第68話

 レンが馬車から降りると同時に、まだ動ける盗賊が警戒体制に入る。

 だが、レンの姿を見るや否や、持っている武器を下ろし、


「あん?ガキが何の用だ?人質にでもなってくれんのか?」


 と、レンを完全に舐め切った態度で言う。


「いえ全く。むしろ、倒そうかなって思ってます」

「はんっ!ガキに倒されるほど俺たちゃヤワじゃねぇよ」

「じゃあ、こんなのはどうです?」


 レンがそう言うと、広がっていた影がうごめき、鞭のように盗賊に襲いかかる。

 その鞭はまずはじめに、既に影によって動けない盗賊に襲いかかり、身体の一部に巻き付く。

 すると、その巻きついた部分が一気に締まり、体の一部を潰した。


「――っ!?」


 それを見た盗賊は一斉に顔を青ざめ、


「こ、殺せっ!あのガキを殺せ!」

『さ、サーイエッサー!』


 そう言うと、盗賊はレンに向かって武器を構え突撃する。

 だが、相変わらず影の鞭は発動状態にあるので、


「……なっ!?や、やめろっ!――ぐあああああああっ!」

「ブルール!?」

「……っ!いちいち仲間を気にすんな!死ぬぞ!」

『さ、サーイエッサー!』


「……なんか、僕が悪役みたいですね」

「はは……。そうだね……」


 馬車の中から見ていた領主様がそう答えた。

 その後も盗賊を縛り潰し、残りは指揮を取っていたひとりだけ。


「……ちっ。こんなとこでやられてたまっかよ……!」


 そう言うと、その盗賊は一気にレンとの間合いを詰め、武器をふりかぶる。

 だが、影の鞭が腕を縛り、武器を振れないようにした。


「……っ!なめんじゃねぇ!『風よ切り裂け!風刃ウィンドカッター』」


 そう言うと、盗賊の周りに風の刃が発生し、それがに向けて放たれる。


「……え?」

「ぐ……っ!へっ、こんな影の鞭なんて切れりゃあどうってことねぇんだよ……っ!」


 そう言うと、盗賊は一気にレンの懐に踏み込み、横にないだ。

 レンは咄嗟に短剣を取り出し、刃を受け止める。

 だが、受け止めた瞬間、レンの腕が電流が走ったかのように痛み始めた。


 レンはすぐに距離をとり、腕を抑える。

 おそらく、まだ腕は治りきっていないのに、腕に大きな衝撃を与えてしまったからだろう。


「ぐ……っ!」

「へっ!口ほどにもねぇ!所詮はガキってわけだ……!」

「ふざ、けるな……っ!『影縛りシャドウバインド』!」


 レンは盗賊の動きを止める。

 だが、盗賊は動きが止まる直前に、自分の持っていた剣をレンに向かって勢いよく投げた。


 その剣をレンは避けることが出来ず、目の前に迫る剣を見て、ぎゅっと目を瞑った。

 だが、ギィン!という音がしたかと思うと、レンの後ろから何かが刺さるような音が聞こえた。


「……え?」

「レンくん。殺すの、躊躇してるね?」


 そう言って、レンの前に立つのは剣を振りかぶったあとの領主様。


「え、いや、そんなことは……」

「ううん。多分レンくんは、殺そうと思っていたんだろうけど心のどこかでブレーキがかかってる。だって、レンくん、殺そうと思えばこんな奴らすぐに全滅出来たでしょ?」

「それは……」


 確かに、レンがやろうと思えば一瞬のうちに全ての盗賊が地に伏せていることだろう。

 だが、それはしなかった。

 先に地面に伏せている盗賊たちの傷も、腕や足の欠損がいい所で、どれも致命傷には至っていないのだ。


「まぁ、まだ12歳の子どもに人を殺せって言うのは酷だし、別に今やる必要はないんだけど。一応最低限、盗賊を捕まえられるだけの力を持っているのが分かっただけで、ランクは上がると思うから困ることはないと思う。それに……嬉嬉として盗賊を殺すようなら止めなきゃいけない。それは人間としてあるまじき行為だからね」


 そう言いながら、領主様は盗賊の元へと歩いていく。


「や、やめろ……っ!来るな……っ!」

「地獄で悔い改めろ、外道」


 実に冷ややかな声でそう言うと、領主様はその盗賊の胸に剣を振り下ろした。

 その盗賊は前のめりに倒れ、2、3回ビクビクと震えると、一切動かなくなった。

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