第45話

 レンは大した時間もかからずに、魔物の群れの先頭にたどり着いた。


「うわぁ、すごい光景……」


 レンから見える限りでも1000体を超え、本来群れを作らない魔物ですら行列を作っている。

 これは何者かによって操られている、そう考えるのは普通のことだった。


「――っと、ぼーっとしてる場合じゃない!早くしないと街に着いちゃう!」


 レンは魔法を魔物の群れへと打ち込んでいく。

 だが、次から次へと追加されていくので、全く減った様子が見られなかった。


「あぁもうっ!鬱陶しい!『アイシクル・レイン』!」


 少しずつ削っていたが、全然減る様子がない群れにいらいらしてきたレンは、上空から氷の槍を降らし大量殲滅を図る。

 だが、その空いた穴も、直ぐに埋められる。


「あーもうっ!『アイシクル・レイン』!『アイシクル・レイン』!」


 レンは街に向かわせないように、少しずつ下がりながらも倒していく……。



 ―――――――――――――――――――――――


 一方その頃街では。


「ルイス様!夜分遅くに失礼します!」


 領主の舘、その領主の寝室がメイドらしき人物によって開け放たれる。

 本来なら咎められることだが、今は非常時。

 そんなことは言ってられなかった。


 幸いにも、領主は仕事をしていたのか、机に向かって座っていた。


「ミュール……?どうしたそんなに焦って」


 ミュールと呼ばれたメイドは、息を整えながらもルイスに問いかける。


「ま、また仕事をされていたのですか……っ!あれほど休むべきと、何度も何度も申し上げているではありませんかっ!」

「ま、まぁ落ち着け。ココ最近はシャリスのことでまともに寝れないのだ。こうして仕事をしている方が有意義なのさ」


 そう言うと、ミュールはルイスをギロりと睨む。

 ルイスはビクッとした後、愛想笑いを浮かべて話しかけた。

 頬には冷や汗が伝っている。


「さ、さて……。本題に戻ろう。こうしてお前が焦って私の部屋に入ってきたのだ。一体、何があった……?」

「これが終わったあと、絶対に寝かせます……っ!……ふぅ、事態が起こったのはつい3分程前、東のリエラの森から光の柱が上がったことが始まりです」


 ミュールはルイスを寝かせる決意をし、一旦息を整えて本題を話し始める。


「光の柱は森の奥、おそらく冒険者がたどり着いていないであろう所から発生しました。そして、その光の柱が収まると同時に、大量の魔物の反応、及び魔力反応が感知されました……。さらに、その魔物がこの街へ向かっているのも確認出来ました」

「なんだとっ!?」


 ガタッと音を立てて、ルイスは席を立ち上がる。


「さらに、その光の柱を見た住民達から、不安の声が上がっております。今は騎士団が沈静させていますが、いつ暴動が起こってもおかしくはないかと」

「そうか……。魔物の数は?」

「およそ1000体くらいかと」


 そう言う彼女の顔は、絶望に染まっているようだった。

 1000体、それはこの街にいる全冒険者を集めてもおそらく殲滅出来ないであろう数字だ。

 本来ならば領主は街民に逃げるように伝え、自分も逃げるべきだ。

 だが、ルイスは違っていた。


「……そう、か。――では、東門に騎士団の3分の2を集結させろ。残りは民を抑えるのだ。そして、僕も出よう」

「る、ルイス様自らですかっ!?」

「当たり前だ。それ以外に誰がいる」

「無茶言わないでくださいっ!あなたは領主ですよっ!?」


 ミュールは今にもルイスに掴みかかりそうな勢いだ。


「だからなんだ?仮にも僕は元Aランクの冒険者だ。そう敵に遅れは取るまいよ」

「そういう問題ではないのですっ!あなたが領主である、ということが問題なのですっ!これがラルク様を連れてこっそりと森の浅い場所に行くのであれば、まだいいのです。良くないですけどもっ」

「……バレてら」

「ですが、相手は1000体以上。しかも、深い場所からということはかなり強力な魔物が来る可能性が高いのです。どうか、どうかお考え直しください!」


 ミュールはルイスに頭を下げる。

 だが、それは思わぬ形で終わった。


「無駄よ無駄、そんなことでその人が止まるわけないじゃない」


 ふと、横から声がかかる。

 一糸まとわぬ姿でベットに横たわる美女、領主ルイスの妻、ララルアだ。


 ここは領主の寝室、つまりララルアがいてもおかしくはない。


「こ、これはララルア様っ!うるさくして申し訳ありません!」

「いいのよ、私もその人が寝てないのを気にしているんだもの」

「はは……」

「それに、私はその話に参加させてもらいたいわ。――ふふ、腕がなるわね……」


 最後の言葉はボソッと呟かれたものだが、ミュールの耳はしっかりと捉えていた。


(こ、この似たもの夫婦が……っ!)


 そう思うものの、仮にも主だ。

 口には出さない。


 ララルアもまた、ルイスと同じく元Aランクの冒険者だ。

 冒険者になった当初はいがみ合っていたが、だんだんと惹かれ合い、結婚に至ったらしい。


「とりあえず、今は刻一刻を争う事態なのでしょう?」


 ミュールはそっとため息をつき、


「……分かりました。騎士団の3分の2を東門に集結させます。それと、おそらく止めても行くんでしょうね。なので、お願いですからっ、決して怪我をしないようにお願いしますねっ!?」

「「分かってる(わ)」」


 ミュールはもう一度そっとため息をつき、ルイスの部屋を後にした。


 準備することはいっぱいある。

 ミュールは準備をすべく、動き出した。

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