第64話

「――と、言っても魔女に比べると、そんなに逸話があるわけじゃないんだけどね」


 領主様はそう言うと、再び地図を取り出し指を指す。

 そして、再び声音が変わった。


武器王ウェポンマスターは元々ルシオン帝国の兵士だった」


 領主様はそう言って、ルシオン帝国の領地をなぞっていく。


「そこから段々と能力を駆使することで地位をあげて行った。でも、武器王ウェポンマスターはある時帝国のに疑問を持ったらしい」


 領主様は支配、という言葉を強調する。


「帝国は上手く武器王ウェポンマスターを利用出来ていたんだろう。それこそ、帝国の力が他の国々を上回るくらいにね。だけど、武器王ウェポンマスターはある時、ある出来事を見たことで帝国に対して疑問を持った。そこからその疑問はずっとわだかまりのように武器王ウェポンマスターの中に居座り続けたんだ。その出来事っていうのが――――帝国と王国の戦争だった」







「その戦争には、王国にいた魔女も駆り出されたけれども、帝国優勢のまま進んでいった。ことが起こったのは、帝国が王国のある街を支配した時のこと。帝国兵士がなんの罪もない住人達を殺戮し始めたんだ」

「……ぇ」

「もちろん、それを見た武器王ウェポンマスターはその兵士を止めたらしい。でもその兵士は、これは上からの命令だ、と言ってその住人を殺した。その事を武器王ウェポンマスターは一切聞いていなかったらしい。その戦争で一部隊の隊長を務めていた彼が、だ」

「そんなこと、有り得るんですか……?」


 戦争に詳しくないレンは領主様に尋ねる。


「いや、有り得ないよ。そもそも、その時の兵士は、武器王ウェポンマスターに話していいのか、と躊躇したらしいんだ。まぁ、武器王ウェポンマスターは若干拷問気味に聞き出したらしいけどね。――話しを戻すよ。武器王ウェポンマスターの能力、というか彼の固有能力が武器王ウェポンマスターって言うんだけど、それは短時間で武器を修理、製造することが出来るもので、さらにどんな武器でも使えるようになるって能力なんだ」

「あ……」


 そういえば、一日で4人分の武器を作って来たことがあったな、とレンは思い出す。

 今考えるとおかしなことだと思う。

 なにせ、武器を決めた次の日に全員分の武器が、全て出来ているのだから。


 それに、4人が別々の武器を使っているにもかかわらず、全てを個々に合わせて教えているというのもおかしい事だと思う。

 色々な武器を使えると言っても、普通は中途半端に、ただの器用貧乏になるのが普通だし、それならひとつの武器に絞って鍛錬した方がいいのは明らかだからだ。


「そんな規格外の能力が戦場にあったらどうなると思う?」

「……武器が壊れても壊れても、新しいものが次々と補充される。武器を壊しても意味がない……。それに、その作っている当人を潰そうにも、その本人がとてつもなく強い……」

「そう。王国側は帝国と戦争をしたくなかった。だから、降伏してくれないか、と言う意味を込めて武器だけを壊すように、またそのための武器を使っていたんだ。――それが、仇になったんだろうね。王国は結果的に負けこそしなかったものの、多くの死者が出たんだ。初めから武器を狙わずに殺していれば、王国は被害を最小限に抑えられ、勝つことも夢じゃなかったのに」


 領主様は悲しそうに目を伏せる。


「でも、逆に言うと死者が出ただけで済んだんだ」

「……え?」

「本当は、帝国は王国領土全てを奪おうとしていた。それだけの軍隊を動かしていたからね。王国兵士側も敵を殺すな、って上から言われていたから反撃もままならなくてね。でも、武器王ウェポンマスターが王国側に寝返ったことで立場が逆転したんだ」

「寝返った……?」

「うん。戦争自体は2年近く続いたんだけど、初めの街が落とされてから間もなく、武器王ウェポンマスターは武器を作らなくなった。すると、帝国側の進行速度が急速に遅くなったんだ。帝国側も必死だから、武器を作らないなら前線に出て敵をなぎ倒せ、と言ったらしい。でも、武器王ウェポンマスターはそれを断固拒否。遂には牢屋に入れられたらしい」

「おじさん、なにやってんの……」


 レンの頭にはその光景が、頭の中で再生出来るくらいによくわかった。

 なにせ村にいた頃、似たような光景を見ていたのだから。


 それは、おじさんの奥さんが、おじさんに頼み事をすると、おじさんはそれを全力拒否し、村の外に逃走する、という出来事だ。

 ……まぁ、その後絶対にボコボコにされるのだが。


「さらに決定的なのが、武器王ウェポンマスターは牢屋の壁をぶち破って王国に保護されたらしいんだ。武器王ウェポンマスターは首輪を付けられて、手枷足枷が鎖に繋がれていたにも関わらずだ」

「えぇー……」


 これまたレンの頭に思い浮かぶ。

 奥さんが、逃げ出すおじさんにイライラした結果、首輪を付け、首から反省してます文を書いた看板をかけ、村中を歩き回ろうとしたことがある。

 だが、いざ行こうとした際に、おじさんが首輪を破壊して、これまた村の外に逃げ出した。

 その後、またもボコボコにされて、村の中央に磔にされたのだが、どうやったのかいつの間にか逃げ出していたこともある。


 今思うと、その脱獄経験が今に繋がっていたんだろう。

 あんまり役に立たない形で。

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