最終章

第98話

 レンは行きと同じく9日かけてルイス様の領地へと着いた。

 そこで、レンは乗っていた馬車を売り払う。


 一応厩という、一日いくらといった感じで預かって貰えるところはあったのだが、レンはあえて売り払った。

 なぜなら、ここから村まで馬車に乗っていくには道が厳しく、何よりいつまで預けることになるか分からないからだ。


 最終的に預かって貰っている期間を過ぎると、その馬車は売りに出される。

 結果的にそうなる可能性があるのであれば、売ってしまった方が気持ち的にいいと考えたのだ。


 そしてレンは街で食料を買い、一日滞在した後村へと向かった。





 3日後、レンは村の近くへと着いた。

 しかし、村が近づくにつれて今までとは違った様子を出していることに気づく。


「……なに、あれ」


 それは、村の周囲に何やら鎧を着た兵士と思われる者たちが多くおり、また村の周囲を巡回しているのだ。


 今まではもちろんそんな者たちはいなかった。

 ここ1ヶ月もない間に来たのだろうが、なぜいるのかよく分からない。


「……とりあえず、行ってみよう」


 レンは警戒を解くことなく、村へと近づいていく。


 そして、村が目と鼻の先になった時、ある兵士がレンの元に近づいてきて尋ねてくる。


「――君、ここに何か用かい?」


 レンは逆になぜあなたたちはここにいるんですか、と言いたくなるのをぐっと堪えて答える。


「大おば様に、1ヶ月したら帰ってこいと言われたので」

「ふむ……」


 レンがそう言うと、兵士は何やら考えるような素振りを見せ、レンに再び尋ねる。


「君、名前は?」

「……レン」

「――ああ!君がか……!分かった、引き止めて悪かったね」


 兵士は何やら合点がいった、といわんばかりの様子で、再び職務に戻る。

 レンはよく分からないやり取りに疑問を持ちつつ、大おば様がいるであろう神社へと向かっていった。





「――ただいまー。大おば様、いる?」


 レンが神社の玄関から入り、そう言うとおじさんがレンの元にやってくる。


「おう、レン。ちょうど良かった」


 おじさんは落ち着いたような表情をしつつも、動きが慌ただしい。

 何かあったと考えるべきなのだろうか。


「――婆さん。レンを連れてきた」

「……ん。レンだけを入れてお主は下がっておれ」

「はい」


 レンはひとつの部屋に案内される。

 そこは大おば様の寝室で、中にいるであろう大おば様の声は弱々しかった。


「……大おば様、入るよ」


 レンはそう人声掛け、ドアを開ける。

 すると目に飛び込んで来たのは、医者と思われる人が、寝ている大おば様を診察していた。


「……大おば様?」


 レンがそう声をかけると、大おば様はゆっくりと目を開ける。


「……レン。よく、帰ってきたのぉ」

「うん。いや、それより大おば様。どこか悪いの?」


 レンがそう問掛けると、大おば様は儚げに笑った。


「そう、じゃのぉ。確かにもう、限界じゃのぉ」

「……限界って」

「命の、じゃよ」


 大おば様はそう言うと、ベッドの近くに立っているレンを近くへと引き寄せる。

 そして、医者と思われる人を手振りで部屋から追い出した。


 大おば様はレンの頭を優しく撫でながら、話し始める。


「……わしは、3日後に死ぬ」

「……え?」

「わしは、3日後に。この世界は本来起こるべき現象を思い出したように引き起こすじゃろうな」

「……どういうこと」


 大おば様の言ったこと、それがレンには一切理解が出来なかった。


「わしの固有能力ユニークスキル、『フィクション』は少ない回数制限こそあれど、起こった現象をなかったことにすることが出来るもの。今までは、わしが死んだということをなかったことにする。それで再び同じ年月を生きることが出来ていたわけじゃ。じゃが、その回数はもうない。そして、わしがなかったことにした現象は、わしが死ぬと同時に世界のあるべき姿へと変わる」

「……え」

「およそ200年にも及ぶ世界改変は、この世界に甚大な被害をもたらすじゃろうな。じゃが……そうしなければこの世界はもう既に終わってしまっていたやもしれん。わしがしてきたことはただの時間稼ぎに過ぎん。じゃが、それもレンが生まれて来てくれたことでようやく目処がたった」

「……僕?」


 レンには大おば様の話していることを全部理解出来ているとは言い難い。

 だが、この世界が危険な状況であるのは分かった。


「そうじゃ。レンの固有能力ユニークスキルがあればこの世界は救われるじゃろう」

「え、で、でもっ!僕は魔人相手に負けるんだよ!?ましてや世界を救うなんて、出来るわけない!」

「それをどうにかするために、わしはおる」

「……え?」


 大おば様はレンの目を真っ直ぐ見つめ、


「レン。わしを殺すんじゃ」


 と言った。

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