第55話

 そして、ギルドに着いた。

 5日ぶりくらいだが、レンは3日間寝ていたので、ギルドに来たのがつい昨日のように感じられる。


 馬車はギルド横の馬小屋にとめられ、そこでようやく降りた。

 ギルドには正面からではなく、馬小屋に通ずる通路から入る。

 すると、正面から入った時程ではないが、視線を感じた。


「――あっ!ギルドマスター!」


 ギルマスの姿に気づいた受付嬢さんが、ギルマスに声をかける。

 その声で、さらに視線がレンたちに集まった。


「ああ、今戻った。このまま上に行くから、後でお茶を持ってきてくれ」

「分かりましたっ!」


 そして、そのまま受付の横の階段から2階に上がり、ひとつの部屋に入った。


「適当なとこに座っといてくれ。直ぐに登録の準備をする」


 そう言って、ギルマスは書類の置かれていた机を漁り始めた。

 ギルマスが機械を探している間、レンがぼーっとしていると、受付嬢さんが入ってきた。

 その受付嬢さんは、前に来た時に対応してくれた人だった。


「あっ、この前の」

「はい、お久しぶりです。レンさん」


 そう言って、受付嬢さんはほほえみ、机にお茶を3つ置いた。


「で、ギルドマスターは何をなさっているので?」

「いや、登録用の機械どこやったかなって」

「……はぁ、何をやってるんですか。ちょっと待っててください。持ってきますから」


 呆れたように受付嬢さんは言い、部屋を出ていった。


「……まぁ、いいか。持ってきてくれるみたいだしな」


 何やら開き直ったかのように、レンたちの正面に座った。


「で、マネリ草はどこにあるんだ?」

「あっ、はい。ここにあります」


 レンはそう言って、異空間収納ストレージからマネリ草の束を2つ取り出した。


「……こんなにか」

「えっ、いやまだありますけど」

「は?」


 そんなに依頼はないだろうと思い2束、つまり10本取り出したのだが、何やらこれで全部と思われているようなので、全部取り出して見せる。


「……はっ?何だこの量……」

「うんうん、分かるよ。びっくりするよね、この量」

「いやいやいやいやっ!?さすがにこれは多すぎるだろっ!?」


 ちょうどその時入ってきた受付嬢さんは、手に持っていた機械をガシャンと足元に落とした。


「――っ!?」


 ちょうど指に当たったのか、足を押さえてしゃがみこんだ。


「お、おいっ……。大丈夫か?」

「だ、大丈夫ですっ……。それより、機械、持ってきました……」

「お、おう。ありがとう」


 おそるおそるギルマスは、受付嬢さんの足元から機械を受け取り、マネリ草が置かれていない辺りに置いた。


「……さて、どうしたもんか。さすがにこの量は多すぎる……」

「まぁ、使わない分は自分で持っておきますから大丈夫ですよ?」

「そうか……。じゃあ、はじめの2束……。いや、この国の依頼全てを考えて、12束を買い取ろう」

「分かりました」


 レンは12束を残して、残り全てを異空間収納ストレージにしまった。


「報酬は預けておくか?」

「お願いします」

「ああ、分かった。その前に登録だな。ちょっと腕を出せ、腕輪の付いてる方の」

「はい」


 レンは腕をギルマスの方に出した。


「ちょっとそのままでいろよ」


 ギルマスは機械を操作し始める。

 そして、何やら先に赤い光を放っているものを機械から取り出し、腕輪に当てる。

 そして、当てながらギルマスが機械を操作し、少しすると機械からピコンッと音が鳴った。


「よし、これで登録完了だ。あとは、報酬だな。預ける分の金を出しとけ」


 そう言って、ギルマスは受付嬢さんを連れて出ていった。


 しばらくすると、再びふたりとも戻ってきた。

 ギルマスの手には、先程の機械と同じような機械が、そして、受付嬢さんは紙の束を持ってきた。


「さて、報酬だな。マネリ草関係の依頼を出してくれ」

「はい、該当依頼はこの国で54件です。総額報酬は、金貨48500枚です」

「……マジか。うちにそんなに金貨あったか?」

「ないでしょうね。だから、その機械を持ってきたんじゃないですか」

「だな……」


 異常な金貨の数に呆然としていたレンだが、ふと我に返り機械について聞く。


「あの、その機械ってなんなんですか?」

「ああ、これはこの国のほかのギルドに連絡出来るやつなんだ。今回みたいな報酬が足りない時に活用する。本来なら色々と時間がかかるんだろうが、今回はほかの場所でも困っているマネリ草関係だ。今回買い取る分はほぼ全部使う訳だが、まぁしゃあない。とりあえず、やってくぞ」


