3-3 冒険者ギルドでのトラブル
赤のダンジョンを出て冒険者ギルドに戻る。
俺は冒険者ギルドの図書室で魔王について調べ物、パーティーメンバーは訓練所に向かった。
冒険者ギルドの図書室は、日本の学校の図書室くらいの広さがある。
この世界としては、なかなかの蔵書量だろう。
さすがは帝都の冒険者ギルドだ。
ただし、製紙技術が発展していないので、紙一枚が分厚かったり、羊皮紙だったりする。
つまり一冊のページ数が少ないのだ。
(まあ、それでも、これだけ本があるのはありがたいよ)
俺はそれらしい本を片端から読んで行く。
魔王、魔王、魔王さん。
魔王について教えておくれよ。
ふむ……。
何冊かの本を読んでみてわかった。
魔王は何度かこの異世界に現れている。
この図書室にある本で確認出来る限り、過去に三回だ。
約六千年前に一回、約四千年前に一回、約二千年前に一回。
およそ二千年周期だ。
魔王とは何か?
これはどの本でも明言されていない。
ただ、魔王が現れると、その近辺で魔物が活発化し、強い魔物が現れるそうだ。
ダンジョンも同じで、魔王が現れた近くのダンジョンは魔物が強化される。
(まさか……。俺が遭遇したケースも魔王の影響か?)
俺は自分自身の嫌な予想に冷や汗をかいた。
この異世界に転生して初めてダンジョンに潜った時、エルンスト男爵の息子フォルト様が凶悪な魔物に殺された。
赤のダンジョン五階層のボス戦で、普段と違う強い魔物キングペンが出現した。
これは魔王出現の影響なのか?
(いや……。この本に書いてある魔王出現の状況とは違うな……)
俺が読んでいる本によれば、かつて魔王が出現した時にダンジョンの魔物全体が強化されたそうだ。
俺が遭遇したケースは、ボス戦でいつもと違う強い魔物が出て来ただけで、ダンジョン全体はいつも通りだった。
(ふう……頼むぜ……俺は最弱……。ついこの間までオールHの冒険者だぜ……)
神様への義理があるから、魔王について調べてはみるけれど、俺が魔王を討伐するのは無理だ。
恐らく秒殺されて終わりだ。
(それで……昔、魔王が出現したのは、どこだ?)
魔王が出現した場所は、バラバラだ。
六千年前は、はるか南の大陸に。
四千年前は、東の王国に。
二千年前は、北の森に。
何せ昔の出来事だから本での書き方が大雑把だし、この帝都ピョートルブルグからどれくらい遠いのかわからない。
(ただ、まあ。出現場所が固定じゃないと言う事はわかった)
魔王が出現した後、魔物が街を襲い、ダンジョンから魔物が溢れ、混沌が支配した……と本には書いてある。
社会が相当混乱したのだろう。
特に六千年前に魔王が出現した時は、混乱が五百年続いたと書いてある。
魔王は勇敢な冒険者によって討伐されている。
討伐した者は、勇者と呼ばれ人々から尊敬を集めたそうだ。
中にはお姫様と結婚した勇者もいる。
(ふむ……)
少なくとも次に魔王が現れた時に、討伐するのは俺じゃないと思う。
お姫様と結婚は、ちょっとうらやましいけれど。
ゴーン! ゴーン! ゴーン!
二の鐘が鳴っている。
お昼の時間だ。
俺は図書室を後にして、訓練場に向かった。
訓練場は冒険者ギルドの裏にある広い運動場だ。
普通の運動場と違うのは、魔物の形を模した標的や模擬戦用の木剣や木の盾が用意されている事だ。
リーダー研修もこの訓練場で受けた。
あの時はラリットさんが、『剣士突撃!』をかまして、俺は訓練教官にボコボコにされた。
訓練場に入るとレイアの怒鳴り声が聞こえて来た。
どうやら誰かともめているらしい。
「だから! ぶつかってねえって言ってるだろうが!」
「あーん? シラ切るつもりか? ガキでも許さねえぞ!」
「テメエ! インネンつけるのかよ!」
「何がインネンだ! こちとら被害者よ!」
レイアは訓練場でガラの悪い冒険者に絡まれていた。
レイアに絡んでいるのは、細身の男だ。
細身と言うよりかは、ヒョロイな。
革鎧姿で腰に剣を下げていて、年は二十歳くらいか?
人相は悪い。控え目に言ってチンピラだ。
ヒョロイ男の後ろには、五人の男が腕を組んでにらみを利かせている。
年は二十歳くらいで、まあ、こいつらも良く言ってチンピラだ。
長身のレイアの後ろには、ネコ獣人のカレン、姫様アリー、ちびっ子魔法使いエマがいる。
三人ともチンピラ冒険者たちをにらみ返している。
ウチのパーティーメンバーは気が強いのかな?
(周りの人は誰も助けてくれない……か。教官もいないみたいだな……。チッ!)
