第3章

第60話

 シュライブ辺境伯領から、王都へ出発してしばらく。

 車内で会話は一切なく、ただただ時間だけが過ぎていった。


 別段重苦しい雰囲気、という訳でもないが、耐えかねたレンが気になったことを領主様に尋ねてみた。


 「――ところで、王都までは何日かかるんですか?」


 ほとんど揺れず、ふわふわのいすに座ったまま、レンは正面にいる領主様に問いかける。


 「そうだねぇ……。この調子だと3日くらい、かな」

 「3日……。遠いのか、近いのか……」


 街から街への移動に、1日以上かかることはざらにある。

 むしろ、1日以内に目的地に着く方がめずらしいくらいだ。

 場所によっては、1週間かかる場合すらある。

 まぁ、たいていは途中に村や小さな街がある事が多く、そこで休む場合が多いので、一般人が野営をすることは滅多にないと言ってもいい。


 「まぁ、ゆっくり向かってるし、早い方なんじゃないかな」

 「そうなんですね。そういえば、学園の入学ってどうなっているんですか?」


 ふと、思い出したので領主様に聞いてみる。


 「えっとね、確か……」

 「王都へ到着した次の日の午後に、冒険者科は入学試験があったはずです。それ以外の学科は、さらに2日後に入学だったかと。冒険者科の入学は、その次の日です」


 御者で馬車を操るメイドさんがそう答えた。


 「そうなんですか。ありがとうございます」


 メイドさんはこちらを振り向き、ふっと微笑んで再び前を向いて御者に集中し始めた。


 「――あっ、そうだ。これ渡さないと」


 領主様は胸ポケットから1枚のメダルを取り出し、レンに渡した。


 「これは……?」

 「冒険者科に行きたい人が、入学試験を受けるためのメダル。これをギルドに見せると、受験票が貰える仕組みになってるんだ」

 「へー……。でも、なんでメダルなんですか?」

 「さあ?多分、メダルである必要はないんじゃないかな。メダルに刻まれてる刻印が必要なだけだしね。大方、製造費が安いから、とかじゃないかな」

 「……そういうものですか」


 ……そこで、再び静寂が訪れる。

 レンは貰ったメダルを指で弄り、領主様の隣に座っている娘さんと息子さんは、領主様のことをじーっと見続ける。


 耐えかねた領主様が一度咳払いをして、レンに問いかけた。


 「んんっ。ところでレンくん」

 「はい、なんですか?」


 レンは貰ったメダルから顔を上げ、領主様の方を向く。


 「ずっと気になってたんだけど、どうして学園に行くんだい?君ほどの強さがあれば行かなくても問題ないだろうに」

 「あぁー……それですか」


 レンは困ったように頬を掻き、領主様の疑問に答える。


 「実はですね、大おば様とおじさん、魔法の先生と武術の先生が学園に行くにあたって、課題を出してきまして……」

 「課題?」

 「はい。魔法の先生からは、これだけは自分で学園に行って学びなさいと言われた、多重詠唱マルチタスク。武術の先生からは……。まぁ、これを課題と言っていいのか分かりませんけど、俺に傷をつけられるくらい強くなれ、だそうです。あとはまぁ、仲間を作れればいいかなぁ、と」

 「多重詠唱マルチタスクって……それ、国の宮廷魔法士でもできる人少ないんだけど……。それに、君が攻撃当てられないってなに……。それ、ほとんど勝てる人いないじゃん……。最後のだけやけにスケールが小さく見えるし……」


 領主様は何やら遠い目をしながら、ぼそぼそと呟いていた。

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