第49話

 あれから数分後、部屋の扉がノックされ先程のメイドを含め、数人が入って来た。


「――失礼するよ」


 その中でも、他の人とは纏っている空気の違う男性がレンに声を掛ける。

 恐らく、この男性がこの家の主だろう。


「あ、はい。――えっと、あなたは……?」

「失礼。僕はこの家の主で、この領地を治めさせてもらっているルイス・フォン・シュライブという」

「えっ!?領主!?」

「――あぁ、堅苦しいのはなしにしてくれよ?僕はそういうのは苦手なんだ。それに、この街の英雄にそんな口調で話されてはたまったもんじゃないからね」

「……英雄?」


 レンはここに英雄がいるのか、と思ったが全員の視線はレンに向いており、その英雄というのがレンを指しているのは明らかだった。


「えっ、僕……?」

「あぁ、そうだとも。街を襲ってきたAランク以上の魔物1000体をひとりで倒し切ったのだから、そう言われるのは当然だろう?」

「いや、でも……」

「あの時僕らはあの場にいて、魔物を倒す気満々だったんだけどね、いざ戦おうと思ったら、危険になるまで僕に下がっていてくれ、とうちの兵士達が言うもんだから仕方なく待っていたんだ。それで、兵士の攻撃が効いてない感じだったからやった!戦えるっ!と思ったんだけど、君が魔法を使って全滅させるんだもの」

「あ、えっと……。ごめんなさい?」

「ほんと、戦う気だったのに……はぁ……。――いてっ!」


 彼がこれ見よがしにため息を付くと、近くにいたメイドが彼を引っぱたいた。


「えっ……!?」

「ルイス様。彼にそんなことを言っても仕方ないかと。それに、ルイス様は領主なんですから戦場に行かないで欲しいんですけどね」


 彼をどついたメイドがそう言う。

 だが、


「それは無理だなっ!戦いたいしっ!」

「はぁ……」


 彼は根っからの戦闘狂のようで、メイドさんが呆れている。

 というか、さっきメイドさんが自分の上司を叩いていたような……。


「まぁ、そんなことはいいんだ。そんなことより、君にはいろいろ聞きたいことがあるわけなんだけど……。――まぁ、それは明日にしようか。外もそんなに明るい訳でもないし。まだ目覚めたばかりで色々整理がつかないだろうから」


 部屋の窓から外を見てみると、外は紅くなっており、かなりの時間寝ていたことになる。

 レンは、疲れていて夕方に起きた程度に考えていたのだが、


「――あ、ちなみに君が気を失ってから5日経ってるよ」

「……えっ!?」

「ははっ。まぁ、君のその腕のことも含めて明日、ゆっくりと話そうか」

「えっ、腕?――えっ、なんで包帯がこんな厳重にっ!?」


 レンが最後に覚えているのは、狂戦化バーサークが切れた直後に気力を振り絞って異空間収納ストレージからマネリ草と依頼書を出したことだ。

 その時には腕を動かさなかったし、なにより意識が朦朧としていた。


 故に、レンは腕が痺れていることに違和感は覚えなかったし、腕を意識して見ることもなかった。

 だからこそ、レンはなんで腕に包帯が巻かれているのか、全く理解出来なかった。


「……やっぱり、覚えていないんだね」

「えっ、やっぱり?」

「いや、なんでもないさ。じゃあ、後で食事をここに持ってこさせるから、ゆっくり休んでくれ」


 そう言うと、彼は扉の方へ向かっていき最後に、


「あ、ひとつお礼を言うのを忘れていたよ。私の娘を救ってくれて、ありがとう」

「えっ、あ、はい」


 唐突にお礼を言われ、腕に包帯が巻かれていることが気になってしょうがなかったレンは咄嗟に反応出来なかった。


「明日、娘と一緒に改めて礼をさせてもらうよ。じゃあ、ゆっくり休んでくれよ」


 そう言って、彼らは部屋から出て行った。


「…………」


 彼らの気配が遠ざかって行くのを感じて、レンは部屋のベッドに倒れ込み、


「どうしてこうなった……?」


 そうぼやくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます