第20話

 

 カンカンカンカンカンカンカンカン……


 鐘の音は西の方向から聞こえてくる。


 西の方向は終わりの見えない森がある方向だ。

 そこからあぶれてきた弱い魔物が来たのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。

 鐘が鳴って少し経ってからというもの、ピリピリするような殺気が西の方向から来るのだ。

 たまにあぶれてきた魔物が襲撃してくるときには、殺気がレンの家まで届くことは無い。


 ということは、森からあぶれてきた魔物では無いことになる。

 そしてこの殺気の感じからして、村で渡り合える人間はほぼいないだろう。


 だが、おそらくまだ本命は来ていないだろう、とレンは思っていた。

 何とかもてている前線も本命が来た瞬間、一気に崩壊するだろう。





 村全体が大慌てで動き始める。

 戦えない村人は東の門から逃げ出す準備を、戦える村人は武器を持って西の方向へと走っていく。


 レンは両親と一緒に西に行く準備を始める。

 レンは戦況打破の鍵となる、そう大おば様に言い聞かされてきた。

 ならば、今がその時だろう。

 急いで準備を終わらせ、部屋を出ようとする。

 すると、アルバスとメリダがレンの部屋にやってきた。

 ふたりともなにやら深刻そうな顔をしている。


「レン。お前は東の門に行きなさい」


 唐突にアルバスがそう切り出す。

 この言葉はレンにとって死刑宣告も同然。

 レンは目の前が真っ暗になった。

 まるで、自分が役に立たないと言われたような気がしたのだ。


「えっ?なんで……?」


 何とか絞り出すように言ったその言葉は、アルバスに否定される。


「――あぁ、そうじゃないんだ。別にレンが役に立たないとかじゃあないんだ」


 レンのその表情を見て、アルバスがそう言う。

 幾分かレンの気持ちが楽になった。

 だが、まだ納得した訳では無い。


「じゃあ、なんで……?」

「いいかい、レン。単刀直入に言う。これから俺達は西の門に行く。そして……おそらく俺達は二度と会えなくなる」

「えっ……?」


 おそらくアルバスもメリダも、今日自分たちが死んでしまうと思っているのだろう。

 だからこそ、レンには死んで欲しくない。

 そう思っているのだろう。


「じゃ、じゃあ、一緒に逃げようよ……」


 レンも分かっているのだ。

 止めても無駄だと。

 こんなとき、ふたりはきっと止まらないだろうから。


 そして、これが最期だと。

 嫌でも分かってしまった。


 レンの目から涙が溢れ出す。


「無理だ。俺達はこの村を愛している。たとえ死ぬとしても、この村を捨てることは出来ない。――それにな、レンはこれから俺達と同じ冒険者になるんだろう?なら、こんな所で死んじゃいけない」

「で、でも……」

「なら、さ――」


 アルバスはレンと目線を合わせ、頭を軽くぽんぽんと叩く。


「街に逃げる村の人達を護衛をしてやってくれ。そうすれば、俺達は安心して村人達を任せられる。これはレンにしか出来ないことだ」

「……うん。分かった」


 これが最期だ。

 泣いてはいけない。

 泣いたら、きっとふたりの決意が揺らいでしまう。

 死に場所を選んだふたりの決意を削いでしまう。

 一緒に行きたいと思ってしまう。

 ならば、せめて最期は笑顔で見送ろう。


 レンは溢れ出た涙を拭う。

 そして、精一杯の笑顔を浮かべた。


 すると、メリダとアルバスがレンを挟むように抱きしめた。


「レン、ごめんね。最期にできるのはこれだけだけど、絶対生きて冒険者になるのよ」

「きっと、レンなら俺達よりも高みに行ける。俺達が叶えるのを諦めた夢を叶えてくれ」

「うん……。うんっ!」


 涙は再び溢れ出す。


 ずっとこうしていたい気分になるが、現実はそうもいかない。

 突然家のドアが勢いよく叩かれる。


「メリダ!アルバス!そろそろ来てくれ!もうそろそろ前線が崩壊する!」

「なんだと!?死者は!?」

「今んとこはいねぇ!だが、いつ出てもおかしくねぇ状況だ!」

「分かった!すぐ行く!――じゃあな、レン。いつか顔を見せに来いよ」

「そうよ。いつか恋人が出来たりしたら紹介してね。――まぁ、結構すぐかもしれないけどね」


 そう冗談めかして言う。

 なんの事か分かっているレンは顔が紅くなる。

 それを見てふたりは安心したような顔をして、レンの頭をぽんと撫でてからふたりは玄関に向かう。


「じゃあ、またな。レン」

「元気でね、レン。またね」


 そう言ってふたりは出ていった。

 ふたりは振り返ることなく、西へ走って行く。

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