第33話

 それは鑑定から2年後、レン達が7歳の時のことだ。


 この頃の日課と言えば、毎朝6時ごろに村の外れにある広場で朝の鍛錬をみんなですることだ。

 数年後には一緒にやることは無くなり、個人で勝手にやるようになる。

 それは、個々の能力にあった鍛錬をするようになるからだが、この頃はまだ一緒にやっていた。


「――199、200っ!よしっ、これで腕立てと腹筋終わりだっ!」


 ギリーがそう言うと同時に、全員が倒れるように地面に座った。


「……はぁ、はぁ。相変わらず、疲れるな、これ……」

「そうだな。まぁ、あと数ヶ月もすれば個人の鍛錬に完全に変わるらしいし、それまでの辛抱だろ」


 ネクソンの言葉に反応するように、ギリーが余裕そうな表情でそう言った。


「それはそうなんだけどよ……」


 ネクソンはそう言って、汗を滝のように流しながら、荒く息を吐いているナフィを見る。

 そして、その横で心配そうにしているレン。


「――フィーちゃん、大丈夫?」

「う、うん……。だい、じょう、ぶ……」


 明らかに顔は真っ青だし、大丈夫そうには見えないのだが、ナフィは強がるようにそう言った。


「そう……?」

「う、うん……。ふぅ……。『彼の者の身体の調しらべを癒したまえ。キュア』」


 ナフィは一度息を大きくすい、魔法を唱える。

 すると、目に見えるようにナフィの顔色が良くなっていった。


 この頃はまだ、レン以外ほとんど無詠唱を使うことは出来なかった。

 だから、レン以外の3人は、簡単な魔法を除いていちいち詠唱をする必要がある。

 まぁ、詠唱することが魔法使いにとっては普通なのだが。


「よし、ナフィ大丈夫だな?」

「うん、もう平気。ありがとう、レンくん」

「どーいたしましてー」

「……んじゃ、また後でな」

「はーい」

「うん、また後で」

「んじゃ、また後でなー」


 そう言うと、各々は家の方向に走っていった。






 その後、朝ごはんを食べ、再び広場に集まる。

 その時には、おじさんは広場の中央に突っ立っていた。


「――おし、集まったな。今日は外に出んぞ」

「おじさん、許可は取ったの?」


 レンはおじさんにそう聞く。

 この場合の許可というのは、おじさんの奥さんにだ。


 本来なら大おば様なのだが、大おば様は確実に許可するのは分かっていた。

 だから、大おば様に対しての許可は後でも全く問題ない。


 むしろ奥さんは、許可を取らないで行くとブチギレる。

 その場合の被害は全ておじさんに行くのだが、傍から見ているだけでもかなり怖いのだ。


 だから、ちゃんと取ってるかと思いきや、


「…………」


 おじさんはすっと目を逸らした。


「……取ってないのか?」


 ギリーの射抜くような視線に対して、おじさんは、


「……いやまぁ大丈夫だろ、うん」


 何やら自分を納得させるように、そう言っていた。

 それを見た全員は、


「「「「はぁ……」」」」


 大きくため息をついた。

 これは今に始まったことではなく、毎回毎回許可を取らずに行くのだ。

 それで、帰ってくると怒られるという所までがワンセットなので、もはや日常風景と化している。


「……おじさん。1回くらいは許可取ってから来ようぜ?」

「……断られるのが目に見えてるからな。断固お断りだ」


 おじさんはキリッとした表情で、レンたちに言った。

 全くもって、かっこよくなかった。






「……はぁ、もういい。それで、今日は何すんだ?」

「東の山に、2人組のパーティを組んで入ってくれ。それでだんだんと南に向かって行って、村の南門にたどり着いたら今日は終わりだ」

「……おじさん、わざわざおばさんから逃げるために南門にしたんじゃ」

「そ、そんなことないぞぅ!べ、別に逃げてなんかないしーっ!」


 誤魔化すように口笛を吹く。

 だが、フーフー言ってるだけで、全然吹けてなかった。


「いや、明らかに逃げてんだろ……。それで、パーティ分けは?」

「ギリーとネクソン。レンとナフィだ」

「……大丈夫か?レンはともかく、ナフィにはきついだろ」

「一応隠れながらに見守ってるから平気だ。もし何かあれば直ぐに駆けつける」

「りょーかい。レンとナフィもそれでいいな?」

「うん」

「頑張る……っ!」


 ナフィは胸の前でグッと、手に力を込めて握っていた。


「無理はしねぇようにな。んで、早速行くのか?」

「おう。陰ながらサポートはするから全力で行ってこい」

「りょーかい。んじゃ行くぞ!」

「「「おう(うん)!」」」


 そう言って、全員は一斉に山へと駆け出して行った。






「はぁっ!」


 レンは的確に、爪の長い猿のような魔物の首に向かって短剣を振り切る。

 だが、短剣は長い爪に阻まれる。


