第50話

 翌日。

 レンはあの後ご飯を運んで貰って食べたあと、疲れが残っていたのか、直ぐにベッドに倒れ込んだ。

 そのまま意識を失うように眠り、レンは普段の日課の、剣と魔法の鍛錬を行う時間に目覚めた。

 恐らく、この家の人間はまだ誰も起きていないだろう。


「……暇だ」


 早く起きたはいいものの、この場所がどこか分からない以上下手に動き回る訳にもいかない。

 下手に動いて迷子にでもなったらほんとにシャレにならない。


 ふと、レンは廊下で誰かが動いているのを感じた。


「……ん?メイドさんかな?」


 レンはそっとドアを開け、外を覗き見る。

 そこには見回りをしているのか、昨日領主を引っぱたいたメイドさんがいた。


「――あのー?」

「ひゃっ!?」


 突然声を掛けられたからか、メイドさんが素っ頓狂な声と共にビクッとはねた。


「あ、あぁ。あなたでしたか。随分と早起きですね。それで、何か御用ですか?」

「あはは……。普段の時間に起きちゃって……。えっと、どこか動ける場所ってありますか?」

「そう、ですね……。一応当家に大きな庭はありますが、何をするのです?」

「ちょっと、運動をね……。5日動いてなかったからといって、身体が鈍ると嫌だし」


 そう言いながら、レンは手のひらを開いたり閉じたりする。

 すると、メイドさんは驚いたようで、


「う、動いても大丈夫なのですか?」


 と、心配そうな顔で言われた。


「うーん、それがわかんないから動いて確かめようかなって。別にダメそうだったら止めるし」

「そうでしたか……。分かりました、案内しましょう。付いてきてください」

「はーい」


 レンは部屋に置いてあった自分の短剣を腰に下げ、メイドさんのあとを追う。

 その道中、メイドさんと他愛もない話をした。


「――そういえば、お互い自己紹介がまだでしたね。私の名前はミュールです」

「僕はレンです。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げると、彼女は優しそうに微笑み、


「はい、よろしくお願いします」


 と言った。


 そして、


「はい、着きましたよ。ここが当家自慢の庭です」


 そこには綺麗に整えられた芝生があり、花壇には色とりどりの花が咲いていた。

 そして、庭の真ん中にはちょうど運動するために作られたような広場がある。


「おお……。すごい……」

「ここなら、ある程度は動いても大丈夫かと」

「うん、これなら大丈夫。ありがとう、ミュールさん」

「いえ。あの、少し見ててもよろしいですか?」

「え、うん。いいよ」


 そう言うと、レンは広場向かって歩いていき、中心で剣を構える。


「……ふぅ。身体強化っと」


 そして、身体を白銀の魔力が包み込んだ。

 1回、2回……と剣を素振りし、


「――うん、いける」


 斬る、刺す、投げる、そして足をバネに飛び上がり、振り下ろす。

 それ以外にも、レンはいつものように動き回った。

 白銀の魔力の残滓が周囲を漂い、周囲の景観も相まってそれはさながら幻想的な光景だった。


 そして、うっすらと汗をかき始めたくらいでレンは最後に、空中で両手に短剣を持った状態で横に回転し、身体強化を解除する。


「……ふぅ。うん、動けた」


 レンは満足し、短剣を腰に戻した。

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