第32話

「レンくん、だったかな」


 レンに、神官は声を掛ける。


「あなたは……?」

「僕は教会で司祭をやっている、パシェル=エルガー=サジタリウスというものだ」

「……!」


 教会は上から、教皇、枢機卿、大司祭、司祭となっており、その下には聖職者や聖騎士などが含まれる。

 司祭以上にはある名前が与えられ、その名前を名乗ることが出来る。

 また、その名前で自分の位がほかの人にも分かるようになっている。


 サジタリウスもそのひとつで、かなり有名な名前と言っても過言ではない。


 そんな人がなぜここにいるのか、それが分からなかった。

 しかしそれを察したのか、


「僕がここにいる理由は、行方不明、いや死んでしまった者達を探しに来たからだ。そして、ここに村があった痕跡を見つけ、来てみた結果シルク様がいたので話をしていた、というわけ」


 レンの顔を見て彼は言う。

 そして、聞きなれない名前を聞いた。


「シルク様……?」

「……あれ?シルク様、名前教えてないんですか?」

「別に必要じゃないしのう」

「そうですか……。変わらないですね……。まぁ、それはそれとして。話を聞く限り、君は力が欲しいんだよね?」

「……うん」


 たとえ、魔王を倒すにしても力が足りないのは明らか。

 それはオリアスたちとの戦いで目の当たりにしている。


「――シルク様、彼を学園に通わせてはいかがでしょうか」

「学園か……。考えたことはあったが、結局4人分の金はない、ということで諦めたのう。今は問題なくなってしもうたがな」

「あぁ、なるほど……」

「学園?」


 ひとりわかっていないレンに、大おば様は説明する。


「学園は簡単に言うと、主に貴族の子どもや、能力を持ったものが集まるところじゃ」

「随分ざっくりと言いましたね……。間違ってませんけど……」

「それで、その学園がどうしたの?」

「うむ、その学園には将来冒険者になりたい、というものを育成するところがあってな。そこには力を求めるものが集まるんじゃ。故に、レンにはその彼らと切磋琢磨して力をつけてもらおうかと思ってな」

「…………うん、わかった。行くよ」


 少し考えて、そう答える。


 レン達はこの時気づいていなかったが、既にレンの強さは異常と言っても過言ではないものになっている。

 正直なところ、学園に行っても学ぶことなんてないんじゃないか、というレベルで。

 そんなことを知っているのかどうか分からないが、大おば様達は言う。


「学園の入学式は12歳から。それまでは、クリスとわしが徹底的に教えるからの」

「わかった」

「――まぁ、そういう訳じゃ。何かあればよろしく頼む」

「はぁ、分かりました。何かあれば、遠慮なく言ってください。――ではこの辺で失礼します」

「なんじゃ、泊まっていけばよかろうに」

「いえ、そこまで迷惑をかける訳にはいきませんし、別の仕事もありますからね」

「お主も忙しいんじゃのぅ」

「ははは……」


 彼は軽く笑い、付き添いの騎士と共に村を去っていった。






 そして、2年間毎日のように鍛錬をした。

 この時に気づいていればよかったのだが、レンは決しておじさんと大おば様に勝つことは出来なかったので、自分はそんなに強くないと思っている。

 だが、それは違う。


 正直、おじさんと大おば様は世界最強と呼ばれるレベルの話だ。

 そんな人に勝とうと思う方がおかしい。

 そして、レンはこれが普通だと思っており、あとから苦労するのだがそれはまた別の話。


 そして、旅立ちの前日。

 最後に試験という形でおじさんと手合わせをしていた。

 武器は真剣で、急所に当たれば死ぬ可能性すらある。


「――ハァッ!」

「ぐっ!やるな……っ!」


 魔力を纏った刃でおじさんを攻撃する。

 だが、盾に防がれた。


 この手合わせは、おじさんに一本入れるのが目標となっている。

 なので、


「……あぁ、参った」


 即座に気配を消して、背後にまわる。

 そして、首に短剣を押し当てたことでおじさんは降参した。


「それにしても、レン。強くなったじゃねぇか」

「ありがと。でもまだおじさんに勝てる気はしないけどね。それに、最後のだっておじさん手加減してたでしょ」

「……」


 すっ、とおじさんは顔を背ける。

 これはおじさんがとぼけている時によくやる行動のひとつだ。


「まぁ、手加減されたにしろ、合格ってことでいいのかな」

「あぁ、もちろんだ」

「そっか……」


 レンは自分の手を見つめ、握りしめる。


(ようやくだ。ようやく、スタートラインに立てた)


 おじさんに勝つことはレンにとって、1番の目標だった。

 手加減されたが、それはまた今度リベンジしよう。

 今本気でやられたら、絶対に死ぬ自信だけはある。


「――レン。明日出発だろ。早く寝ろよ」

「うん、わかった」


 レンは明日に向けて、準備をする。

 まぁ、準備といっても大したものは持っていないのだが。






 そして翌日。

 レンは大おば様とおじさんの前で別れを惜しんでいた。


「――おじさん達は、ここにいるの?」

「あぁ、死んじまった村人の代わりに、俺たちゃレンの帰りをずっと待ち続ける、っつう役割があっからな」


 おじさんは悲しそうな表情で、だが精一杯の笑顔でそう言う。


「そういうことじゃ。辛くなったらいつでも帰ってきて構わんからの」

「そっか……。うん、わかった」

「気をつけて行けよ」

「大丈夫じゃと思うが、何かあればすぐに連絡をくれ。すぐに駆けつけるからの。元気での」

「うん、行ってきます」


 決して後ろを振り返ることはせず、レンは村を旅だった。

 レンの冒険は、まだ始まったばかりなのだから。


 こうして、新たな夜明けを迎えた。

 まずは向かうのは、村から近くの街、シュライブ辺境伯領だ――。

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