第82話

 辺りの見えない闇の中、ふたりの人影が歩みを進めていた。

 セーレとバティンだ。


『――全く、余計な手間をかけさせるな』

『すみません、バティン様。予想以上に踏ん張るんで血がたぎってしまいました』

『……まぁ、分からなくはない。だが、次に亀裂が開くのは全く別の場所だ。あの場に居続けていたとしても負けることはなかっただろうが、この場に戻って来ることは出来なかっただろう。それは計画に支障をきたしすぎる。あまり余計な世話をかけさせるな』

『ういっす』


 しばらく歩くと闇が晴れ、ネソラとは違う世界が広がつていた。


 空はどんよりと薄暗く、太陽は不気味なほど赤い。

 土も毒々しい色をし、植物は見える範囲に一切生えていない。

 ただ岩がごろごろ落ちており、強そうな魔物が辺りを徘徊していた。


『ふぅ、そんなにいた覚えはないですけど、帰ってきたって感じがしますね』

『ああ。さ、とりあえずルシファー様に報告に行くぞ。次の任務の話もしなければな』

『ういっす!』


 そう言うと、ふたりは左の方向へと歩き始めた。


 30分後、ふたりはある館の前に着いた。

 そのまま立ち止まることなく、ふたりは館へと入っていく。


 2階、3階と階段をのぼり、4階のある部屋の前で足を止めた。


『……くれぐれも失礼な態度は取ってくれるなよ?』

『大丈夫ですよー。心配し過ぎですって』

『……どうだか』


 そう言うと、バティンは扉をノックする。


『――バティンです。入っても?』

『……ああ。大丈夫だ』

『失礼します』


 扉を開けると、そこには机の上に置かれている大量の書類と向き合う、黒い翼を生やした人影がひとつ。


『……またですか』

『じゃあねぇだろ。お前らがやったことの報告書ばかりなんだからよ。お前みたいに毎回報告に来てくれりゃあ楽なんだがな』

『それは無理でしょうね。私のように門が開く場所と時間を正確に把握しているわけでもないのですから』

『……ちっ。めんどくせぇ。――で、お前の方の報告は?』


 ルシファーは羽根ペンの動きを止め、バティンに向き直る。


『はい。報告させていただきます――』


 バティンは学園での行ったことを全て報告する。


『――そうか。王女の血を。さすがだな』

『いえいえ、そんなことないですよー』


 間の抜けた調子でセーレは言う。

 それを見たバティンは、ルシファーから見えない位置でセーレの背中を叩いた。


『いっ!?』

『……?どうかしたか?』

『い、いえ。なんでもないです……』


 セーレはバティンのことを恨めしそうに睨むが、当の本人は気づいていないような顔をしている。


『そうか?――ふむ。ただ、お前の言う人族のことが気になるな。我らの障害にならないか?』

『……それは、今のところはないかと。ただ次にあった場合どうなっているかはわかりかねます』

『そうか。まぁいい、早く魔王様を復活させねばならんからな。その件は任せるとしよう』

『……はっ』


『――では、次の任を伝える』


 そう言うと、空気がよりピリッとしたものに変わる。


『配下の魔物を連れ、南の四神、朱雀の額に埋まる石を奪取しろ。その付近に門が開くのはおよそ2ヶ月後、朱雀が現れるのも2ヶ月後だ。その間は準備をし、戦闘に備えろ』

『――はっ!』

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