第79話

 レンの姿がだんだんと変化していく。

 髪色は黒く、短かった髪は肩まで伸びる。

 瞳は金色になり、漆黒を照らす光のよう。


 変化が終わると同時に、黒いモヤはどこかへと消え去った。


『――おい、てめぇ……。なんでなんだよ……?』


 レンの変化後、セーレの第一声がそれであった。






「……なんでも何も、これが能力使用時の普通ですが?」


 無表情のまま、レン狂戦化は答える。


『……ちっ!こんなの聞いてねぇぞ……。なんでがいやがる』


(え……?)


 レンは、内面の意識でそう呟いた。


 実のところ、レンの意識は完全に沈んだ訳ではなく、自分の身体の操作を乗っ取られているような感覚になっているだけだ。

 身体は動かせないが、見て聞いているという感覚だけがあるというのが正解か。

 自分で身体を動かすことも、話すことも出来ない。


 だが、実際にレンの身体を操っている狂戦化には、思ったことが聞こえている。

 まぁ、レンの疑問に対する答えは無言だったが。


「…………」

『その黒髪は勇者の証、だが勇者は今のご時世、獣国以外にいねぇはずだ。しかも、向こうの勇者は今となっては擬似的なもののはず。ここまでしっかりとした勇者の姿じゃねぇ。……おまえ、なんなんだ?』

「わたしは狂戦化バーサーク。あなたを排除するものです」


 淡々とその言葉を言い、同時にレン狂戦化はセーレに向かっていく。


『……ちっ』


 セーレは舌打ちと同時に、おもむろに真紅の剣を取り出す。

 おそらく、この剣が王女に傷を付けたのだろう。

 うっすらとだが、血がついている。


『――ダーリンスレイヴ』


 その一言で、真紅の剣に血のように赤いモヤがまとわりつく。

 付いていた血は、蒸発するように消えた。


 そして、その赤いモヤはセーレに巻き付き姿を変える。

 胴と頭に、赤い鎧が装着された。


『……これが俺の出せる最高の状態だ。今ここでお前を消滅させる。全ては魔王様のために、な!』

「……『氷牢アイスプリズン』」


 セーレがレンに向かって突っ込む中、レンとセーレを中心に、4本の氷の柱が出現する。

 その4本は氷の膜で繋がっている。


 それらはゆっくりと中心に向かって移動し、その間レンはセーレの相手をする。

 そして、ふたりを中心に封じ込めた。


「――『時間凍結フリージングタイム』」


 ピタッ、とレンと戦っていたセーレの動きが止まった。

 同じくレン狂戦化の動きも止まるが、思考はハッキリしている。


(『多重詠唱マルチタスクランス』)


 レン狂戦化がそう思考すると同時に、檻を囲むように様々な属性の槍が現れる。

 順に、ではなく一斉に。

 レンの2年間の学習の賜物だ。


 槍が檻に当たると、その槍も動きが止まる。

 その全てはセーレに向いており、時間が動くと同時に全てが着弾するだろう。


 だが、レンが魔法を解除していないにも関わらず、唐突に檻が消えた。

 直後、割れるような音が響き渡る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます