第23話

 レンは急いでみんなの元へ戻った。


 この際、魔物に見つかっても構わない。

 何よりも早く帰ることを優先した。


「――みんなっ!」

「おう、レン。どうだった?」

「どうだったもこうだったもないよ!早く村の人達と一緒に逃げないと!」


 レンはとても慌てていた。

 おそらくあいつはすぐにでも追ってくる。

 そんな予感があった。


 追ってこなくとも、あの存在がこの場にいるだけで危険になることは明らかなのだから。


「落ち着け、レン。ちゃんと順を追って説明しろ」

「――あれは……勝てないよ」


 言葉にできたのはたったそれだけ。

 これ以外に説明のしようがなかったのだ。

 だが、みんなはレンの表情を見ただけで何かを察したようだった。


「……レン。一体何を見た」

「……化け物だよ。人の形をした、ね」

「どういう事だ」

「そのまんまだよ。――今はまだ雑魚相手に対処出来てる。でも、こいつらは無限に湧いてくるからいくらやっても意味が無いことが分かったんだ。ただ体力と時間が無くなっていくだけ」

「……分かった。すぐにでも出よう」


 パーティ内のリーダーであるネクソンが、すぐに結論を出した。

 それだけ緊迫した状況なのだ。


 状況を察してか、後ろにいる村人たちも不安そうな顔をしている。


「ギリー!どうだ!?」

「おう!いつでも行けるぜ!村の人達の準備が出来りゃいつでも行ける!」

「了解だ!――皆さん行けますか?」


 村の人達から、すぐにでも行ける!と言った声が返ってくる。


「じゃあ行きます!とりあえず馬車に乗ってください!途中までそれで行きます!――レン。凍らせてくれ」

「あ、うん。分かった。全部?」

「あぁ、全部だ」

「了解。――対象は目に見える敵全て。氷は永遠に溶けないもの。馬車が通れるように1本の道を空けて……。『永久凍土コキュートス』」


 イメージがしやすいように、声に出す。


 それと同時に、魔法陣は地面と空に大きく描かれる。


 その直後、目に見える全てが凍っていく。

 それは、魔物が凍っていく光景でなければ、とても綺麗な光景だっただろう。


 全てが凍ったあと、氷の世界に1本の道が開く。

 その周辺にいた凍った魔物は、チリになって消えていった。


「行くぞ!」

「「「おう(うん)!」」」


 馬車の周りをみんなで囲み、氷の一本道を進んでいった。





 馬車は順調に進んでいく。

 村から、街へと続く谷までの半分に差し掛かろうというところで、レンが先の魔人らしき魔力を感知した。


(どこだ?どこにいる)


 魔力で感知できる圏内にいることは分かっているのだが、どこにいるかが分からない。


 前と後ろは一本道で、見つからないはずがない。

 横は、馬と人が隠れられるだけの障害物はない。

 だとすれば……


(まさか!?)


 レンは上を見上げる。


 あいつは……馬に乗り、上からレンたちを見下ろしていた。

 目が合った瞬間魔人がにやりと笑い、馬車目掛けて一直線に突っ込んで来る。

 レンはハッとなり、咄嗟に叫んだ。


「みんな避けて!馬車からも降りて!」









 だが……一足遅かった。


 魔人はアンデッドホースに乗りながら馬車を踏みつけ、中にいた村人ごと潰す。

 馬車の残骸からは、村人たちの血が溢れんばかりに流れ出ていた。

 魔物はアンデッドホースに跨りながら、馬車の残骸の上からレンたちを見下ろす。


『ヒヒッ、見つけたぞぉ!』

「こんの糞魔物がぁ!」


 レンたちは呆然としていたが、ギリーがすぐに立ち直り、身体強化をして切りかかる。

 だが、その剣を魔人は指でつまんで止める。


「――なっ!」

『うるさいなぁ。楽しみを邪魔しないでくれよ。それに、魔物魔物って俺を下等生物如きと一緒にしないでくれ』

「魔物じゃないなら、お前はなんなんだ!」

『おっと、これは失礼。俺は魔王様の配下が一人、ムルムルだ。魔物ではなく、せめて魔人と呼んでくれ。まぁ、これから死ぬのだから覚えなくてもいいがな』

「……魔王軍、だと……?――ぐっ!」


 魔人、いや、ムルムルはギリーの身体を蹴り飛ばした。

 飛んで行ったのはレンの方向。

 レンの身体を巻き込みながら何回転かしたあと、ようやく止まった。


「ぐうっ!てめぇ!」


 ギリーが再び殴り掛かるものの、軽くあしらわれる。

 しかも、アンデッドホースを降りたことで移動範囲が増えているので、動きを捉えられない。

 次第にいらいらし始めたギリーが、魔法を放つ。


「クソッタレ!『爆発エクスプロージョン』!」


 ムルムルの上に魔法陣が出現し、魔法は直撃する。

 普通の魔物であればひとたまりもない威力が出るだろう。


 だが、相手は仮にも魔王の配下。

 簡単に負けるはずがない。


「はっ!魔王の配下も呆気なかったな!」

『――ふぅん。人間にしてはよくやるねぇ。だけど、弱い』

「っ!」


 ムルムルは上に手を挙げたまま止まっていた。

 手から煙が出ていることから、爆発を手で止めたのだろう。


 人間ではありえない現象。

 嫌でも、相手が自分たちとは違う存在だと認識してしまった。

 これによって、ギリーを含め全員戦意を失ってしまう。


 適わない、と。

 直感的に悟ってしまったのだ。


『おや、もう終わりかい?じゃあ……はい。返すよ』


 ギリーの剣をギリーに向かって思い切り投げる。

 速さは音速を超え、ギリーは避けることが出来ずに腹から背に剣が貫通した。


「ガハッ……!」

「「「ギリー(くん)!」」」


 ナフィが咄嗟にギリーの元へ駆け寄り、魔法をかける。


「『ハイヒール』!」


 だが、魔法は全く効果を表さなかった。


「っ!『ハイヒール』!『ハイヒール』!『ハイヒール』!!」

『へぇ……。君が噂の神聖魔法の使い手、ね。だけど、無駄だよ。その剣に『回復無効』という魔法を付与したからね。僕を倒すまで傷が治ることは無い』

「そんな……」


 ナフィの顔が絶望に染まる。

 それを見て、ギリーはナフィの手を掴んで止めた。


「……いや、いい。ナフィ、剣を思い切り引き抜け」

「でもっ!」

「早くっ!!」


 躊躇しながらも、ナフィがギリーに刺さった剣を思い切り引き抜く。


「ぐぅっ!」

「ギリーくん……」

「……っう!大丈夫だ!剣を!」

「うっ、うん!」


 ナフィがギリーに剣を手渡し、ギリーは再びムルムルに切りかかる。


『――へぇ、君すごいね。命を棄てるんだ?』

「「「――っ!?」」」

「……」


 その言葉にレンたちは絶句し、ギリーもその言葉を否定しなかった。

 ギリーがこの場で死のうとしているとわかったから。


 そして……自分たちの弱さを悟ったから。

 目の前で仲間が戦っているというのに、自分たちは動くことができない不甲斐なさ。

 その全てに絶望した。


「あぁ!たとえ命が無くなろうとも、俺はぜってぇ諦めねぇ!せめて腕は貰うぞ!うらぁ!」


 ギリーは全力で身体強化をして切りかかる。

 体全体の強化を全て腕に回しているようだ。


 だが、全て受け流される。


『人間があまりやらない事なんだけど、ね。じゃあ、そろそろ可哀想だし、終わらせようか』


 そう言うと、ギリーの剣を掴み、叩き折る。










 だが、その行動にギリーはにやりと笑った。

 剣を折られるのは予想外だったが、掴んではくれるだろうと思っていたのだ。


「その行動を待っていた!」


 相手が自分を舐め腐っていると分かっていたからできた事。

 相手がこちらを警戒していたならば、出来なかったことだ。


 そして、ギリーは賭けに勝った。

 ギリーの予想通りに、ムルムルは剣を掴む。


 ギリーは剣を受け止めたムルムルの腕に手を当て、自爆の魔法を放つ。


「『爆破ブロウ』!!」


 ムルムルの腕を内側から爆破、ムルムル諸共ギリーは吹っ飛んだ。


「「「ギリー(くん)!!」」」


 急いでギリーの元へ駆け寄る。


 腹に空いた穴に加え、肉体に響く爆発。

 ギリーの命はもう、風前の灯だった。


「――お前ら……。あとは……たの、んだ……。いき、ろ……よ」


 ギリーは静かに息を引き取った。

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