第81話

「――っ!?」


 新たな魔人とレンの距離はおよそ10メートル。

 その距離まで近づかれたのに、レンはその魔人が声を出すまで一切気づかなかった。


 レンは警戒心を顕に武器を構えようとするが、短剣が折れていることに気づき、『氷短剣アイスエッジ』で2本の氷の短剣を生み出し構える。


『ば、バティン様っ!こ、これはその……っ!』


 セーレはバティンと呼ばれた魔人が現れるや、しどろもどろになりながら言い訳をしている。


『……セーレ、私はさっさと王女の血を回収して帰ってこいと言ったはずだ。なのに、何故このような場所で矮小な人間と戯れている。そんなことをしている余裕はもうないぞ』

『す、すいませんっ!この人族が予想以上に踏ん張るので手間取ってしまっていました!急ぎ排除致します!』

『……いや、その必要は無い』


 バティンはそう言うと、レンの方を向く。


『……ふむ。よし、そこの人間。手合わせをしてやろう。こいつがそれほど苦戦するほどの相手だったのか見極めてやる。なに、心配せずとも殺しはしない』

「……っ!舐めるなぁーーっ!」


 "殺しはしない"

 この言葉は殺し合いの上で最大の侮辱に等しい。

 それはつまり、手加減をしているということにほかならないからだ。


 何より、相手が自分より上であることを疑っていないのが許せなかった。


「『風爆ウインドブロウ』!!」


 自分の足の裏に爆風を発生させ、2階にいるバティンに向かって飛んでいく。


『……ふむ』

「――お、らぁっ!」


 2本の切っ先を思い切り前に出し、バティンに突っ込む。

 それを、バティンはそれぞれ2本の指で挟んで止めた。


「な……っ!?」

『悪くは無い、が、決定打にはならない。足から爆風を出すという、人間のやりたがらないリスクの伴うものを躊躇なくする、というのは面白いとは思うが。――だが、この程度の攻撃は魔人であれば簡単に受けられる。殺すまでもない、というか脅威になり得ないな』


 そう言うと、指で掴んでいた氷の短剣をパキリと折った。


「――っ!」


 そして、レンを1階の広場に叩き落とす。

 レンは砂埃を立てながら何とか立て直した。


『――もう少し力を付けなければ、我らには適わん。それをゆめゆめ忘れるな。だが……セーレを相手に善戦をしたというのは事実のようだ。隠れて戦うことを主にするセーレにとっては相手が悪かったと言わざるを得ないだろうな』


 バティンは独り言のようにそう言った。


『……さて、セーレ!撤収だ。もう用は済んだ』

『うぃっす!』


 セーレはそう言うと、2階へと跳び上がる。

 そして、先の見えない闇へと消えた。


 バティンはレンの方を一度振り向き、


『……近く迫る終焉のとき、そこで再び合間見えよう。次はこちらも殺す気でやるからな』


 そう言って、バティンも闇へと消える。

 残ったのは色濃く残る戦闘の跡と、大量の負傷者だった。


「……が、ふ」


 そして、レンが『狂戦化バーサーク』を解除すると同時に前のめりに倒れ込む。

 レンの右腕には、先程表れた紫色の痣がしっかりと残っていた。

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