと思ってたけど、今はそろそろ限界か。仕方ない、苦しませずに殺してやる』


 魔王がそう言うと、姿が元の黒いモヤへと変化する。

 そして、レンたちの叩きつけられた壁がドロっとした液体へと変化した。


「「「「「――っ!」」」」」

『そのまま飲み込まれて、死ね。なに、安心しろ。お前らの星はちゃんと壊してやる』

「……そんなこと、させない!!――大おば様!」


 本当に何かが起こるのか、それはわからない。

 でも、今はほんの少しの望みだろうと賭けたかった。


 すると、首元に潜んでいたプラムが這い出て来る。

 そして地面に降り立つと、4つに分裂した。


 うねうねとそれぞれ動き出すと、ゲル状の身体が人型に変化していく。


「――全く、こりゃ酷いもんじゃのぉ」

「――ほんと、良くもまぁここまでやったよな。あいつら・・・・

「私たちの問題にこの子たちを巻き込んで、私たちは一体なにをやっていたのかしらね。最後くらい、責任は私たちが取らないと」

「そのために、今はアイツらの創ったものを壊さねぇとな」

『な、なんだお前らは!?』

「あーあー、うるさいうるさい。――少し待て」


 男の声でそう言うと、魔王の身体がぴたりと止まった。

 身をよじるかのようにモヤが揺れているが、それ以外の行動は出来ないようだ。


「――っ!大おば様っ!」


 現れたのは4人の男女。

 ひとりはレンにとって見慣れた女性だった。


「レン。よくここまでがんばったのぉ。あとはわしらに任せぃ」

「……うん。うんっ!」

「……それにしても、狂戦化を使いおったな」


 大おば様は少しだけ責めるような顔でレンにそういった。


「……ごめん」

「いや、それをしなければならなかったんじゃろう。ただ……そのままだとお主は……死んでしまうじゃろうな」

「…………」


 ある意味、覚悟していた事だ。

 レンの右腕を覆い尽くしていた水晶は、今となっては右半身全体を埋め尽くすほどになっている。


 唯一、足先だけは覆われていないが、それ以外は覆われて感覚が曖昧になってしまっている。

 右目は霞んでほとんど見えていない。


「……そうか、知っておるか。死ぬ覚悟も出来ておるわけじゃな。だが、このまま死なせるわけにはいかん。水晶に覆われた右目と右腕は諦める他ないが、それ以外はなんとかなるじゃろう。――頼めるか、ナツホ」