 そして、もう片方の腕で、レンに向かって爪を振り下ろす。


「……っ!」


 レンは後ろの方で気配が揺らぐのを感じた。

 だが、


「『彼の者を守りたまえ!聖盾ホーリーシールド』!」


 ナフィの魔法によって、その爪は動きを止めた。

 そのチャンスをレンが逃すはずもなく、


「しっ……!」


 今度こそ、その短剣は魔物の首に吸い込まれていき、魔物は息絶えた。


「……ふぅ。ありがと、フィーちゃ……っ!」


 レンはナフィの後ろから迫る猿の魔物に気づいた。

 だが、それにナフィは気づいておらず、


「危ないっ!」


 レンは咄嗟にナフィを押し、短剣で受けようとした。

 だが、魔物は左の爪で右手に持った短剣を弾き飛ばし、レンの身体に右の爪が振り下ろされた。


「ぐぁ……っ!」


 その傷は、レンの胸から腹にかけて大きく切り裂かれ、直ぐに治療しなければ死んでしまう程だった。


「ひぅ……っ!」


 ナフィはレンがやられたことで完全に腰が抜け、戦意を喪失していた。

 魔物の後ろからおじさんが来ているが、間に合うかどうか。


 魔物はニヤりと笑ったかと思えば、勢いよくナフィに向かって爪を振り下ろす。


「……だめ……っだ!」


 レンは短剣に魔力を纏わせ、魔物に向かって投げる。

 魔物は爪でガードしようとしたものの、その爪ごと首を切り落とした。


「――レンっ!」


 おじさんがレンに駆け寄るものの、レンは荒く息を吐くばかり。


「ナフィ!」

「ひぅっ……」

「お前が治さなきゃ、レンは死んじまうぞ!」

「…………っ!」

「早くしろっ!」

「『ひ、ヒール』……」


 だが、いちばん低い回復魔法で傷口が塞がるはずもなく、血はダバダバと出続けていた。


「そんなんじゃ治らねぇよ!せめて『ハイヒール』にしやがれ!」

「ひぅ……っ!『い、癒しの光よ、彼の者を照らせ。ハイヒール』……っ」


 すると、傷口は少しずつ癒えていく。

 だが、全ては治らず相変わらず血は出ていた。

 しかし、この程度なら平気だと判断したおじさんは、レンを担ぎ上げ、


「ナフィ、お前もついて来い!」

「う、うん……」

「ギリー達も回収する。少し寄り道すんぞ」


 そう言って、おじさんは勢いよく走り出す。

 必死に追いすがるものの、ナフィは次第に遅れだした。


「……ちっ。しゃあねぇな……」


 そう言うと、おじさんはナフィを横脇に抱え、再び走り出す。

 そして、魔物と戦っていたギリー達を見つけ、その魔物をおじさんが瞬殺した後、村の方へと走り出した。


「……なぁおじさん!レン、どうしたんだっ!?」


 ギリーが走りながらおじさんに聞く。


「後で話すっ!今は急いで村に戻るんだ!」

「……分かった!」


 そして、村に戻って直ぐに大おば様の家に駆け込み、レンの傷を癒して貰った。

 だが、さすがに時間が経ちすぎたのか、レンの胸に深々と傷痕が刻まれた。






 その次の日は、休みになり、さらにその次の日。

 レンは復帰し、朝の鍛錬にも参加した。


「おいレン。大丈夫なのか?」

「うん。平気だよ」


 そう言うレンの顔を、悲しそうな顔で見ているナフィ。


 そして、朝の鍛錬が終わったあと。


「れ、レンくん……!」

「ん?どうしたの、フィーちゃん」


 いつもと変わらない様子のレンに安心し、それと同時に申し訳なくなった。


「ご、ごめんなさい……」


 ナフィはレンに向かって深々と頭を下げた。

 それを見て、レンは驚いたような表情をした後、ふっと柔らかい表情をし、ナフィの頭をポンポンと撫でた。


「ふ、ふぇ……?」


 そして、驚いたような顔をしながら、顔を上げたナフィに、レンは、ナフィの顔を軽く横に引っ張った。


「ひ、ひらいよ、レンくん……」


 その顔をマジマジとレンは見つめ、プッと吹き出した。


「な、なんで笑うの……!」

「いや、和ませようと思って。――うん、フィーちゃんにそんな顔を似合わないよ。やっぱ、笑ってた方が可愛いや」

「……っっ!?」


 その瞬間、ナフィは顔を今にも沸騰しそうなくらい赤くした。


「この傷はフィーちゃんを守ったっていう証拠でしょ?なら、全然気にしてないよ。フィーちゃんが傷つくよりは、断然いいからね」

「で、でも……」

「いいから気にしないで。気にするなら、次に傷ついた時に癒してよ」

「…………うん」

「んっ!よし、じゃあこれでこの話はおしまいっ!」


 ナフィの返事を聞き、レンは嬉しそうな表情をする。

 そして、


「じゃあ、帰ろ?」

「うん……っ!」


 レンは家に向かって歩きだし、その横にナフィは並んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます