第107話

 黒いモヤがレンの周りを包み込むと、身体が変化していく。

 髪は黒く、目は金色に。

 髪も伸びたが、まぁそれはいいだろう。


 ふと、右腕に些細な違和感を感じた。

 見てみると、そこには紫色の小さな水晶のようなものが生えている。

 場所は前に痣のあった場所、嫌な予感しかしない。


 痣は前に触っただけで意識が飛びそうになるのだから、この水晶が割れでもしたら死ぬような気がする。

 極力気をつけよう、と思いつつも狂戦化バーサークをしているのでなんとも言えない。


「……ま、そんなことより目の前、だね」


 レンはそう言い、2本の短剣を構える。

 モヤが晴れると同時に、レンは敵に向かって突撃した。


『――なっ!黒髪……勇者だと!?』

『なに!?』

『勇者は、百年以上前に全員死んでるはずだ!』


 かなりの速度で移動したが、目で追いかけられている。

 だが、魔人たちは動揺していて隙だらけだった。


「まずは、一匹」


 一番近くにいた魔人の首を斬り落とす。

 魔人たちがそれに気づく前に、もう一体の首を掻っ切った。


「二匹」


 だが、そこまで。

 もう一体殺ろうとしたところで、殺気を感じて飛び退いた。


 直後、自分のいた所が陥没した。


『よくも、やってくれたね』


 現れたのは先程レンを吹き飛ばした魔人。

 レンは即座に後ろに回り込み、首に向けて短剣を振る。

 しかし、


『右後ろ、首、短剣』

『わかった』

「――っ!?」


 誰かの声が聞こえたかと思えば、レンの短剣が防がれた。

 さらに、


『左後ろ、脇、飛び蹴り。――前、頭、短剣』

「――――っ!?!?」


 反応できていないはずなのに、全てが対処される。

 予め、未来が分かっているかのように。


「……未来?」

『あれ、気づいちゃった?そうだよ、ヴァサゴがいる限り、君がどこから何を狙っているのか分かる。初めに狙うべき相手を間違えたね』

「……なら、その未来予知よりも速く動けばいい!」


 そう言うと、レンは再び首を狙う。


『左後ろ、首、短剣』

『だから、バレてるんだって』

「……」


 レンは何も言わず、短剣をに突き立てた。


『――っ!?』

「狙う場所が口頭で聞こえてくるんだから、それを聞いた後に違う場所を狙えばいい、と思ったけど、正解だったみたい、だね……っ!」


 レンはそのまま頭に向けて短剣を持ち上げ、殺す。


「三匹」


 レンはそのまま未来を見ていたやつを殺すべく走り、


「よんひ――っ!?」


 ふと、足元が大きく揺れバランスを崩す。


『イアルス・ビンド』


 地面から鉄の鎖が飛び出し、レンを縛ろうとする。

 咄嗟に短剣で目の前の一本だけ斬り、抜け出す。

 そして駆け出し、


「四匹……!」


 未来予知をしていたやつを殺した。

 するとまたも足元が揺れ、バランスを崩しそうになった所を鉄の鎖が出てきた。


「それはさっき見た!」


 レンは空を蹴り、飛び上がる。

 そして、一閃。


「五匹」


 足元を揺らすやつを殺した。

 それと同時に、空から岩陰に隠れているやつも見つけたので、『影潜りシャドウダイブ』で目の前に移動し首を斬る。


「六匹。あと何体だ……!」


 レンは『千里眼』で辺りを見回そうとする。

 しかし、バチィっと弾かれたようにした発動しなかった。


「……っ?」


 なぜ発動しなかったのかは分からないが、取り敢えず『魔眼:魔力感知』を使ってから辺りを見回すと四つの人影とひとつの大きな影が見つかった。

 人影のひとつと大きな影はおじさんとレックスで間違いないので、恐らく魔人はあと三体。


 そいつらは、レンのいる方を気にしながら城の方へと走っていた。


「……逃がさない」







『生贄、生贄さえあれば……!こんなやつ、苦戦しなかったのに……』

『……くそ、が』

『……やられた、か』


 レンは追いつき、3人の首を掻っ切った。

 その時の3人の最後のセリフが、以上のものだった。


「……ふぅ」


 レンは狂戦化バーサークを解除し、おじさんたちの元へと戻る。

 レックスは先程と変わらず、倒れたままだ。


 ただ、さっきよりは俄然顔色がいい気がする。


「……レン。行く、のか?」


 おじさんが不安そうな顔でそう聞いてくる。


「……うん、僕は行く。魔王を倒しにね。おじさんはレックスを見といてよ」

「それはいいが……大丈夫なのか?」

「なにが?」

「腕が、だ。酷いことになってるだろう」

「……ああ」


 レンは右腕を持ち上げ、見てみる。

 そこには以前あったような痣、なんてレベルではなく、紫色の水晶が腕中をびっしりと覆っていた。


「……まぁ、大丈夫だよ」

「本当か?」

「……正直、分からない。このまま死んじゃうかもしれないし、生きて帰れるかもしれない。でも、不思議と怖くはないんだ」


 レンはそう言うと、おじさんを見てニッと笑う。


「もしかしたら、ナフィたちが見守ってくれてるのかもしれないね」

「……そう、か。なら、安心だな。お前たちは仲が良いんだから」

「でしょ?」


 おじさんは悲しそうな表情をしながら、こう言う。


「死ぬなよ」

「もちろん。簡単に死ぬつもりは無いよ」


 レンは顔を引き締め、そう言った。


「行ってこい。村で俺が料理を作って待っといてやる」

「うん。楽しみにしてる。あ、カエルとかはやめてね?」

「お、おう」


 おじさんは軽く目を逸らしながら、そう言った。


 ちなみにカエル云々っていうのは、おじさんがレンたちのために作った料理だったり。

 カエルの肉を何の肉か言わずに食わされたものだから、知らされた時にみんな絶叫した。


 そのとき、おじさんがカエルは美味いんだぞ!?と驚いていたけれども、そういうことではない。

 美味いかどうかじゃなくて、何が使われているのかの方が大事だった。


 それ以来軽くトラウマになっている。


「……じゃあ、行ってきます」

「……頑張れ」


 レンはそう言うと、門の奥へと進んでいった。

 おじさんの料理がどんなものであれ、それを食べることができるのは生きて帰った場合のみだ。


 おじさんを悲しませないためにも、なんとしてでも生き残らないといけない。

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