第77話

 レンが爆発現場に向かう途中、貴族の子女たちが悲鳴を上げながら逃げていく光景に何回も遭遇した。

 一応ここは冒険者科の区域で、プライドの高い貴族科の人はほとんど来ないのだが、命の危険には変えられずに逃げ込んできたと言ったところか。

 ただ、来てそうそう、野蛮な冒険者はさっさと元凶を捕まえてくださいまし!とひとりが言ったがために、周囲の生徒たちは相当嫌な顔をしており、一触即発の雰囲気になっている。


 しかし、レンたちはそんなことに構っている場合ではないので、事態を横目に走り抜ける。



 そして、レンたちがその場に着いてみると、事態は最悪と言ってもいいような状況だ。

 周囲には死屍累々と転がる冒険者科の生徒たち。

 一応息はあるようだが、すぐにでも治療をしなければ死んでしまう可能性があった。


「……リナとミナは生徒達を医務科に連れてって。急がないと死ぬ可能性あるから」

「分かったのです。でもレンはどうするのです?」

「僕は……あいつを倒さないと」

「あいつ……?」


 そう言うレンの視線の先には黒っぽい人型のなにか。

 レンの予想が間違っていなければ、あれは魔王軍の魔人だろう。

 そして、そいつのその手はひとりの女子生徒の首を掴んで持ち上げていた。


「し、シルエスタ第三王女殿下なのです!?」

「知ってるの?」

「知ってるも何も、この国の第三王女なのです!」

「……ふーん。とりあえず助けないと」

「あっ、レンっ!」


 リナの声を後ろに、レンは魔人に近づき、


「――しっ!」


 魔力を纏った短剣で、王女を掴んでいるその手を思い切りたち切った。


『お、おお!?へぇ……』


 魔人の驚いた声を横目に、レンはできる限り離れた所で止まる。


「大丈夫ですか?」

「ゲホッゲホッ……。え、えぇ……」

「そうですか、よかったです」


 レンはそう言って、王女をゆっくりと下ろす。

 そし人と向かい合った。


「お前は……魔王軍、でいいんだよな?」

『ああ!そうとも!僕はセーレだ。僕の身体に傷を付けた君の名前は?』

「レンだ」

『そうか、レンか。覚えておこう。そしてさようならっ!』


 セーレは虚空から漆黒の剣を取り出し、レンに向かって横薙ぎに振る。

 レンは見えない斬撃を上にいなすと、後ろの建物がゆっくりとズレ落ちてくる。

 見えない斬撃が建物を切り裂いたようだ。


『ふふっ、高々人間が耐えられるわけがあるまい。さて、僕の目的を果たさなくてはな……っ!?』


 砂埃が辺りを隠しているからか、余裕の様子を見せていたセーレ。

 その様子を『魔眼:魔力探知』で見ていたレンは、セーレの顔に向けて自分の短剣を投げつけた。


 だが、短剣は漆黒の剣によって弾かれてしまう。


『ちっ!上手く避けたか……。なら、もう一度っ!』


 今度は縦と横の十字型。

 確かに、真後ろにいる王女のことを考えると簡単には避けられない形だ。

 だが、レンにはおじさんに鍛えてもらった剣技がある。


「――しっ!」


 レンはその十字に当たるように、同じく十字型で斬撃を放つ。

 そしてそのふたつの斬撃が当たった瞬間、辺りに衝撃波が広がった。


 校舎の壁にはヒビが入り、周囲のガラスは全て砕け散っる。

 リナとミナが少しずつ運んでいた生徒の残りは、その衝撃で壁に向かって叩きつけられた。


 レンは魔力で盾を作って衝撃から身を守っていたので、後ろの王女にも一切影響はなかった。


『……おいおい、今ので死なねぇのかよ。ちっ、この調子だと説教確定じゃねぇか。しゃあねぇ、先に目的のものは回収しとくとしようかね』


 セーレはそう言うとレンの後ろに回り込み、後ろにいる王女の腕を切り裂いた。


「い……っ!?」


 咄嗟にレンは追いかけるように攻撃を仕掛けるが、簡単にいなされる。


『お前はあとだ、先に目的を果たす』


 そう言うと、レンの腹に衝撃が走り校舎へと叩きつけられた。


「がはっ……!」


 その衝撃でレンは血を吐きだした。

 ゆっくりとレンは立ち上がり、王女の元へと歩いていきセーレに攻撃を加える。

 だが、またも簡単にいなされ飛ばされた。


『邪魔すんな。用が終われば相手してやるからよ』


 そう言うセーレの手元に魔力が集まっていく。


『奪え』


 その一言と同時に王女の傷口から血が吹き出し、宙に浮く。


「ぐ、ぁあああああああああ…………!?」


 だんだんと王女の身体が萎れていく。

 だが、それをただ見ているレンではない。


 レンは即座に体を起こし、セーレへと突っ込む。

 この際、自分の傷よりも王女を救うことが最優先だ。


「しっ!」


 レンは短剣を逆手にもち、セーレの首元を掻っ切る。

 だが感触はなく、レンはそのまま対面に着地した。


『ひゅー、危ない危ない。だけど、僕の目的のものは回収した。これだけあればきっと足りるだろうさ』


 そう言いながら、宙に浮いている王女の血を黒っぽい穴の中に突っ込んだ。


『さて、戦おうか』

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