第100話

「……そうか、ありがとうのぉ」


 大おば様はレンの言葉に、ふっと笑ってそう言った。


「じゃあ、明日はレンとゆっくり過ごして、最期の時を迎えようかの」

「……うんっ」


 レンは泣きそうになるのを堪えながらそう言い、大おば様はレンの頭を優しく撫でる。


「……今日はここで寝るかの?」

「……うん」


 レンは大おば様のベッドに入り、大おば様に撫でられながらゆっくりと眠りに落ちる。

 この時ばかりは、レンは小さな子どものようだった。






 翌日。

 レンと大おば様は昔話に花を咲かせる。


 昔のレンはこうだった、とかギリーたちとの冒険話。

 メリダに怒られたことも、今となってはとても懐かしい思い出だ。


 こういった楽しい時間は直ぐに経ってしまうもので、あっという間に夕方になる。


「――さて、そろそろ死ぬ準備をしとくかの」

「……うん」


 大おば様はベッドから届く位置にある戸棚から、水色の透明な水晶を取り出す。


「……それは?」

「これは最後の切り札。使わないのが一番じゃが、どうしようもなくなったら使うんじゃ」

「……使ったらどうなるの?」

「それは内緒じゃ。それに頼ってはいかんからの」

「……そっか、それでどうするの?ずっと僕が持ってればいい?」

「いや」


 大おば様はそう言うと、その水晶をレンの首元に持ってくる。

 そこには、首から下と同化していたプラムがおり、プラムは与えられた水晶を飲み込む。


「……え?」

「これはお主のスライム、プラムに飲み込ませる。もしもの時はわしに助けを呼べば発動するじゃろう。まぁ、わしが助けられるわけではないんじゃがな」


 そう言いながら、大おば様はどんどんとプラムに水晶を飲み込ませる。

 プラムは6個ばかり飲み込んだところで、次の水晶を吸収しなくなった。


「……おや、もう限界かぇ」


 そう言うと、大おば様は戸棚からさらに、大きな魔石をプラムに与える。

 すると、プラムが大きくなり、分裂したような気がした。


「……ふむ。まぁこれで全部入るじゃろ」


 大おば様はそう言うと、残りの水晶を全て与えた。

 計10個、それがプラムの飲み込んだ水晶の数だ。


「うむ!これでわしに憂いはない。もうあとはレンに全ての力を与えるために、殺してもらうだけじゃ」

「……うん」

「レン、わしを殺すときに狂戦化を使うんじゃ。それが、一番わしの全てを吸収できる」

「……え」

「レン、わしはお主に狂戦化を使うなと言った。じゃが、もしも命の危険があった時、使える力を使わないというのは愚策じゃ。わしは、今こそその力を使って欲しいと思っておる。なにせ、人の魂を含めた全てを吸収できるんじゃからな。じゃが、それを使わないでわしの能力を全て与えることは出来ない。使うにより、わしがレンに与えた猶予は消えてしまうが、ここから先はその力を使ったとしても打倒できるものではないんじゃ。だから、狂戦化を使ってわしを一思いに殺すんじゃ」

「そんな……。――――うん、わかった。『狂戦化バーサーク』」

「そうじゃ、それでわしを殺せ」


 レンは少し考え、狂戦化を発動する。

 そして、大おば様は腕を広げ、レンはその開いた胸に短剣を深く押し込んだ。


「……くふっ。そう、それで、いい」


 大おば様は血を吐きながらそう言い、息絶えた。

 その直後、世界はゴゴゴと音を立てながら震える。


 この世界の住民全ては、直後に起こった押し付けるような頭痛に耐えられず、全ての人が強制的に眠りに落ちた。


 世界は、元の形へと変化する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます