第61話

「りょ、領主様……?」

「はっ!あ、ああ……。すまない……。それにしても、多重詠唱が使える魔法の先生と、レンくんが勝てない武術の先生って誰だい……?」


 これは領主様出なくても、誰でも思うことだろう。

 それこそ、多重詠唱を使える時点でかなり有名な人に限られるのだから。

 もし名前が知られていなくても、それはそれで新しく使える人が増えた、と噂にはなり得る。


「えぇっと、おじさんの名前は知らないんですけど、大おば様の名前は確か……シルク、だったかな?」

「えっ……シルク!?それって、魔女シルクのことかいっ!?」


 領主様が驚いたような表情を浮かべて、レンを見つめる。

 いや、領主様だけではない。

 馬車の中にいる、娘さんと息子さん。

 更には御者のメイドさんまでもが驚いたような表情をしていた。


「……え?魔女?」

「まさか、知らないのかい!?」

「え、ええ。大おば様は大おば様ですからね。あくまでも、僕の魔法の先生で、村で1番偉かっただけです」

「えぇー……。ま、まぁそれなら君の魔法の威力も頷けるよ。魔女の教え方って言うのは厳しいことで有名でね、だいたいの人が教えを乞うて、逃げ出してるんだ」

「へー……」

「……興味なさそうだね。――それにしても、君の武術の先生は誰なんだい。多分、君ほどの強さまで教えることができるとするなら、かなり有名だと思うんだけど……。なんか持ってない?」


 何やらレンに期待の眼差しを向けながら、領主様は言う。

 最近、領主様が偉い人に見えなくなってきたが、気にしないようにしよう。


「えーと……。あ、剣はおじさんから貰いましたよ」

「見せてくれる?」

「はい、いいですよ」


 レンは2本の短剣を腰から外し、領主様に渡す。


「……ん?んんんんん?」


 何やら首を傾げて、レンと短剣を交互に見る領主様。

 レンがどうしてそんな反応をするのかと疑問に思っていると、


「……ねぇ、あなた。それ、武器王ウェポンマスターの、よね……」


 レンの隣に座っていた奥さんが、声を震わせながら領主様に言う。


「……やっぱり、そう、だよな?」

「え、ええ……」


 何やら深刻そうな表情で話し合うふたり。

 レンが首を傾げていると、


「……レンくん。確認だけど、この武器をくれた人と、君の武術の先生は同じ人だよね?」

「ええ。そうだと思います」

「……レンくん。君は、その先生が誰なのか知っているのかい?」

「いえ全く。興味も特になかったですし、何よりそんな有名人だとは知りませんでしたから」


 大おば様は魔法の先生で、村で1番偉い人。

 おじさんは武術の先生で、奥さんに非常に弱かった。


 これが、レンにとってのふたりの認識。

 それ以上の何者でもないと思っている。


 例え、その当人達が犯罪者であれ、浮気者であれ、はたまた死人であろうとも。

 それは、レンにとってはどうでもいい事だ。


 ふたりがレンに教えたという事実が残っているし、何より同じ村の人間だ。

 ふたりが過去に何をやっていようとも、それはレンの預かり知らぬところなのだから。

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