第25話

side story:ネクソン

――――――――


 ギリーが死んだ。

 それを、ネクソンは受け入れられなかった。


 そして、ギリーが死んだにも関わらず、ムルムルは生きていた。

 しかも、腕の1本しか失っていない。


「なんで、生きて……」

『あぁ?だから言ってんだろ。あんなんじゃ俺は死なねぇんだよ。ひ弱な人間共と一緒にすんな』

「……す」

『あぁ?』

「絶対に殺す!!」


 あいつに勝てるか勝てないか、そんなものはネクソンの頭にはなかった。

 ただ、ギリーを殺したこいつに一矢報いたかったのだ。


「援護するぞ!ネクソン!」

「っ!助かる!」


 後ろからレンの声が聞こえてきた。

 ネクソンの攻撃の合間合間に、ふたりの魔法が飛んでくる。


 自分ひとりで戦っている訳では無いこと、一緒に強敵に立ち向かうということを出来たことが嬉しかった。

 少し冷えた頭で、冷静にムルムルに攻撃をする。


 だが、ことごとく防がれ、弾かれる。

 当たったと思っても、その攻撃は決定打にはならない。


 何度も何度も、何度も突く。


 何とか攻撃を抑えていると思っていた。

 あいつは防戦一方だったから。

 ダメージはなくとも、いつかは決定打が出るだろうと。


 だが、それは違った。

 あいつは、ずっと隙を伺っていた。


『……ちっ。期待外れか。あのガキがなかなかにやるからお前もかと思ったんだがな』


 ムルムルがぼそっと呟くように言う。

 その言葉にかっとして、突撃する。


 だが、それがいけなかった。


『もういい。邪魔だ』


 近づくと、あいつは槍を避け、腕を振り下ろし、ネクソンを吹き飛ばした。


「ぐぅっ!」


 何とかギリギリで腕をクロスして防御したものの、腕が完全に折れてしまう。

 このままでは槍を持つことすらままならない。


 だが、その後の光景に痛みを忘れて、呆然とした。


 突如、ムルムルが後方に向かって口を開いたのだ。

 何かと思えばその直後、もうひとりの魔人が唐突に現れた。


『……なぁ、遅すぎじゃねぇか?』

『――仕方ないだろ。お前の言う通り、綺麗な状態で連れてきたんだからよ』


 そいつは獣頭で、誰か人を担いでいるようだった。


 そいつが人を下ろすと、それが誰だがわかった。

 レンの両親だ。


 レンがあいつらと話している。

 先程まで、怒りに任せて槍を振っていたネクソンとは大違いで落ち着いている、ように見えた。






 だが、突然レンの両親は動き出し、レン対獣頭の魔人+両親の戦いが始まった。

 レンを助けようとするものの、ムルムルが目の前に土の壁を生み出し、ネクソンが行けないようにする。


『おいおい、お前の相手は俺だろ?そっちじゃねぇ、よっ!』


 ムルムルはネクソンに近づいていき、ネクソンの身体をナフィの方に蹴飛ばす。


「ぐっ!――ナフィ!回復を!」

「う、うん!『エクストラヒール』!」

『させねぇよ!『回復反転ヒールリバース』!』


 ナフィが回復魔法を放つと同時に、ムルムルが魔法を放つ。

 ふたつの魔法はネクソンに当たり、ナフィの魔法が回復すると同時に、回復した傷がさらに広がっていく。

 こんなもの、拷問でしかない。


「なっ!?ぐっ!あぁぁぁぁぁぁ!!」

「ネクソンくん!?」

『ははっ!ついでに、『回復無効ボイドヒール』!』


 苦しんでいるところをムルムルがネクソンの肌に触れ、魔法を放つ。


「あっ……。くそったれがーーーーっ!『真空斬エアカッター』!!」

『おっと、あぶない』


 ネクソンが風の刃を放つものの避けられる。

 至近距離にいたにも関わらず、当たらなかった。


 ネクソンは半信半疑になる。

 本当にこいつに勝つことは出来るのか、と。


『くくっ、諦めて死ね!』

「っ!死んで……たまるかぁ!!『旋風サイクロン』!!」


 ネクソンの周りから、風の刃が荒れ狂う。

 だが、当たらない。


『あぶねぇなぁ!――オラァ!』


 荒れ狂う風の刃を避け、ネクソンを蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたのは、ナフィのいる方向だった。


「ぐぁっ!」

「ネクソンくん!?『エクストラヒール』!――っ!?回復しない!?」

「だ、ダメだ、ナフィ!ギリーと同じ魔法掛けられてる!回復は効かねぇ!」

「そんな……っ」

『くくっ、もう終わりかぁ?』

「ぐっ、ぉぉおおおお!」


 魔力で折れた腕を補強、槍を持ち、ムルムルに向かって突進する。


 槍で突く、突く、突く。

 だが、当たらない。


「ネクソンっ!もういい!やめろ!」


 ナフィの方向からレンの声が聞こえる。

 勝ったのか、と思ったが視界の端に獣頭の魔人がいるのでそれは無いだろう。


「だがっ……!まだ……やれる!」

「ネクソン!?」

「う、ぉぉおおおお!『風爆弾ウインドボム』!」


 魔力を練り上げ、全魔力を使って放つ。

 だが……ムルムルは吹き飛ばされただけで、一切傷がついていなかった。


『……はぁ、弱っ!おい、そっちは?』

『まだだな』

「っ!」


 再び獣頭の魔物が、ムルムルの横に現れる。

 後ろを向いてみると、レンとナフィは、レンの両親に囲まれて動けないようだ。


『んだよ、さっさと終わらせろよ』

『いや、お前の方が終わってからやる。お前的には、さらに絶望を見させた方がいいんだろう?』

『へっ!よく分かってんじゃねぇか。そうだな、じゃあこっちを先に片付けるとしよう。――じゃあな、糞ガキ。『土柵アースフェンス』』


 ネクソンの足元から土が槍のように盛り上がり、ネクソンを突き刺していく。

 何かが来ることが分かっているのに、避けられなかった。


「ぐぁぁぁぁああああああっ!!!?」

「「ネクソン(くん)!!」」


 後ろからレンたちの声が聞こえた。

 そっちに顔を向けようとする。

 だが、意識がだんだんと遠ざかっていく。


 最後だ。

 最後に一矢報いてやろう。


 そう思い、ネクソンは命を燃やして魔法を放とうとする。

 だが、


『ちっ!まだ生きてるのか。しぶとさだけはありやがる。だが、じゃあな。今度こそさようならだ。『土棘アーススパイク』』


 突き刺さった棘から、さらに棘が生え、ネクソンの身体を突き破っていく。


「ぐっ!ああああぁぁぁぁ…………」


 意識が、遠のいていく。


 あぁ、これで死ぬのか……。

 今逝くぞ、ギリー。


 レン、ナフィ。

 あいつらを、倒してくれ。

 そしてどうか、俺たちの分までしあわせになってくれよ。


 そう願い、ネクソンは力尽きた。

 その顔は恐怖の滲んだ顔ではなく、殺されたとは思えないほど穏やかな表情だった。

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