第101話

「――ん、んん……。……っ!」


 レンはがばっと、飛び上がるようにして起き上がる。


「今はっ!いつ!?」


 大おば様の胸に短剣を突き立ててからの記憶が一切ない。

 ふとベッドの方を見ると、短剣がベッドに突き刺さっており、大おば様の姿は見当たらなかった。


 レンは窓の方に近づき、外を見る。

 窓からは村の東側を見ることが出来る。

 なので、そこからは東側にいる兵士たちの姿を確認できた。


 兵士たちも困惑しているようで、話し合っているようだ。


 だが、そこでレンは違和感を覚える。

 あまりにも、兵士の数が始め見た時よりものだ。

 レンが見た時には、最低でも100人はいたはずだ。

 しかし、見える限りでも30人程度しか見当たらない。


 それに、


「……僕が大おば様を殺した時は、夕方だったはず」


 日が、高く昇っているのだ。

 時間的には既にお昼頃のはず。

 だからこそ、今がいつなのか分からない。


 夕方か、空が真っ暗であれば少しだと考えることも出来ただろう。

 だが今は日が高く昇っている。


 レンたちが一体どれくらい気を失っていたのか。

 皆目見当もつかなかった。


 すると、


『ギュワァァアアアアアッ!』


 近くから、鳥の叫び声のようなものが聞こえてくる。

 何かの崩れるような音が聞こえ、そして外を見ていたレンはそれを目撃する。


「……赤い、鳥?」


 空高くに飛び上がり、ある一方向へと真っ直ぐにその鳥は飛んでいく。

 レンは呆然とそれを見ていたが、慌てたようにおじさんが部屋に入ってきた。


「――レン!今すぐに支度をしてあの鳥を!」

「え、ま、護るの!?倒すんじゃなくて!?」

「そうだ!あの鳥は朱雀といって、魔王軍を倒すのに必要なんだ!あの鳥を、朱雀を皇国まで護り抜け!」

「お、おじさんは!?」

「俺も行く!だから早くしろ!」

「わ、分かった!」


 レンは短剣を回収し、外に出る。

 幸いにも、レンに宛てがわれた部屋には何も置いてきていないので、直ぐに出ることが出来た。


「俺は兵士たちに事情を説明してから追いかける!すぐに追いつくから先に行っててくれ!」

「分かった!」


 レンはただただ朱雀を追いかけることに集中する。

 途中、魔物に襲われそうになったが、全て避けて通った。


 山を越えた辺りで、後ろからおじさんが追いついてきた。


「――レン!」

「おじさん!兵士さんたちは!?」

「後から追いつくように説明しておいた!今は朱雀を護るんだ!きっと魔人共は朱雀を殺しにかかるぞ!」

「分かった!」


 そのままずっと走り続け、レンたちは半日ほどでルイス様の街に着いた。

 だがそこで、レンは強大な力を感知した。


「おじさん!」

「――っ!おうよ!」


 おじさんはレンが呼んだだけで、どういうことか察してくれた。


 気配は、空に2つと森から1つ。

 森の方は、レンが『千里眼』で確認したところ、前に見た洞窟から何かが現れているようだ。

 しかし、森の方は後でもまだ時間的猶予はある。

 なので、先に空にある気配、魔人を倒すのを優先する。


 魔人たちは朱雀を追いかけている。

 その速さはレンたちよりも圧倒的に速く、直ぐに追いついてしまうだろう。


「レン!魔法を!」

「う、うん!『氷槍アイスランス』!」


 レンは氷の槍を2つ出現させ、魔人に向けて放つ。

 すると、放つ速さが上がっていることに気づいた。


 それと同時に、1つ違和感を覚える。


(魔素が、少なくなってる?)


 レンにとっては気にするほどではないにしても、魔力消費が1割から2割程度増えているように感じた。

 普通の人からすると、その1割から2割がとても大きなものに感じるのではないだろうか。


 それはさておき、レンの放った魔法は魔人に当たらず、簡単に避けられてしまった。

 だが、意識をこちら側に向けることに成功した。


『おいおい、危ねぇじゃねぇか。――って、なんだお前か。バティン様、気にせず朱雀を殺しましょうぜ』

『……いや、あいつ誰だ』

『はぃ?いや、前に俺らの任務を邪魔した奴ですよ。忘れたんですか?』

『違う。顔も身体の形も同じなのは理解している。だが、俺たちが戦ったひと月前よりも強くなりすぎている。そんなこと、有り得るわけが無い。たとえ勇者であろうとな』

『へ、へぇ?』

『降りるぞ』


 バティンはそう言うと、セーレを連れて地面に降り立った。


『ふむ。全然違うな!近づくとよく分かる!ああ、うずうずする!我慢出来ねぇ!どうして強くなったのか、戦いをもって見せてもらうぞ!人間!』

『ちょっ!バティン様!?』

「ちぃ!これじゃあ朱雀を護れねぇぞ!レン!」

「じゃあおじさんは先に行って朱雀を護って!僕はこいつらを倒す!」


 レンは突撃してきたバティンの攻撃をさばき、おじさんに向けてそう言う。


「……ちっ!さっさと倒して来いよ!」

「……うん!努力する!」


 そう言うと、おじさんは走り去った。


『……なぁ、俺ぁ何すりゃいんだ』


 セーレが困惑した様子でそう言うが、バティンは笑いながら、


『知るかぁ!自分で考えろぉ!ははっ!こんなに楽しいのは久しぶりだなぁ!人間!』

「うるっさい!あぁもう!時間がないってのに!」

『ははははっ!俺らが朱雀を倒さなくてもきっと他の奴らがやるだろうさ!気にせずゆっくりと、楽しもうじゃないか!』


 レンはこのままではジリ貧であることは分かっているので、大おば様から貰った知識から魔法を引き出す。

 威力は分からないが、名前だけで強そうな魔法を放つ。


「これならっ!『時空斬』!」


 レンの前に斬撃の残ったような形の魔法が現れ、バティンの方へとゆっくりと進んでいく。


『なんだぁ!?その『風刃ウインドカッター』をゆっくりとしたようなヒョロそうな魔法は!?はっ、その魔法、斬ってやる!』

『ちょっ、ば、バティン様!?その魔法、やばいですって!?』

『オラよォ!』


 バティンは剣を取り出し、魔法に向けて剣を振り下ろした。

 すると、


『な、何!?』


 バティンの持っていた剣の、魔法に当たったところが消滅した。

 それでもなお、魔法は消えず、バティンの肉体に当たった。


『は、はっ!効かねぇな』


 魔法はバティンに受け止められたかのように、バティンの腹の目の前で止まっている。

 だが、それは一瞬のことで、


『お、ぉぉおおおおおお!?』


 魔法はバティンの肉体を斬って、いや、触れたところを消滅させる。

 前腹が消滅し、バティンの上半身が前のめりに倒れる。

 そして、そのまま魔法に当たり、消滅した。


 残された下半身は、そのまま前のめりに倒れ、動かなくなった。

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