厄介事に心の中で舌打ちする。
訓練場には二十人以上の冒険者がいるが、誰も止めに入らない。
パッと見、みんな若い冒険者だから仕方ないか。
失敗したな。
女の子だけにするんじゃなかった。
一人でも男がいれば、また違っていたかもしれない。
まあ、考えても、後悔しても仕方がない。
とにかく止めに入ろう。
レイアが手を出して、怪我をさせたらまずい。
俺は茶トラのネコ獣人カレンに駆け寄り、小声で耳打ちする。
『緑カウンターに行って、ワーリャさんを呼んで来て!』
『わかったニャ!』
カレンは、そっと抜け出した。
俺はチンピラと長身レイアの間に割って入る。
心臓がドキドキするが……、落ち着け俺! がんばれ! 俺!
「ストップ! ストップ! ギルドでもめ事はダメですよ!」
「あーなんだ! テメエ!」
「引っ込んでろ!」
「ガキがぶっ殺すぞ!」
チンピラ冒険者が罵声を浴びせて来る。
怖いと言えば、怖いが……、だが、ノンゴロドの街で出会ったセルゲイよりはマシだ。
セルゲイは俺に借金を背負わせて、奴隷に売り飛ばそうとしたヤツだ。
あのゴリマッチョは、全身から瘴気が出ていたからな。
こいつらはデカい声を出しているだけで、セルゲイが持っていた凶悪な雰囲気はない。
「俺は冒険者パーティー『ガントチャート』のリーダー、ナオトです。この子たちは、ウチのパーティーメンバーだ。話は俺が聞きます」
「ナオト!」
「おお! よく来たの!」
「リーダーなんだよ!」
「みんなお待たせ。ここはリーダーの俺に任せて」
三人ともホッとした声を出した。
やっぱり女の子ばかりだと、心細い部分はあったのだろう。
「おう。ナオト聞いてくれよ――」
レイアが俺に事情を話した。
レイアたちが訓練をしていたら、隣にいたチンピラ冒険者たちが文句を言って来た。
チンピラ冒険者曰く、レイアの鉄槍が当たった。
謝れ!
医者に行くから金を寄越せ!
レイアが言い返し、鉄槍が当たった、当たっていない、と押し問答になりこの騒ぎだ。
(ハア……。なんだかな。典型的なインネンじゃないか。異世界の当たり屋とでも言うか……。質が悪いな)
俺は心の中で呆れ、溜息をついた。
こんなヒョロヒョロのチンピラ冒険者じゃ、レベル28になったレイアに秒殺されるだろう。
レイアは女の子だが、背は2メートル超えだし、鉄槍を振り回す姿を見れば強さは一目瞭然だ。
(鑑定!)
俺はレイアにからんでいたヒョロイ冒険者を鑑定した。
この状況なら断りを入れなくて良いだろう。
-------------------
◆ステータス◆
名前:メドベ
年齢:18才
性別:男
種族:人族
所属:闇の帝王
ジョブ:剣士 LV8
HP: H
MP: H
パワー:H-小上昇中
持久力:H
素早さ:H
魔力: H
知力: H
器用: H
◆スキル◆
剣術
-------------------
(弱っ! レイアなら秒殺。いや、俺でも勝てる……)
レイアにからんでいたヒョロイ男メドベの弱さに絶句した。
レベル8で、ステータスがオールHだ。
俺以外にもいるんだな……。
それなのにレイアにケンカを売って――。
いや……逆か?
ワザとレイアにケンカを売ったのか?
衆人環境でレイアに手を出させる。
レイアを怒らせて、ワザと自分がボコボコにされる。
そしてもっと高額な金を要求するとか?
(どっちにしろ、こっちから手を出しちゃダメだな……)
俺は警戒を強める。
チンピラたちは、俺に罵声を浴びせ続ける
「おー! 何だ? 坊主! やけにカッコつけるじゃねえか!」
「おうおう! 色男! 出しゃばるんじゃねえぞ!」
「ガキ同士で、良い事してんのか? お兄さんも混ぜておくれよ!」
(明らかな挑発だな……)
威嚇と言うよりは、俺をからかう感じだ。
俺を怒らせようとしている。
どうやらこちらから手を出させたいらしい。
俺は冷静に返事をする。
「ウチのレイアは鉄槍が当たっていないと言っています。当たっていないなら、何も問題ないですよね? お引き取り下さい」
「ふざけるなよ! 当たった! 当たった!」
ヒョロイ男メドベが騒ぎ立てる。
だが、俺は挑発に乗らない。
「当たっていません。お引き取り下さい」
「ウソつくなよ!」
「ウチのレイアは、正直者です。お引き取り下さい」
押し問答になり、メドベの後ろのチンピラ冒険者たちがわめく。
俺はジッと耐え、冷静に、冷静に言葉を返す。
そして助けが来た!
「何をやっておるかー!」
「冒険者同士の争いは禁止ですよ!」
ゴツイ訓練教官と受付カウンターのワーリャさんだ!
カレンが呼んで来てくれた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます