第24話

 ギリーが死んだ。

 その事実をレンたちは受け入れたくなかった。

 だが、現実は変わらない。

 ギリーは息をしていないのだから。


 しかし、その後の出来事にレンたちは無理やり現実に引き戻される。


『――っう。いってえなぁ』

「「「!!?」」」


 ギリーが放った魔法によって、ムルムルは吹き飛ばされたので倒したと思っていた。

 ムルムルと相打ちになっていたのだと思っていた。


 だが、実際は倒せていなかった。

 本当にこいつを倒せるのか、そう思ってしまう。


『あぁ?なんだその顔。あんなんで俺が死んだと思ったのか?死ぬわけねぇだろ。それに、そこの既に死んでるガキも言ってたじゃねぇか、腕を貰うって。そいつは俺がそんなんじゃ死なないって分かってたんだろうよ。それでも腕の1本を持ってかれたのにゃあ驚いたがな』


 実際、ムルムルの左腕はだらんとしていて、あの様子だと動かないのだろう。


 だが、その分の犠牲が大きすぎる。

 ギリーが命を賭けても腕の1本しか持っていけなかったのだから。


 呆然としていたところ、ネクソンがぼそっと言う。


「なんで、生きて……」

『あぁ?だから言ってんだろ。あんなんじゃ俺は死なねぇんだよ。ひ弱な人間共と一緒にすんな』

「……す」

『あぁ?』

「絶対に殺す!!」



 鬼気迫る様子でネクソンがムルムルに向かって飛び込む。


「レンくん!」

「っ!あ、あぁ!援護するぞ、ネクソン!」

「っああ!助かる!」


 ネクソンがムルムルの身体を突くものの、全く効いている様子がない。

 レンとナフィも『氷槍アイススピア』や『光弾ライトバレット』を放つものの、ことごとく避けられる。


『……ちっ。期待外れか。あのガキがなかなかにやるからお前もかと思ったんだがな』


 ムルムルが呟くように言う。


『もういい。邪魔だ』


 ムルムルはそう言うと攻撃のために近づいてきたネクソンに腕を振り下ろし、思い切り吹き飛ばす。


「ぐぅっ!」


 何とか足をつき踏ん張ったものの、両腕は折れ、槍を持つことすら出来なくなっている。

 攻撃をしようとしていたレンとナフィも、恐怖で攻撃魔法を放つことが出来なかった。



 レンたちが動けないでいると、唐突にムルムルが後方に向かって口を開く。


『……なぁ、遅すぎじゃねぇか?』

『――仕方ないだろ。お前の言う通り、綺麗な状態で連れてきたんだからよ』


 声に反応するかのようにムルムルの隣の空間が揺らいで、魔人が現れる。

 そいつは獣の頭を持った魔人で、肩に村人を担いでいた。


 こいつ一体で勝てるようには思えないのに、もう一体出てくるとなおのこと勝てるわけがない。

 レンたちは思わず後ずさる。


『ちっ。まぁいい。どんなやつだ?』

『こいつだ』


 その魔人は肩に担いでいた人を下ろす。

 だがそれを見た瞬間、レンは思わず叫ぶ。


「っ!?お父さん!?お母さん!?」


 ふたりは既に事切れているようで、なんの反応も示さなかった。


『あぁ?お前の両親なのか?』

「っ!あぁ!」

『そうか……。ヒヒッ!いいねぇ、面白い』

「なにがっ!」

『なぁ、オリアスぅ。お前、あのガキの相手しろよぉ』

『なぜ?』

『あいつの絶望が見れそうだからさ!すぐにこの死体をアンデッドにする。それでこいつらと一緒にあのガキを殺せ!――両親に殺される子ども!いいねぇ、そそるねぇ!』

『お前の感性は理解出来んが、まぁいい。殺すだけだろ』

『あぁ!ヒヒッ!』

「なにをする気だ!」

『すぐに分かるぜ!さぁ、目覚めろ。お前らの息子をお前らの手で殺してしまえぇっ!!!』


 その言葉に反応するように、メリダとアルバスの死体が動き出す。

 目に光は無く、ゾンビやグールのような動きをする。

 ただ、ゾンビなどと違い動きが遅い訳では無かった。


「お父さん!?お母さん!?なにをっ!」


