1-6 ルーレット!カームヒア!

 冒険者ギルド二階の部屋は十畳の広さだ。

 二段ベッドが三つ入っていて、グループで寝泊まりする部屋だろう。

 ベッド以外は何もない。


 目が覚め窓を開けるとちょうど夜が明けた所だった。

 朝の光が部屋に差してくる。


「この巻物はなんだろう?」


 夢に神様が出て来て目が覚めると枕元にこの巻物があった。

 巻物と言っても日本風の巻物じゃない。

 紙をクルリと巻いてきれいなリボンで留めた洋風の巻物――スクロールってやつだ。


 スクロールを手に取ってみると厚みのある紙だ。

 いや……これは紙じゃなくて……羊皮紙……動物の皮で出来ているな。

 リボンは白銀に光り輝いている。


(なんか……神秘的な輝きだな……神様からのお手紙かな?)


 リボンを外し、スクロールを開いてみる。



 カッ!



「うおっ!」


 一瞬巻物からまばゆい光が放たれてすぐに収まった。

 光は俺の体にぶつかり、何かが体の中に入った気がした。


(今のは……一体何だろう?)


 自分の体を叩いてみたり、あちこち見てみたが、特に異常はない。

 気を取り直してスクロールを見る。



(また違う文字だな……だが意味はわかる……)


 この街で使われているのと違う文字だ。

 カクカクした印象の文字で、系列的にはこの街で使われている文字と同じかも知れない。


 見た事のない文字だが、なぜか書いてある意味はわかる。

 わかるが……これはどう言う事だろう?




 ”神のルーレット”




 神のルーレット?

 何だそりゃ?


 どうやらこのスクロールは『神のルーレット』の説明書らしい。

 色々と……例えば『あまり他人に見せるな』とか書いてある。


 まずは呪文で神のルーレットを呼び出すのか。


「ルーレット! カーム! ヒア!」


 何か恥ずかしい呪文だが……。

 呪文を唱えると目の前が光り、ルーレット台が姿を現した。

 ビリヤード台位の大きさで、生前世界のルーレットと同じだ。


 一体どんな仕組みでこんな大きい物を呼び寄せる事が出来るのか?

 まあ、考えるだけ無駄だろう。


 どうやら生まれ変わったこの世界は、不思議が満ち溢れているのだ。


(それで……なになに……このルーレットに賭け、当たると良い事があると……)


 漠然とした説明がスクロールに書かれている。

 ルーレット台の上に白銀のコインが三つ置いてある。


(このコインを使うのかな?)


 スクロールとルーレット台を交互に見る。


 ルーレットには回転盤がついている。

 ボールの入る0~36の数字が書かれたポケットがあり、ポケットは数字ごとに赤と黒に色分けされている。

 0だけは緑色だ。


 そして掛け金を置くテーブル部分。

 緑色のラシャが貼ってあり、それぞれの数字が三列に書かれていて、赤、黒、縦列などもある。



  0

 1 2 3

 4 5 6

 7 8 9

 10 11 12

 13 14 15

 16 17 18

 19 20 21

 22 23 24

 25 26 27

 28 29 30

 31 32 33

 34 35 36

 縦 縦 縦


 赤・黒



(賭ける場所によって倍率が違うのか……)


 スクロールによると……。


 ・数字1点賭け 36倍

 ・縦列賭け    3倍

 ・赤or黒賭け   2倍



 ふむ……。

 他にも色々な賭け方があるけれど、とりあえずこれだけ知っておけば良いだろう。


(それで……当たると何が貰えるんだ……)


 しかし、スクロールには『良い事がある』としか書いてない。

 何だろう?

 この白銀のコインが増えるのだろうか?


(まあ、考えてもしょうがない。まずはやってみますか!)


 初回と言う事で賭け方は、必ず当たるようにした。



 1 赤賭け 2倍

 2 黒賭け 2倍

 3 0賭け 36倍



 この賭け方だったら0以外の倍率は低いけれど、必ず当たる。

 今は『当たると何が貰えるのか?』を知る事が優先だ。


 白銀のコインを赤、黒、0の三か所に置く。

 ベットし終わると、自動で回転盤が回り出した。

 どこからともなく白い球が現れて、回転盤に投げ入れられた。


 回転盤はゆっくりと優雅に回る。

 白い球が回転盤の側面を全力で走る。


 やがて白い球の勢いが弱まり、側面から回転盤のポケットに零れ落ちた。



 《黒の20》



「うっし! 2倍だ!」


 黒にかけていたので倍率2倍で当たった。

 するとルーレットはゆっくりと消えてなくなり、ルーレットと入れ替わりに中空に文字が浮かび上がった。



 《黒の20:銀貨 倍率:2倍 銀貨2枚獲得》



 文字が煙の様に消えると銀貨が2枚中空に現れて床に落ちた。


「えっ! 終わり!? これだけ!?」


 床に落ちた銀貨を見ながら呆然とした。

 賞品が銀貨2枚とは……。


(ショボクねえか!? 神のルーレットだよね!? もっとこう……伝説の剣が出るとか、そう言うのはないのかよ!)


 銀貨を拾い、もう一度スクロールに目をやる。



 ”神のルーレットは一日一回プレイ出来る”



「デイリーか!」


 なるほど神のルーレットはデイリールーレットな訳だ。

 なら……今日は黒の20で銀貨……。

 他の数字ならもっと良い賞品が出るかもしれない。


(これはちょっと毎日楽しみかもしれない!)


 少しワクワクした気持ちになって来た。


 俺はスクロールとリボンを丁寧にたたみポケットに仕舞い。

 朝食に出掛ける事にした。

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