第3話

 

「――待たせたの」


 大おば様はそう言って、部屋に戻ってきた。

 手には2つのコップに入ったお茶と茶菓子の乗ったトレーを持っている。

 それを自分とメリダの前に置いて、席に座った。


 大おば様はお茶をひと口飲み、話し始める。


「さて、早速じゃが本題に入ろうかの」

「はい。――さっきレンが目を覚ましました」

「まぁ、お主が来たんじゃからそうじゃろうな。ようやく、といったところかの。それで、レンの様子は?」

「少し疲れたような表情をしていました。筋肉痛とも違う、身体に変化が起こったことで、違和感が拭えなくて余計に疲れる、みたいな。――あとは、ベッドから起き上がることはできる様子でしたけど、歩くことは無理みたいですね。それ以外は特にこれといったものはなくて、あるとするならお腹を空かせていたくらいでしょうか」


 メリダがそう言うと、大おば様は顎に手を添えて、何やら考え始めた。


(ふむ。本来であれば1日で治るところを3日かかりおったか……。しかも、それでもまだ歩くことができる訳では無い、か……)



 大おば様の思考はどんどんと深みにはまって行く。

 だが、


「――あの、大おば様?」


 メリダに声をかけられて、はっと意識を取り戻した。

 時間はそれほど経ってはいないようだが、これ以上考えるとさらに深みにはまるので、一旦保留することにした。


「お、おぉ、すまぬ。考え事をしておった」

「いえ……。それで、レンは大丈夫なんでしょうか……?」

「ふーむ……。実際に見てみないとなんとも言えんが、メリダから見てレンはどんな様子に見えるんじゃ?ぼんやりと曖昧なものでも構わん。少なくとも3年間一緒にいるんじゃから、お主の方が分かるじゃろうて」

「そう、ですね……。魔力の暴走?が起こる前は魔力の様子はずっと一緒だったんですが、今日レンが起きたときには身体から魔力が漏れだしているように見えました。その魔力のせいなのか分かりませんけど、レンに近くに行くと少しだけ圧迫感を感じました」

「ほぅ……」


(……これはまずいのぅ。どうにかしないとだけでなく、村全体の危機になりかねん。ほぼ間違いなく、暴走中に何かが起こったと考えるべきじゃろうな)


 今度は先程のように思考の海にハマることなく、直ぐに結論を出した。

 今更メリダの疑うようなことはしない。


 そして、大おば様はメリダにある提案をする。


「――のぅ、メリダよ。レンを数日間わしのところに預けてもらえんかの?」

「……えっと、なんでか聞いても?」

「うむ、もちろんじゃ。メリダが言っていた圧迫感は十中八九魔力のせいじゃ。レンから漏れ出す魔力が多くなったことで、近くに行くと圧迫感を感じたんじゃろうな」

「えっ、でも魔力が漏れだしているっていうのは普通じゃないですか?漏れ出る魔力を抑えるなんて、それこそSランク近くの冒険者でなければ無理だと思いますけど……」


 人間は常に魔力を放出し続けている。

 その魔力を抑えることは、常人には至難の業であり、それができるのは相当な実力を持った人くらいだ。


 その例としてSランクの冒険者だが、冒険者に関することは後々出てくるので、今のところはとても優秀な冒険者たちで、魔力操作に長けているものもいる、とだけ。


「いや、聞いてる限りだと少し違うように感じるのう。メリダが言っておるのは、人間が魔力を常に無意識に放出していることじゃろ?」


 メリダは何が違うのか、と疑問に思いつつも頷く。


「そういうことじゃないんじゃ。レンの周囲にある魔力は、無意識に漏れだしている、という意味では間違っておらぬが、少しだけ違う。レンの場合は、おるんじゃ。――つまり、レンの周囲にある大量の魔力は、レンの器に収まりきらなかった魔力が無意識のうちに大量に溢れ出ておるんじゃよ」

