第53話

「――着いたよ」

「はい」


 レンは領主様に案内されて、会議室にやってきた。

 ここにはギルドマスターがいるらしいが、正直レンはビクビクしていた。

 理由は簡単、依頼を受けるためにあの時抜け出したからだ。

 悪いことをしたとは思っていないが、何を言われるか分かったもんじゃない。


「……ふぅ」


 気持ちを落ち着けるレン。

 だがそんなことはいざ知らず、領主様は会議室に入った。


「えっ!?」

「ん?どうしたんだい?早く来なよ」

「あ、はい」


 今ので興が削がれたというか、なんというか。

 正直今のでどうでも良くなった。


「はは……」


 レンは苦笑いしながら、部屋に入る。

 中に入って待ち受けていたのは、前見た時と全く変わった様子のないギルドマスターだった。


「……なぁ、いきなり入ってくんのやめてくんねぇか?」

「僕の家なんだから別にいいだろう?」

「まぁ、そうなんだけどよ……」


 入って早々、親しげに話すふたりを見てレンは驚いた。

 権力者と権力者の関係では無いように見える。


「あの……ふたりは知り合いなんですか?」

「ん?おぉっ、レンじゃねぇか!」


 ギルマスはレンの元にやって来て、背中をばしばし叩き始めた。

 正直痛い。

 というか気づいてなかったのか、この人は……。


「ああ、所謂幼馴染ってやつだよ。昔は一緒に悪さしたからね」

「へー……」

「おいおい、悪さってよぉ、だいたいお前が俺を引っ張って行ったんじゃねぇか。俺、むしろ被害者だと思うんだが?」

「ああ、そうだったねぇ。昔のグラシアは泣き虫だったってのに……。今はもうその面影もないんだもんなぁ……」

「へー……」


 今はこんなごっついおじさんが、昔は泣き虫だったなんて、正直信じられない。


「おいっ!?それを今話すんじゃねぇよっ!?」

「えー。いいじゃん別にー。レンくんに知ってもらおうよ」

「知りたいです!」


 レンは勢いよく手を挙げた。

 物凄く気になるっ!


「いいよー。あれは東の山にこっそり入った時の話なんだけどね――」

「やめろーーーっ!それを話すんじゃねぇっ!それは俺の黒歴史だ馬鹿野郎っ!」


 ギルマスが勢いよく領主様の口を塞いだ。

 だが、レンの頭に突如声が響く。


(――入って直ぐにゴブリンに遭遇したんだ。そしたらね、グラシアったら漏らしちゃってね。僕が倒したんだけど、泣いちゃってしばらく帰れなかったんだよー)


 頭に響く声の感じからして、これは領主様だろう。

 レンは驚いたが、慌てることはなく落ち着いていた。


「そんなことが……」


 レンは生暖かい目でギルマスを見る。

 すると何かを感じ取ったのか、


「あっ!てめぇ念話で教えやがったな!?」

「あ、バレた?」

「あったりめぇだ!何年知ってると思ってんだ馬鹿野郎っ!」

「念話、ですか?」

「うん、僕の稀少能力レアスキルなんだけど、10メートル以内にいる対象と内緒話ができるっていう能力なんだ」

「へー」


 そんなに使い道は無さそうだが、貴族からすれば内緒話というのは他言無用のものが多いので、結構有用なのだとか。


「はぁ、もういいだろ……。本題に入るぞ」


 ギルマスはドカッと椅子に座り、そう切り出した。


「そうだね。このままだと終わらなそうだし。あ、レンくんは僕の隣ね」

「分かりました」


 ギルマスは机を挟んで、領主様の向かい側。

 レンは領主様の右に座った。


 そして、ギルマスが一度、ふぅ、と息を吐き、話し始めた。


「――んじゃまず、森中に転がっていた魔物の死体についてだ。ある程度の場所まではうちの冒険者連中とお前んとこの兵士で回収出来た。だが、それ以上は出てくる魔物が強くなりすぎて無理だった」

「そうか……」

「だから、それ以上に行くんならレンが自分で行ってくれ」

「分かりました」


「で、冒険者連中の報酬分配は、素材換金分の20パーセントを、依頼を受けた冒険者に分配する。それ以外はレンに渡すことになった」

「ああ、それでいいだろうな。――ふむ……。じゃあこちらも兵士たちに酒でも振る舞うとしようか……。手伝ったのに兵士たちは給料が変わらない、というのも悪いからな」

「ああ、それでいいだろうな」


「ちょ、ちょちょちょっと待ってください!」


「ん?」

「どうしたんだい?」


 前もって話し合っていたかのようにトントン拍子で話が進んでおり、気がついたらレンにも報酬が分配されるという話になっている。

 正直、自分が起こした不祥事でこうなったとレンは思っているので、貰う訳にはいかない。


「えっと、その……。領主様、さっき話したのをギルドマスターにも話してもいいですか?」

「うん?ああ、そうだね。話すといいよ」

「えっとじゃあ、失礼して。実は――」


 レンはギルマスにも、領主様に話したことと同じことを話した。

 ギルマスは一瞬驚いたような表情をしたものの、直ぐにニカッと笑った。


「お前、そんなことを気にしていたのか?冒険者なら、んな事気にすんじゃねぇよっ!それに、んな事言ったら、似たようなことをしても気にせずに報告するような奴らなんてゴミのようにいるっての」

「でも……」

「あのな?気にするのは人間的にいい事だが、冒険者としてはむしろ損だぞ?冒険者なんてのは自分と仲間の利益だけを考えときゃいいんだよ。その結果何かが起こったら、そんときゃそん時だ。言わせてもらうが、生きてりゃどうとでもなる。だが死んだらそれで終わりだ。とりあえず生きることだけ考えろ」

「……はい」

「ああ、あと、俺は厄災ディザスターだろうがなんだろうが俺は気にしねぇから安心しな。そいつが良い奴か、悪い奴か。判断基準はそれだけだ」

「ま、昔からグラシアはこういうやつだから特に気にしなくていいよ」

「……はい」

「おいこら、こういうやつってどういうやつだよ」

「グラシアみたいなやつ」

「おいこら、ちょっと表出ろや」

「いいよー。勝てるもんならね」

「……ははっ。あははは」


 ふたりのさっきと変わらない様子に思わず笑いが零れる。

 本当にさっきまで気にしていたのはなんだったんだろうか。

 レンはすっと心が軽くなるのを感じた。


 ふたりは顔を見合わせて笑ったあと、レンを優しく撫でた。

 その手は暖かく、まるで親の手のようだった。

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