3-4 不良クランへの対策

「オマエら! 止めろ! 冒険者同士のもめ事はご法度だ!」


 ゴツイ訓練教官が、俺たちとチンピラ冒険者たちの間に割って入る。

 受付カウンター職員のワーリャさんが、大きな声でチンピラ冒険者たちに注意した。

 かなり怒っているな。表情が厳しい。


「また、あなたたちですが! クラン『闇の帝王』は、問題を起こし過ぎます! ギルドの権限で解散させますよ!」


「チッ! てめえら覚えてろよ!」

「バーカ!」

「デカ女!」

「弱虫!」

「クソが!」

「ハゲ!」


 メドベたち『闇の帝王』は、悪態をつきながら訓練場から出て行った。

 俺は深く息を吐きだしながら、ワーリャさんにお礼を言う。


「ふー。助かりました。ありがとうございました」


「大丈夫でしたか? 殴られたり、お金をとられたりしませんでしたか?」


「ええ。あの……彼らは?」


 メドベたちの事を聞くとワーリャさんの表情が一層険しくなった。

 よほど嫌いなんだな。


「彼らはクラン『闇の帝王』のメンバーですね。暴力、恐喝……なんでもありの不良クランです!」


 クランはパーティーよりも規模の大きい冒険者の集まりの事だ。

 不良クラン……ロクでもない連中だな。


 なんでそんな連中がのさばっているのだろう?

 冒険者ギルドの権限で解散させれば良いのに。


 俺と同じ疑問を感じたのだろう、姫様アリーがワーリャさんと訓練教官に疑問をぶつけた。


「そのような連中が、なぜのさばっておるのじゃ? ワーリャ殿、ギルドの権限で活動停止命令を出すなり、資格はく奪するなりすれば良かろう? 訓練教官殿は、実力を持って彼らの根性を叩き直せば良かろう?」


 うむ! アリーの言う通り!

 クビにするなり、鉄拳制裁を下すなり、冒険者ギルドがやれば良い。

 そうすれば、あんな連中はのさばらない。


 ワーリャさんと訓練教官は顔を見合わせて苦笑した。


「そうしたいのは山々ですが、彼らは貴族とつながっていて、処分をしても貴族から圧力がかかるのですよ。それで処分取り消しになったり、処分が軽くなったりで……」


「連中は汚いのだ。自分に非が無いように振舞い。人の見ていない所でリンチを行い、口止めをするのだ。君たちも気を付けてくれ」


 本当にロクな連中じゃないな……。

 長身のレイアが憤慨して、槍の石突で地面を突きまくっている。


「男の風上にも置けない連中だな! 正々堂々勝負しろってんだよ!」


(レイア、オマエは女だぞ)


