第85話

 3人は家に入り、男に着いていく。

 必要最低限の生活備品を横目に、レンたちはある部屋に入った。


「……ここ、です?本しかないです」


 そこには、庶民が買える値段ではあるが、それでも高い本が大量にあった。

 傍から見ると、必要最低限の生活備品しかないにも関わらず、本が沢山あるというのには違和感しかないだろう。


「……ああ」


 男はそう言うと、本棚を右に動かしていく。

 かなりの重さになるはずだが、男は難なくこなす。


 そして、動かしたその場所には地下へと繋がっているであろう梯子が掛けられていた。


「ついてこい」


 男は迷いなく、その梯子を下っていく。

 レンたちもそれについて行く。


 その降りた先は、


「下水道、です?」

「そうだ。ここから教会に向かう」


 男はそう言うと、歩き出す。

 そしておよそ10分後、レンたちは教会の真下に着いた。






「ここで待て」


 男はそういうと、梯子を上っていった。


 レンたちは教会に上がらず、下水道の道の横にある小部屋に入る。

 明らかに後暗い取引が行われていそうな場所だ。


「……なんか、気味が悪いのです」

「ん、不気味」

「まぁ、その気持ちはわかるよ。僕も初めて来た時は何が起こるんだろうって不安だったからね。何とも無かったけど」

「レンは前にもここに?」


 リナが興味深そうにそう聞いてくる。


「うん、前に腕の治療の時にね。1回で終わらなかったから、何回か通ったんだよ」


 それは、王都に来たばかりの頃。

 学園に入学する前に1回教会に行った。

 理由はもちろん、ゴーレムを倒した後の魔物を倒す際に負傷した、腕の治療だ。


 その時は空いていたので直ぐに対応してくれたのだが、その次からまともに行けなかった。

 そこで、パシェルさんからこの裏口のことを教えてもらい、学園に入学してからも何回か通っていたのだ。


「そんなことが……」

「ん、レンだから仕方ない」

「レンですからねー」

「……どういう納得理由」


 釈然としないものを感じつつ、レンたちは小部屋で待ち続けた。

 そして数分後、パシェルさんがやってきた。

 その後ろにはさっき案内してくれた男の人もいる。


「――やぁ、レンくん。久しぶり」

「お久しぶりです、パシェルさん」

「……うん、2年も会わないとレンくんも変わるねー。少し大きくなったような気がするよ」

「……そうですか?自分ではわからないです」


 レンとパシェルは、お互い懐かしそうに話す。

 その後ろでリナは、そんなに気さくに話していいのか、とハラハラしていた。


 それに気づいたパシェルは、興味深げにレンの後ろをのぞき込む。


「それで、そのレンくんの後ろにいる娘たちは?」

「ああ、僕の仲間です。紹介しますね、リナとミナです」

「よ、よろしくお願いしますです……!」

「ん、よろしく」


 リナは萎縮しながら、ミナはいつもと変わらぬ調子でそう挨拶する。

 それを見て、リナは大きく慌てた。


「ちょ、ミナ……!相手は偉い人です……!」

「ん、レンが平気ならきっと平気」

「その理屈はなんです……!?」


 ふたりの会話を見て、パシェルは愉快そうに笑っていた。


「あはは。今は周りに他の人がいる訳でもないし、気にしなくていいよー。僕は敬語を使われるのにそんなに慣れている訳でもないからね」

「で、でも、後ろにひとりいるです……?」

「ああ。こいつは平気だよ。――口出しは無用だよ?大切な友だちだからね」

「……了解しました」


 男は表情ひとつ変えず、そう言った。

 それを見て、パシェルは満足げに頷くと、


「さて、レンくん。今日はなんの用で来たんだい?」

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