第9話

 場は暗いままだが、レンの鑑定をしない訳にもいかない。

 大おば様はその事に気づき、レンを呼ぶ。


 後ろからは未だにナフィのお母さんの嗚咽をこらえる音が、隣ではナフィが状況を察して静かに涙を流していた。


「……レン。前へ」

「……うん」


 レンは前へ行き、水晶に手を乗せる。


 結果は、水、闇。

 少し暗いが光も適正があるといっていいだろう。

 だが、問題があった。

 問題は水。

 ナフィの時と同じく、色が薄く、青ではなく水色なのだ。


「これは……」

「氷じゃな。水の派生、特殊魔法じゃ」

「そんな……」


 メリダが口から漏れ出したような声を出す。


「安心せい。何もありはせんよ」


 メリダは明らかにほっとした様子だった。


「なんで……っ」


 ナフィのお母さんが怒りをあらわにした声を出す。


「なんでっ!なんでナフィだけがこんな目に合わなきゃ行けないのよっ!同じ先天的な特殊魔法でしょ!」


 声を荒らげて、ナフィに抱きつく。

 ナフィはまだ泣いていて、はじめは驚いた様子だったがすぐに安心したような顔をした。


「――それは神聖魔法だからじゃよ……」


 大おば様は辛そうな声を漏らす。


「神聖魔法は神の御業を行使する魔法。教会にとっては神の魔法というだけで価値あるものなんじゃよ」

「だったら後天的に得た人達も教会が管理すればいいじゃない!」

「そういうことじゃないんじゃよ……。生まれたときから神に愛された存在、そういうことが教会にとっては大事なんじゃ」

「なによ、それっ!」

「無論、後天的な者達も教会にて管理される。ただし、後天的なものたちは自由が許されておる。遅かれ早かれ、教会は神聖魔法を大事にしておるんじゃ。それにの、教会は聖女の存在を求めておる」

「――聖女……?」

「神々から生まれたときに祝福を得、神々の声を直接聞くことの出来る存在じゃ」


 そう言えば、聞いたことがある。

 英雄譚のいくつかでは、教会で聖女が神々から声を聞き、英雄として活動しなければならなくなったものもいる、と。


「それとうちのナフィに何の関係が……」

「――聖女は慈愛あるめんこい子どもから選ばれる」


 英雄譚に出てくる聖女も美少女が多かった気がする。

 そういう子達は英雄の妻になったりすることが多い。


「国は英雄を、勇者を求めておる。そういう者達を見つけ出すのはとても難しい。そこで、教会の出番じゃ。英雄や勇者を見つけ、国に恩を売る。そして、国は英雄を聖女に宛てがうのじゃ」

「――ナフィは道具じゃないわっ!」

「分かっておる。だが、国も教会も、人を道具としか見ておらん。自分たちが1番偉いんだと、国民や信者は自分達に従う道具だと、本気で思っておる。それは、英雄や聖女も同じ。上っ面では国民も信者も敬っておるが、実際は下のものだと見下しておるのじゃ」

「そん、な……」

「英雄譚はかなり脚色されておる。そういったものは国王や教会に編集されてから出版されるのじゃ。自分たちの都合の良いようにの」


 無論、そういうことはやめようと言った王もおったがの、と大おば様は言った。

 そういった王はすぐに断罪という名目で処罰されたり、暗殺されたりするそうだ。

 国民には病気で亡くなったとして。


「やっぱり、教会に行かせるわけにはいかないわ!」


 唐突にこんなことを言う。


「えっ?」


 ナフィも驚いた様子だった。

 だが、納得も出来る。

 どこに人を道具として扱うところに、自分の子どもを預けようと思う親がいるだろうか。


「ねぇあなた達?」


 レンやネクソン、ギリーに問う。


「あなた達、昔冒険者になるって言ってたわよね?」


 レンたちは頷く。

 そう、昔からこの4人で冒険者になろうと言っていた。

 こんな小さな村にいるべきではない、と村のみんなも許可してくれた。

 だが、ナフィが教会に行くとなった以上、ナフィ抜きになる可能性があったのだ。


「なら、10歳になった時。教会の人達が来る前に、ナフィと一緒に村を出てくれないかしら」


 えっ、僕らも追い出されるの?とレンたちは思った。


「あっ、もちろん一時的によ?10歳の子どもたちが出ていったら死んじゃうじゃない」

「でもそれってバレるんじゃ……」

「数年前に家出したことにすればいいじゃない」


 なるほど、とここにいる人たちは思った。

 かなり強引だが、今この場でまともな思考が出来るものはいなかった。


「――大おば様もいいですか?」

「うむ、そうじゃの。わしとしてもこの村から出るものが、道具扱いされるのは堪らん」

「じゃあ、それでいいわね!」


 ナフィのお母さんは、ナフィの無事を喜んだ。


 ようやく、この場に明るい雰囲気が漂う。

 だが、この時はまだ知らなかった。

 まさか5年後にあんなことが起こるとは……。

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