 レイアの男前発言に心の中で冷静に突っ込みを入れる。

 その胸は大艦巨砲主義だ。


 ワーリャさんは深くため息をついた。

 あの連中は余程問題になっているのかな……。


「ハア。彼らは陰でコソコソ活動するのです。相手より多い人数で、襲って来るそうですよ」


「ケッ! 度胸のねえ卑怯者だな!」


「ニャ! ニャ!」


 長身レイアもネコ獣人カレンも怒っている。

 だが、ちびっ子魔法使いエマは、魔法の杖を両手で抱えて震えている。


「でも、私は怖いんだよ……。沢山の男の人にワーワー言われるのは嫌なんだよ……」


 それはそうだよな。

 俺たちはまだ十三歳。エマは十二歳だ。

 大人の男性に怒鳴られたり、脅されたりすれば、恐怖を感じるのも無理はない。


 俺はエマの頭をやさしく撫でながら声を掛けた。

 少しでも安心させてやりたいのだ。


「大丈夫だよ。俺もいるし、仲間もいるだろ」


 姫様アリーも妹に言い聞かせるように、優しくエマに言葉をかける。


「うむ。ナオトの言う通りじゃ。エマは一人ではないからのう」


「えへへ!」


 エマは、はにかんだ笑顔を見せた。

 落ち着いたようだ。


 さて、どうしよう。

 クラン『闇の帝王』ともめたのは厄介だ。

 俺たちのパーティー『ガントチャート』は、俺以外は女の子だ。

 安全の為に対策を考えないと……。


 まずは、冒険者ギルド側に確認をしておこう。


「ワーリャさん。教官さん。確認ですが、クラン『闇の帝王』が闇討ちして来た場合は、反撃しても良いですよね?」


「ええ。原則として冒険者同士のもめ事は禁止ですが、自分の身を守る場合は反撃しても構いませんよ」


「うむ、当然だな。だまって殴られる必要はないぞ。ガツンとやり返せ!」


「わかりました。ありがとうございます!」


 正当防衛なら問題ないって事だな。

 確認が取れて良かった。


「場所を変えてお昼ご飯にしよう」


「「「「はーい」」」」


 冒険者ギルドの訓練場から、ギルドのロビーにあるテーブルに移動する。

 ワーリャさんがいる緑カウンターの近くだ。


 今日のお昼ご飯は、ひき肉とチーズのミートパイ、鶏肉の入ったコンソメ野菜スープ、丸いくるみパン。

 ワーリャさんが、食い入るように見て来る。


 この料理は俺の泊まっている高級旅館『木漏れ日の宿』が調理した。

 間違いなく美味い。

 ワーリャさんには、ちょこっとお裾分けした。


「ここのミートパイは美味しいのう」

「くるみパンも美味しいんだよ!」

「俺は毎日昼飯が楽しみでよ!」

「ニャニャ? カレンは毎食楽しみにしているニャ」


 良い雰囲気でおしゃべりしながら昼食をとる。

 女の子が多いと、賑やか、華やかだよね。

 俺は聞き役だけど、ほっこりするよ。


 しかし、毎食ごとにアリーの執事とメイドが出て来てアリーに給仕するのは、どうにかならないのかね。


 食事が終わった所で、姫様アリーがさっきのトラブルについて切り出して来た。


「のう。ナオトよ。それでどうするのじゃ? あの『闇の帝王』とか言う連中は、あのまま引き下がるとは思えんが」


 四人の視線が俺に集まる。

 ここでリーダーとして、男としてしっかりしなくちゃ!


「やる事は二つだ。一つは、なるたけパーティーメンバーは一緒に行動しよう」


 バラバラに行動するのは危険だ。

 クラン『闇の帝王』。クランと言う事は、沢山冒険者が所属していると言う事だ。

 今日、直接もめたメドベたち六人以外にも、不良冒険者が所属していると考えた方が良い。

 だから、俺たち『ガントチャート』は、なるたけ五人でまとまって行動する。


「レイアとカレンは俺が泊っている宿に移ってくれ」


「えっ!?」

「ニャ!?」


 レイアとカレンが気まずそうな顔をした。

 こいつら二人の考えている事はわかっている。


「大丈夫だ。宿泊費は俺が出す。お金の心配はしなくて良いよ」


「おう! 助かるぜ!」

「ニャ! ニャ!」


 神のルーレットでお金を貯め込んでいるからね。

 仲間の宿泊費くらい出すさ。


「アリーは?」


 アリーは謎の執事とメイドがいるから、一人でも大丈夫だろう。

 あいつらは、ネコ獣人カレンでも捕捉出来ないからな。

 相当強いとみた。


「わらわもナオトと同じ宿に移ろう」


「えっ!? あっ……そうする?」


「うむ。このミートパイは美味しい。わらわは、料理が気に入ったからの。一緒で良いぞ」


 意外だな。

 アリーはどこかの貴族か、お姫様だと思う。

 だから、自分の泊まっている宿を変えないと思っていた。

 

 みんなと一緒にいたいのか?

 まあ、良いけど。


「そ……そう。じゃあ、アリーも一緒の宿にしよう。それから、エマは一人で出歩かないようにしてくれ、家にはみんなで送り迎えするよ」


「ええ! 私も一緒に泊まるんだよ!」


「ええ!? いや、だって、エマは実家があるじゃん?」


「エマも仲間なんだよ! 仲間外れは嫌なんだよ!」


 仲間外れとか、そういう意図はないのだが……。

 ま、まあ、良いや。

 一緒の方が何かと都合が良いだろう。


「それでナオトよ。もう一つは?」


「今からダンジョンに潜る。ちょっとでもレベルアップしておこう」


「ぬっ!?」


 アリーは意外そうな顔をした。

 まあ、異常事態と言ってダンジョンから出たのだから驚くよね。


「考え方は単純だよ。より強くなる。レベルが上がって強くなれば、それだけ安全が増すでしょ?」


「ふむ。確かにのう」


 本当は俺が神のルーレットで『経験値倍増』を獲得したから、大幅にレベルが上がった。

 けれど神のルーレットの事は、みんなには話さない。


 ここはダンジョンの異常事態と言う事で押し切る。


「確かにレベルアップが早いのは不気味だ。ダンジョンの異常事態だと思う。けれど、それなら――」


「その状況を逆用して、わらわたちの強化に……と言う訳か。良いじゃろう。わらわは賛成じゃ」


「良いじゃねえか! ダンジョン行こうぜ!」


「ニャ! 賛成ニャ!」


「賛成なんだよ!」


「よし! じゃあ、赤のダンジョンへ行くぞ!」


「「「「おー!」」」」

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