第39話

「――がいします!どうか――――けてください!」


 グラシアと一緒に、下の階へ降りていくと、切羽詰まったような声が聞こえてきた。


「――どういう状況だ?」

「あ、ギルドマスター……。それが……」


 聞くところによると、どうやら突然領主の息子さんが来て、冒険者達にお願いをして回ったらしい。


 ここで、この領について説明しておこう。

 ここはシュライブ辺境伯が治める人口30万人ほどの街だ。

 領主は数年前に領主になったが、街のために尽くす人で、領民達からはかなり慕われている。

 領主には2人の子どもがおり、仲のいい姉弟だと領内では有名だ。



 そして、今回ギルドに来たのは弟の方で、どうやら姉が病気になったのでそのための薬草を取ってきて欲しい、というものだ。


 無論、領主の息子からということは、かなり報酬が期待出来る。

 なので何人もの冒険者がその依頼に応えようとしたのだが、その依頼の難しさに誰も応えられなかったらしい。


「それで、その依頼っていうのはなんだ?」

「……魔力硬化症を治すために必要なマネリ草を取ってきて欲しい、というものです……」

「……そうか。それは、確かにこの街にいる冒険者には厳しいだろうな……」


 魔力硬化症。

 身体中の魔力が徐々に固まっていき、やがて死に至る病だ。

 治す方法はただひとつ、魔素の多い地帯にのみ生えるマネリ草を使って特効薬を作り、呑むことだけだ。


 そして、問題は魔素の多い地帯、という所にある。

 魔素の多い地帯には強力な魔物がおり、それを対処することが出来なければ、たとえマネリ草を取れたとしても帰ってくることはできないのだ。





 グラシアは領主の息子の元に向かう。


「あなたは……?」

「私は、このギルドのギルドマスターを務めております、グラシア、というものです。お話は聞かせてもらいましたが、このギルドでは対処しかねます……。申し訳ございません……」

「そんな……。ギルドは……ギルドはっ!お願いを聞いてくれるんじゃなかったのかっ!ちゃんと報酬も用意してある!だから、頼むよっ!」


 息子さんは、グラシアに掴みかかった。

 それを、グラシアは甘んじて受け入れた。


「申し訳ございません……。助けて差し上げたいのですが、このギルドとて、大切なメンバーを無闇矢鱈と殺す訳にはいかないのです……」

「――そうか……。わかった。ありがとう……」

「大変、申し訳ございません……」


 息子さんはとぼとぼと、ギルドの前に停めた馬車に乗り込んで行った。

 その背中を、グラシアは頭を下げて見送った。


「――はぁ……。さて、レン。これから学園に行くに当たっての説明を……。どこいった?」


 レンの姿はギルドから忽然と消えていた。

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