第6話

 

「まずは、ここじゃな」


 本を開き、初めのページを読む。


「魔法の基本。魔法を使うには魔力を感じることが大切です。胸の真ん中に溜まっている魔力を感じましょう、だそうじゃ」

「胸の真ん中……?」

「こう、胸の真ん中から暖かい感じを感じとるんじゃよ。それが魔力じゃ」

「えっと……これかな?」


 そう言うと、レンから膨大な魔力が吹き荒れる。


「んなっ!?それはまずい!抑えるんじゃ!」


 空間がビシビシと軋み始め、ある所にはヒビが入り始めている。


 いくら、この空間が魔力を漏らさないとはいえ無限ではない。

 膨大な魔力を一気に放出すれば、流石に空間も揺らぐというもの。

 すぐにでも止めなければ、外に大量の魔力が吹き荒れ、村の外から魔物をおびき寄せることになるだろう。


「んーーーっ。こうかな……」


 そう言うと、レンから魔力の放出が止まる。

 溢れ出していた魔力だけでなく、普通の人間が放出する少量の魔力でさえも。

 その現象には、大おば様も驚かずにはいられなかった。


「な……っ!?」


(どんなに強い人間でさえ、魔力の放出の一切を止めることなど出来はしない。それに、レンの魔力はレンの魔力容量を超えているはずじゃ……)


 急速に頭を回転させるものの、どういう事なのか全くもって理解出来なかった。


「うーーん。やっぱり、無理」


 そう言うと、再びレンから魔力が放出され始めた。

 だが、以前よりは格段に少ない。


 それと同時に、レンの周りにうっすらと白銀の魔力がまとわりつく。

 溢れ出る魔力を、身体中に循環させ始めたのだろう。


(あれは、身体強化魔法!?)


 実際には、身体強化魔法というのは存在しない。

 魔力を身体に纏い、体の動きを補助しているだけだ。

 だが、誰にでも扱うことは出来るし、魔法のように身体が軽くなるので、身体強化魔法と呼ばれているのだ。


 そしてその身体強化魔法は、普通の人であれば、腕や足などの1点を強化することが出来れば十分。

 というか、魔力が足りなくて、1点か2点しか強化出来ない。


 だが、レンの場合は全身に魔力を纏っていた。

 しかも、ただ魔力を纏わせるのではなく、細胞のひとつひとつを守るかのように。


「れ、レン……。それは……?」

「えっ?――わぁ、きれー」

「えっ……」


 まるで、どうしてこうなっているのか分からない、といった様子だ。

 無意識程怖いものは無い、と思うと同時に、早い段階で気づけて良かったと思った。

 下手をすると、もう一度暴走する可能性があったのだから。


 それに加え、どうやら常識も教えなくてはいけないらしい。

 おそらく、このままこれが普通だと思ってた生きていくと、間違いなく苦労するだろうから。





「さ、さてレン。次じゃ」


 といっても、さっきレンがやって見せたことで、ほとんど終わったようなものなのだが。


「次は……。魔力を身体中に循環させる、か」

「はい」


 そう言うと、レンは簡単に循環させて見せた。

 さっきより濃く白銀の魔力を纏う。


 込める魔力を抑えたとかではなく魔力はそのままに、さっきのように細胞を守るのではなく、普通の人間のように血管に魔力を通すかのように。

 大おば様が教えた訳ではなく、レンは無意識のうちに自分にとって負担の少ない方を選んだのだろう。


(やはり、か。もう教わることがレンにはないんじゃないかのぅ……)


「次はー?」

「う、うむ。次は、魔力を1点に集中させる、じゃな」

「魔力を集中させる?」

「腕とか足とかじゃの」

「うーん、と。こうかな?」


 そう言うと、レンの腕に魔力が集中しているのが分かる。

 ただ、片腕でいいにも関わらず、両腕なのだが。


「出来た、のぅ」

「やった!次は!?」

「次は――今は無理じゃないかの」


 実はその本には、こと細やかにレンが今までにやったことのやり方が書かれている。

 なので、実際に必要なことは今レンがやったことで全て、と言ってもいい。

 その後は、魔法を発動するのみだ。


 だが、魔法はまだ使わないように、とメリダと決めていたので、このあとはやることがない。

 まぁ、少し教えすぎていることに気がついて、慌てて止めたのだが。

 下手をすると、このまま魔法の使い方を教えていたかもしれない。


「次はー?ないのー?」

「うーむ…………。じゃあ、魔力を循環するのじゃ。魔力がなくなる直前まで。そうすれば、魔力も増える上、魔力容量も大きくなるからの」

「わかった!」


 そう言うと、また白銀の魔力が先程よりも濃くレンから吹き出た。

 おそらく、血管に先程よりも多くの魔力を通しているのだろう。

 普通ではありえない現象が5分ほど続いたあと、レンの顔色が悪くなってきたので辞めさせた。

 休憩して、魔力が回復したら同じように繰り返す。


 それを3日間休憩しながらやると、レンの魔力容量はかなり大きくなり、魔力もありえないほど大きくなった。

 おかげで、溢れ出ていた魔力は収められた。

 ただ、メリダがレンを迎えに来た時に仰け反る程に驚いていた。

 何故こんなに多くなったのか、とメリダに聞かれ、正直に答えたら少しだけ怒られた。

 自分に非があることは明らかだったので、仕方がないと思う。


 5歳になれば魔法の使い方をしっかりと教えることが出来るので、それが近い未来の楽しみになった。

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