第111話

 パンっと、大きな音がレンの頬から鳴った。

 イリヤがレンを平手で叩いたのだ。


「……あなた、自分が何をしたのか分かってる?あなただけじゃなくて、他のみんなも危険に晒したの」

「……うん」

「あなたがあの時。何を思ってやったのかは知らない。でも、今あなたは一人で戦っているわけじゃないの。それを忘れないでちょうだい」

「……ごめん」


 イリヤはそれだけ言うと、改めて向き直った。


「――さて、過程はどうであれ、こうして生きているわけだから先を見据えましょうか。おそらく、あれが最後の門、魔王のいるところでしょう」


 イリヤはそう言って、後ろを指さした。


 後ろには長い階段があり、その先には金色に装飾された荘厳な雰囲気の大きな扉。

 今まで見てきた扉とは明らかに違っていた。


「これが、私たちにとっての最後の戦い。必ず、生きて帰りましょう!」

「「「「おう(ん)!」」」」


 全員で、踏みしめるように一歩一歩階段を登っていく。

 イリヤが代表して扉を押すと、門は大きな音を立てながらゆっくりと開いていった。


「――行くよ!!」


 全員が中に入ると、扉が閉まった。

 そして、辺りを暗闇が支配する。


『――くくくく……!よく来たな、愚か者共』


 その、年齢性別の一切がわからない声が聞こえたかと思うと、辺りの壁に火が灯る。

 そして、レンたちの見つめる視線の先には玉座があり、そこには深淵の闇を思わせるような黒いモヤが立ち込めていた。


『来て早々ではあるが、死ね』

「――っ!」


 イリヤが瞬間的に大きな白い狐の姿に変化する。

 そして、飛んでくる何かを弾いた。


 だが、数が多く防ぎきれない。

 イリヤの身体中に傷が付き始める。


「このままじゃ、無理……!」

「――『身体強化:眼』」


 レンが眼を強化すると、飛んできているものが何か分かった。

 飛んできているものは、魔力で出来た弾丸。

 それに、鉄で出来た実弾も混じっている。

 それが無数もモヤから飛んできていた。


「イリヤ!飛んできているのは魔力の弾丸!」

「――どうりで私の身体に傷が……!」


 イリヤはギリッと歯を食いしばると、


「ゲンス!ラード!マフカ!レン!突撃!!」

「「「「――おう(ん)っ!」」」」

『くくくっ、わざわざ死にに来るか。いいだろう、殺してやる』


 各々が自分の出せる最高の技を魔王に叩き込む。

 だが、


『……脆い、弱い。我と戦うにはあまりにも弱すぎる』

「「「「「――っ!」」」」」


 魔王には一切のダメージも与えられていなかった。

 そして、パキッと音と共にレン以外の全員の武器が壊れた。


「「「「「な……っ!」」」」」

『くくくくくく……っ!武器の能力に頼りすぎたな』

「……ちぃっ!」

「――レン!!」


 レンは短剣に魔力を思い切り込め、黒いモヤを切り刻む。

 だが、斬ったという感覚が一切しなかった。


『……どうした?それで終わりか??』

「――っ!『狂戦化バーサーク』!」


 だがそれでも、結果は変わらなかった。


『くくくっ』

「何がおかしい……!」

『いや何、人間というのは脆いものだな、と思ってなぁ』

「……なに?」

『なにせ、こうすればお前は途端にその威勢の良さは無くなるだろう?――ねぇレン?』

「――っ!!なん、で……」


 魔王の姿は黒いモヤではなくなり、レンのよく知る人物になっていた。


 それは、今この時、この場所にいるはずじゃない人。

 レンにとっての、初恋の人。


『そんなに難しいことじゃないよ。レンの記憶から読み取ればいいから』


 ナフィ・・・が、そこにいた。

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