「……仮初の命とはいえ、復活してすぐにそれは酷いよ、キヌエ。まぁ、私の分身が元の場所に戻るだけなんだけどさ」

「……何を?」


 レンは不安そうな表情で、やってきた女性にそう問いかける。


「……あなたから、あなたを蝕む狂戦化を抜き取るわ。そうすればあなたは生き長らえる」

「……え」

「安心して。私たちはこの世界を元の状態に戻そうとしてるだけよ。――魔物の存在しない、平和な世界に」


 女性はそう言うと、レンの頭に手を乗せる。


「あなた達が次に目を覚ます時には、元の世界に戻ってるわ」


 何かが吸い取られていくような感覚を覚える。

 それと同時に意識が朦朧とし始めた。


 右半身を覆っていた水晶が細かな結晶となって宙を舞い始めた。


「……あなたたちは必ず元の世界に戻してみせるわ」


 その言葉を最後に、レンは意識を失った。







「……さぁ、世界を救うとしようかの」

「……ええ」

「まずは、あいつを倒すとしよう。魔王スレイマン、いや梅澤研究長を」

「ああ。あいつは許さねぇ」

「今は動きを止めている。さっさとトドメを刺すぞ。向こうの世界の奴も殺さねぇといけねぇからな」

「俺が刺していいか?」

「おう、やれ」

「わしは次元の門の準備をしておこう」

「よろしく頼む」


「『凝結』」


 男がそう言うと、魔王の体を模していたモヤが球体状に固まる。

 それを、男が剣で破壊した。


「次元の門、準備完了じゃ」

「なら、行くとしよう」

「いや、少し待ってくれ。あの子らを外にいる儂の知り合いに送る」

「分かった」


 シルクが風の魔法で、4人を扉の向こうへ運んでいく。

 目的地はクリスのところ。


「……さぁ、行こうか」

「「「おう(ええ)」」」


 4人は次元の門の中に入っていった。







「――魔王スレイマン消滅!梅澤所長、浮上します!」

「なに!?誰が!?」

「――っ!?実験体一号から四号の存在を確認!次元の門を通過中です!」

「なんだと!?向こうの世界で200年は経っているはずだぞ!生きてるはずがない!……なんにせよ次元の門の通過はまずい!ブロックしろ!」

「――無理です!押し通られます!」

「――!」


 轟音と共に、研究所の中央に大きな門が出現した。


「――何故お前らが生きている!実験体共!?」

「…………」


 4人は無言で武器を構える。

 そして、振り下ろした。

 それだけで研究所は四分割される。


 その後も振り続け、研究所の大半は壊し終わった。


「梅澤の野郎は!?」

「地下から逃走中じゃ!」

「殺す!」


 その後間もなく、梅澤と呼ばれた男はこの世界から消滅した。




 荒野の中に造られた、ガラスに囲まれた空間。

 人間の唯一生活できる空間だ。


 この星、地球・・に資源はもうほとんど残っていない。

 だからこそ、別の星から資源を得ようという話になるのも必然だった。


 だが、欲望を膨らませた人間たちは、その世界を征服しようと考えた。

 それが、ソロモン72柱を元にした異形の悪魔をその世界に召喚すること。


 そして、いつかはその星の人間を消滅させ、地球に存在する人間たちをその星に移住させようとしていた。

 それを知ったシルク達がどうにか防ごうとし、失敗したという訳だ。


 この後、地球に存在する生物は全て絶滅するだろう。

 研究所を破壊した今、それをどうにかする手立てはない。


「……これで、良かったんだよな?」

「……愚かな人間たちの罪でこうなっているんじゃ。それに関係の無い人間たちを巻き込むなんてことはあってはならんからの」

「……そう、だな。じゃあ、死人の俺たちは大人しく土に還るとしようか」

「そう、ね。じゃあ、さようなら」

「おう、さようならだ」


 4人は頷くと、スライムの身体を土に染み込ませていった。






「……う、ん」


 レンはゆっくりと目を開ける。


「……まぶ、しい」


 窓から差し込む、太陽の光。

 そして、懐かしい部屋。


「……帰って、来たんだ」


 レンはゆっくりと立ち上がり、外に出る。


「――レン!!」

「……おじさん」

「良かった!二週間も目を覚まさねぇから心配したんだぞ!」

「……二週間」


 そこで、ふとレンは思い出した。


「――そうだ!イリヤたちは?」

「嬢ちゃんたちは広場で剣を振ってるぞ」

「行ってくる!」

「おう、気ぃつけてな」


 レンは足をびっこひきながら歩いていく。

 

「――わっ!」

「……危ない!」


 レンが転びそうになると、横から支えられた。


「ありがとう、イリヤ」

「……うん、気を付けてよ。……あと、おかえり」

「……うん、ただいま」


 レンはイリヤに肩を貸してもらいながら広場に向かっていく。


「……イリヤたちは何をしてるの?」

「模擬戦をしてたの。魔物がいなくなったと言っても、危険はまだあると思うからね」

「……そっか」


 レンが広場に着くと、3人が近寄ってくる。


「ん、レン、おはよう。平気?」

「おうレン!元気か?」

「……おはよう」


 4人が何故ここにいるのか、それを聞くと帰れなくなったらしい。

 帰る方法として、魔界の門を通る方法があるが、その肝心の門が存在しないらしい。


 なので、この村で生活することになったようだ。


 魔物のいなくなったこの世界がどう発展していくのか、それはわからない。

 でも、きっと今までとは違った世界になるのだろう。


 レンは空を見上げ、呟いた。


「……おはよう」


 この世界の物語は、このあとも紡がれていく。







                END

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狂戦化(バーサーク)は使わない!? 輝時雨 @kishigure

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