 動き出したと思ったら、先の魔人が攻撃を仕掛けてくる。


『――あぁ、そういえば名乗っていなかったな。ムルムルが名乗った以上、私も名乗らせてもらおう。――私はオリアス。ムルムルと同じ、魔王様の配下だ』


 攻撃の最中に魔物は名乗る。

 戦っている最中に何を言っている、という話だが、それだけ余裕があるということだろう。


「僕はっ、レンだっ!」


 一度攻撃をやめ、レンは名乗り返してやる。


 レンには余裕はない。

 だが、名乗らなければ負けを認めているような気がした。


『そうか』


 それだけ言うと、戦いは再開される。

 そして、メリダとアルバスのゾンビも参戦し、戦いはさらに激戦になっていく。





 メリダとアルバスの動きは、死体とは思えないほど早い。

 メリダが細剣でレンの身体を突き刺そうとし、アルバスが避けにくいところで剣を振り下ろす。

 そして、なんとか避けたところをオリアスが後ろから殴り掛かる。

 とてもではないが捌ききれない。

 レンは目に見えるほどに傷だらけになっていった。



「ぐ、ぐぅぅぅっ!」

『……やるな。並大抵の人間ならとっくに死んでる』

「そうか……っ!」

『……隙が出来ているぞ』

「ぐっ!」


 オリアスがレンの身体を蹴り飛ばし、レンはナフィのいる直前で何とか踏ん張って止まった。


「はぁ、はぁ……。フィーちゃん、平気?」

「う、うん。私は平気だけど……」


 ナフィがレンの方を見る。

 レンは何が言いたいのか察して言う。


「あぁ、僕は平気だよ。それより、ネクソンは?」

「……あそこ。戦えない身体でムルムルとかいうやつと戦ってる。何度も回復してるけど、さっきのギリーくんと同じで回復が効かなくなってるの……!」

「えっ!?」


 見てみると、ネクソンはボロボロになりながら、ムルムルの攻撃を受けているようだ。

 もはや、ネクソンは気力だけで立っているような状態と言ってもいい。


「ネクソンっ!もういい!やめろ!」

「だがっ……!まだ……やれる!」

「ネクソン!」

「う、ぉぉおおおお!『風爆弾ウインドボム』!」


 ネクソンの全魔力を使って放たれた魔法は、ムルムルを吹き飛ばした。

 だが、それだけ。

 傷ひとつついていないようだった。


『……はぁ、弱っ!おい、そっちは?』

『まだだな』


 オリアスはレンたちがネクソンの方を見ている時、一切手を出してこなかった。

 ナフィを守れるように常に身構えていたが、攻撃する素振りも見せなかった。

 メリダとアルバスも、オリアスに命じられて動きを止めているようだ。


『んだよ、さっさと終わらせろよ』

『いや、お前の方が終わってからやる。お前的には、さらに絶望を見させた方がいいんだろう?』

『へっ!よく分かってんじゃねぇか。そうだな、じゃあこっちを先に片付けるとしよう。――じゃあな、糞ガキ。終わりだ。『土柵アースフェンス』』


 地面から杭のように土が盛り上がり、ネクソンを突き刺していく。


「ぐぁぁぁぁああああああっ!!!?」

「「ネクソン(くん)!!」」


 ネクソンを助けようと動くが、オリアスが目の前に立って邪魔をする。

 ネクソンは突き刺されながらも、命を燃やして魔法を放とうとした。


『ちっ!まだ生きてるのか。しぶとさだけはありやがる。だが、じゃあな。今度こそさようならだ。『土棘アーススパイク』』


 ネクソンに刺さっている所からさらに杭が生まれ、ネクソンの身体を突き破っていく。


「ぐっ!ああああぁぁぁぁ…………」


 ネクソンば絶叫をあげる。

 だが、次第にその声は小さくなり、聞こえなくなった。


 ネクソンも死んだ。

 それは、レンたちにさらなる絶望を与えることになった。

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