「なるほど、分かりました。――でも、それがどうして大おば様のところに預ける話になるんですか?」

「まだわからぬか。魔物は何を求めて獲物を探す?」


 その言葉にメリダはハッとする。


「まさか……!」

「――そう、そのまさかじゃよ。村に魔物よけの結界を張っているとはいえど、大量の魔力を感知したら魔物が攻めて来るやもしれん。そして、まずはじめに狙われるとしたら?」

「……レン」

「そうじゃ。レンには自分のためにも、村のためにも魔力を扱えるようになってほしいんじゃよ。これは既にレンだけの問題では済まなくなってきておるんじゃ。――それにの、大量の魔力を溢れ出し続けることでレンの身体に異常をきたす可能性が無くはないんじゃよ」


 メリダは少し考えた上で答える。

 メリダの中で、村とレンの命を天秤にかけたとしても、どちらかに傾くことは無い。

 それだけ、どちらも大事なものだ。


「――っ、わかりました。ただ、危ないことはしないようにお願いします」

「絶対、とは言えん。――じゃが、できる限り危ない状況にはならないように善処しよう」

「その言葉だけで十分です。――ではレンを明日連れてくればいいのでしょうか?」

「そう、じゃのぅ……」


 レンの魔力が溢れ出ている影響で、いつ魔物が攻めて来てもおかしくはない。

 そう考えると、すぐにでも手を打った方がいいのだろうが、何分レンは3歳だ。

 3歳の子どもが、親元離れて暮らすことが出来るか、と言われたらもちろん否だろう。

 大おば様はゆっくりと考えた末に結論を出す。


「――レンが歩けるようになるまでは様子を見た方がいいとは思う。じゃが、もしものことを考えると、今すぐにでもレンを連れてきて欲しい。しかし、3歳の子どもが親元を離れても平気かと言われると、もちろん否じゃろう。――故に、わしはこうすることにする」


 そう言って、大おば様は魔力の篭っていない大きな魔石を10個取り出した。


「これは魔石、ですよね?」

「そうじゃ。ただ、中身が空じゃがな」

「これをどうするんですか?」


 メリダは魔石の1つを手に取り、観察してみる。

 大きさは大人の手のひらくらいでほかの一般に出回る魔石より大きいという以外は特に何の変哲もない空の魔石だ。

 いったいこれで何をするのか、とメリダが疑問に思っていると、


「魔石は半径1メートル以内にいる魔力を吸収することができるようになっている、というのはメリダも知っておるじゃろう?」


 それはもちろん知っている。

 というか、世間の一般常識と言っても過言ではない。


 魔石は生活用具から、攻撃用のもの、様々なものに使われる。

 しかし、使い捨てでとても高価だ。

 それでも需要がかなりあるのだから、その便利性も分かるというもの。


 そしてその魔石だが、中身のない空の魔石を手に持つ、もしくは半径1メートル以内に置いておき、その状態で魔力を放出すると、魔石がそれを吸収する。

 そして、そうして出来上がった魔石だが、これは売るとかなり高く付く。


 それこそ、これを仕事にして生活している人もいるくらいだ。

 むしろ、ごく少数ではあるが、その生活をしている人の方が普通の商人よりも儲けていることすらある。


 しかし、人が1日に作ることが出来る魔石はおよそ2つ。

 故に、必然的に価値が上がるわけだ。


 閑話休題それはともかくとして


 大おば様が言ったのは魔石をレンの周りに置き、魔石にレンの溢れ出た魔力を無理やり吸収させ、魔物に見つかりにくくする、というものだった。


「――そんなもので大丈夫なんですか?」

「正直やってみないことには分からぬ。だが、何もしないよりはましじゃろぅ。とりあえず、これで様子を見ていよう」

「わかりました」

「ないとは思うが魔石が足りなくなったら言いに来るんじゃぞ。それと、出来る限り早く来れるようにしておくれ。ことは一分一秒を争うと言っても過言ではないからの」

「わかりました」

「ではな。――レンのためにも早く帰ってあげるんじゃぞ」

「はい。では」


 そう言うと、メリダは一度大おば様に頭を下げ、それから部屋を出ていった。


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