 そう言って、ギルマスは機械を操作し始める。

 少しすると、機械から声が聞こえ始めた。


『ザザッ……。ザザザッ……。ピッ。やぁ、グラシア。久しぶりだね』

「ああ、久しぶりだな。ジルーラ」

『それで?君が連絡してくるぐらいだ。何があったんだい?』

「ああ。それよりも、そっちにマネリ草関係の依頼は何件あって、いくつ必要だ?」

『ん?マネリ草関係?ちょっと待ってくれ』


 機械から声は聞こえなくなり、しばらくすると再び聞こえ始めた。


『5件だね、必要数は全部で7つだ。それがどうかしたかい?』

「ああ、こっちにマネリ草がいっぱい納品されてな、必要ならそっちに送ってその分の依頼金を貰おうと思ってな」

『なるほどね……。分かった、こっちに送られてきたのが確認されたら、その分の金を送るよ』

「分かった、すぐに送る。少し待て」


 そう言って、ギルマスは機械の上に空いた穴にマネリ草を7本入れる。


『――うん、確認出来た。じゃあ、全部で金貨4300枚だ。確認してくれ』


 そう言うと、機械の下の穴から金貨が大量に出てくる。

 それをギルマスは受付嬢さんと協力して、金貨の数を数えた。


「――ああ、確認出来た。助かった」

『いやいや、こっちもマネリ草関係には困ってたからね。助かったよ。じゃ、また今度』

「ああ、またな」


 そう言うと、機械からは音が聞こえなくなった。


「――とまぁ、こんな感じだ。もっとやってくぞ」


 そう言って、ギルマスは各ギルドに連絡し、同じようにマネリ草を送り、その分の金を送ってもらった。


「――よし、これで全部だな」


 そう言うギルマスの前には山積みにされた金貨。

 それと、レンが取り出した白金貨30枚。


「じゃあ、預ける分はこれで全部か?」

「えっと、金貨100枚はもらって行きますね」

「ああ、分かった。じゃあ入れてくぞ」


 そう言って、ギルマスははじめの登録用の機械を操作し、再び上の穴に机に置かれた硬貨を全て入れていく。


「よし、終わりだ。これでいつでもどこでも引き出せる」

「ありがとうございます」


 レンはそう言って、ギルマスに頭を下げる。


「いや、こっちも大助かりだ。ありがとな。それで、この後は森に行くのか?」

「はい、死体の回収をした方がいいでしょうから」


(まぁ、それはついでなんだけどね……)


 レンはそう内心では思うものの、口には出さない。


「そうか、分かった。お前さんなら大丈夫だと思うが気をつけていけよ」

「分かりました」


 そう言って、席を立とうとすると、


「おい、お前は行くな」


 そう言って、ギルマスは領主様を止める


「えぇー、いいじゃん別にー」

「いや、良くないだろ。お前はこの後死体の確認をするんだろ?」

「えぇー。どうせこの後レンくんが持ち込むならいいじゃーん」


 領主様ほブーブーギルマスに言う。

 レンには、領主様が小さな子どものように見えた。


「お前なぁ、子どもじゃないんだから」

「だってさぁ、レンくんの戦いぶり、気になるじゃん」

「まぁ、分かるが……」

「ほら、あの件を奥さんには言わないでおくからさぁ」

「おまっ、それはずりぃぞ……」


 何やらギルマスは領主様に弱みを握られまくっているようで、逆らえないようだ。


「はぁ、レン……。悪いがこいつを連れてってやってくれ……」

「あはは……。分かりました」


 レンには苦笑いしかできなかった。


 そして、レンはギルドをでて森へと向かった。

 その時、またも熱っぽい視線が向けられたのはなんなんだろうか。


 ――――――――――――――――――――――


「なぁなぁ、あの子可愛くね?」

「ああ、可愛いな……。レンちゃん、だったっけか?」

「ああ、前にそう名乗っていたよな。ギルマスの浮気相手か?」

「いやあの感じだと、領主様の愛人って可能性も……」

「「有り得るな……」」


 レンがいなくなってすぐ、こんな会話がギルドの中で繰り広げられたのは、レンが知らなくていい話だ。

 おそらく、レンが知ったら卒倒するだろう。


 レンは村にいた頃にも女の子扱いをされて、しばらく家に閉じこもったのだから。

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