3-14 ダンジョンに閉じ込められて

 まさかダンジョンに閉じ込められるとは……。

 俺たちは、かなり混乱した。


 まずラリットさんの所の新人二人がパニックを起こした。


「ダンジョンに閉じ込められるなんて……。そんな事あるのかよ!」


「クソッ! なんてこった!」


 ウチのパーティーでは最年少のエマが不安がった。

 このままずっとダンジョンから出られないのかと思うと、俺も恐ろしくてたまらなかった。


 しかし、『大丈夫! 大丈夫! きっと出られるから!』なんてエマを励ましていたら、不思議な物で、だんだん落ち着いて来た。

 レイア、カレン、アリーもお姉さん風を吹かして、エマを安心させていた。


 混乱が収まり改めて全員で地上へ出られる木の洞に入ろうとした。

 やはり誰も木の洞の中に入る事は出来ない。


 色々と協議した結果――。


 ・お互い色々協力する。

 ・最下層の十階層へ行き、ボスを倒す。

 ・リーダーはラリットさん。サブリーダーは俺。


 ――と言う事になった。


 階段を上って一階層まで戻ると言う案も出たが、一階層から地上へ出るには結局木の洞に入らなくてはならない。

 一階層も同じ状況なんじゃないかと予想する人が多かった。


 それなら、最下層十階層のボスを倒す事で、状況変化に期待した方が、まだ望みがある……と言う声が多かった。


 方針が決まるとラリットさんがテキパキと指示を出す。

 こう言う時、ベテランは頼もしい。


「よし! まずは持ち物の確認だ。まず、俺たちパーティー『力こそ愛』は、ポーションを沢山持っている。それから……」


 ラリットさんもマジックバッグを持っていて、回復薬『ポーションを』山のように持っていた。

 ラリットさんの所は全員が前衛だ。

 後衛の援護もないし、回復魔法を使う神官もいない。

 肉弾戦あるのみ!


 そんなファイトスタイルだから、ポーションは常に多く持ち歩いているそうだ。

 ただし、食料はあまり持っていなかった。

 干し肉が一束あるだけだった。


「俺たちパーティー『ガントチャート』は、ポーションはありません。食料は道中でドロップ品を回収したので、パンと赤カブを大量に持っています」


「おお! 良いじゃねえか!」


「すいません。俺もポーションを用意しておけば……」


 ポーションを用意していなかったのは、俺のミスだ。

 どこかで『初心者向けダンジョンだから大丈夫だろう』と油断があった。


 食料とポーションなら、ポーションの方が、価値が高い。

 フロアボスが強力な魔物に入れ替わっている現状では、特にポーションは貴重だ。

 ダメージを即時回復出来、命に直結するからだ。


「なーに。気にするな。俺だって赤のダンジョンなら日帰りで当たり前だと思って、食料はろくすっぽ用意していなかった。助け合い、助け合い! まずはメシだ!」


 そうだな。時間的にはもう夕方遅く、みんな晩ご飯が食べたい。


「ナオトの兄ちゃん。鍋持ってねえか?」


「鍋……ありますよ!」


 昼飯のボルシチが入っていたシチュー鍋がある!

 マジックバッグからシュチュー鍋を取り出す。


「けど水が無いです……」


「水? 何言ってる? 水なら、ここにあるだろう?」


 ラリットさんは、木の洞がある横の壁を軽く押した。

 すると壁が5センチくらい回転して、中から木製の管が出て来た。

 管からは水が流れ出ている。


「ええ!? こんな仕掛けがあったんですか!?」


「なんだ、知らなかったのか? こんなの先輩から最初に教わるモンだぞ」


「ああ。俺……いきなり自前のパーティーだったので……」


「おっ……。そうか……。一つ賢くなったな! ガハハ!」


 ラリットさんは魔力で動く携帯コンロを持っていて、赤カブと干し肉で簡単なボルシチ風スープを作った。

 味はお察しだが、赤カブがたっぷりあり、パンも大量にあったので全員満腹になれたのが良かった。


 食欲が満たされれば、気分が落ち着く。

 ラリットさんの新人二人も顔色が随分良くなった。


「よし! メシ食ったら、ここで寝るぞ! この木の洞の周りは安全地帯だ。だが、万一の為二人一組交代で見張りだ」


 最初は俺とアリーが見張りになった。

 アリーと小声で話す。


『なあ。執事さんやメイドさんは?』


 アリーには、お付き兼護衛の執事とメイドがいる。

 普段は姿を現さないが、食事時とお茶の時間になるとアリーの世話をしに現れる。

 だが、さっきは出て来なかった。


『恐らく近くに潜んでおるじゃろう……』 


『そうなの?』


『わらわがエルフの王女である事は……あまり知られたくないのじゃ……』


 ラリットさんたちがいるから執事とメイドは出て来ないのか?

 アリーの身バレを防ぐために?

 今さらって気もするけれど……。


『自由が無くなるから?』


『それもあるが……政治問題になったら厄介じゃ……』


 確かに。

 エルフ国のお姫様がダンジョンに閉じ込められていた何て事は、外交問題になるよな。


『無事に出られるかな……』


『大丈夫じゃ。ナオトは神に選ばれし勇者じゃ。何も問題はない』


 アリーは確信を持って言い切った。

 俺は自分の事を勇者だとは思っていないので、不安をぬぐえない。

 けれど、俺を勇者だと思う事でパーティーメンバーの気が楽になるならそれで良い。


 今は、道化でも勇者でも演じてこの状態から脱しなくては。


『そうだな。俺は勇者だ』


『そうじゃ』


『明日は九階層攻略。早ければ明日中に十階層。遅くともあさってには、十階層を攻略して地上へ戻る』


『うむ、うむ。そうじゃな』


 アリーが嬉しそうに笑った。

 アリーの笑顔を見ていたら、何の根拠もないけれどやれそうな気がして来た。

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