第67話

「……なに?」


 レンの一言により車内の明るい空気は一変、険しいものへと変わる。

 領主様と奥さんは周囲を探るように外を見、娘さんは領主様の服を掴みながら不安そうな顔をし、メイドさんは御者台から辺りをうかがい始めた。


「レンくん、盗賊の数と、どこら辺にいるか教えてくれる?」


 領主様の問いに対し、レンは『千里眼』と『魔力感知』を使い、盗賊の位置を言う。


「はい、この先の林の中にいます。人数は多いので詳しくは分かりません。およそ50人くらいかと。気配を消すのが上手い数人が木の上に、それ以外は木の影に隠れて待ち伏せています」

「……分かった。ひとりで平気?」


 この平気という言葉には、ひとりで戦えるか、人を殺せるか、腕は平気なのか、といった意味が含まれていることは察することが出来る。

 だが、レンは武器を使って戦うつもりはそこまでなく、魔法を使うことで直接手にかけないので、罪悪感のようなものは薄いだろうと考えていた。


「ええ、平気です。ただ、一応警戒はしておいて貰えると安心して戦えます」

「……そう。分かった、すぐに動けるようにしておこう。ララルアは馬車の中でシャリスとラルクを守っておいてくれ」

「分かったわ」

「ルイス様、レン様。まもなく林に入ります!ご準備を!」


 メイドさんが、視線を前に固定したまま小声でレンたちに言う。

 ふたりは視線を合わせて頷き、無言で武器を手に持ち、魔力をねり始めた。






 林に入って少し進むと、大勢の人影が馬車の前に割り込んだ。

 メイドさんはゆっくりと馬車を止め、盗賊に向かって言った。


「……何か御用ですか?」


 何も知らないように見せつつ、警戒は解かない。

 すると、


「へっへっへ……!俺たちゃ泣く子も黙る、エイガス盗賊団さぁ!聞いた事あんだろぉ?」


 さも当然のように盗賊のひとりは言う。

 だが、メイドさんは、


「いえ全く。興味がありませんので」


 表情を一切変えずに、そう言った。

 それを見て、盗賊は沸騰せんばかりに顔を赤くし、


「――っちっくしょうが!俺たちを愚弄しやがって……っ!」

「いえ、全くそんなつもりはありませんが」

「もういい!やっちまうぞお前らぁ!」

『サーイエッサー!!』


 馬車の前に立つ盗賊がそう言う。

 それと同時に、周囲の盗賊たちが一斉に声を上げ、武器を構えた。


「一応、警告だ!中で胡座をかいてる貴族さまよぉ!」

「……いや、かいてないけど」


 領主様はボソリとそう言う。

 レンはその言葉に苦笑いしつつも、外の様子に警戒を解かない。


「女と金になるもんを置いていきなぁ!そうすりゃ、命までは取らねぇからよぉ!…………っち。だんまりか。――中に女がいるのは確実だ!女を全員捕まえろ!最悪、貴族は殺してもいい!」

『サーイエッサー!!』


「……何この掛け声」

「……さぁ?」

「……あなたたち、もう来ますよ?」

「……そうだな。レンくんよろしく」

「はーい」


「さぁ行け!お前らぁ!」

『サーイエッサーッ!!!』


 そう言うと、盗賊は一斉に馬車に襲いかかる。

 下にいる盗賊は半分に分かれ、半分はメイドさんをさらってから中に入るつもりなのか、御者台に上がろうとし、もう半分は馬車の後ろから入ろうとする。


「『凍結フリーズ』!」


 レンは御者台に登ろうとしている盗賊に魔法をぶつける。

 するとその盗賊は凍りつき、動かなくなった。


 また、凍りついた盗賊が後続の盗賊の邪魔をし、御者台に登ることが出来なくなった。


 同じく、後ろから入ろうとしていた盗賊も同じように凍らせる。

 そうすることで、盗賊は正規法で中に入ることが出来なくなった。


 だが、ここまでは本命では無い。

 下にいる盗賊は、全て陽動だ。


 本命は、木の上から気配を消しながら死角をつこうとしてくる6人。

 今は、馬車に近い木の上から飛び降りるタイミングを見計らっている。


 しかも、『火球ファイアーボール』を手元に出していることから、馬車に火をつけようとしているのは明らかだった。


 少人数で、しかも今までずっと一緒にいたかのように連携がされている。

 おそらく、中にはいられたら最後、一瞬のうちに奥さんたちは攫われ、馬車に火をつけられることだろう。


 なのでレンは、


「『影縛りシャドウバインド』!」


 馬車の影がうごめき、影が範囲を広げる。

 そして、周囲にたむろっていた盗賊の影を飲み込むと、盗賊は一切動けなくなった。


「な……っ!?うごけ、ねぇ!?」

「はな、せ……!やめ、ろぉ……!」


 レンはさらに範囲を広げ、全ての盗賊を縛りあげようとする。

 だが、木の上の6人を含む一部の盗賊は、影の動きに気づき、跳ぶことで縛られるのを回避した。

 しかも、10メートル位で、影は動かなくなった。


 これで、動ける盗賊はおよそ20人。

 しかも、馬車から離れているので魔法を撃つには好都合。


 レンは馬車を降りて、残りの盗賊にトドメを指すことにした。

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