クイモノ大戦争

砂漠生物

肉染み男VSハンバーガー女VSスポンジケーキギャル

 夕焼け小焼け。西からのぼったお日さんが、東にさがる。

 そんな言葉が脳に浮かんだ時、既に俺の頭部は土鍋と化していた。

 ここは俺が暮らす二階建てアパートの一室。その二階にいついて早一年。前の居住者が不幸にもおっ死んだ現場ということで、ここの家賃が幸運にも良心的であった故、俺はここを俺の唯一無二たる安楽の地として定めたのだ。

 安楽。俺は壁に貼ってあるセクシーアイドル(二十年以上前に引退し、今は消息不明。生死不明)のポスターに向けてピースサインをした。続いて、畳に転がっている成人雑誌を捲り、そこで過剰な量の正体不明白濁液とモザイクに蝕まれているギャルどもを舌で舐めようとした。しかし、それだけは叶わぬ夢。今の俺は頭が土鍋なのだ。舌なぞ抜け落ち、何処かへ消えた。

 手鏡を覗くと、現るはイエローのセーターがよく似合う縞々土鍋ヘッド男。

 俺だ。

「なんだ? てめぇは。よぉ。コラ」

 年々日を重ねるごとに寒々しくなってきた頭頂部からは、うって変わって熱意に満ち溢れた湯気が漂いやがっている。

「なめやがって。コノクソ……」

 指で脳を弄ると、どうやらフケに悩まされてばかりの乾燥肌は永遠に失せていた。熱い。アツッつ熱い。左掌が真っ赤になり、焼けただれた。

 土鍋の中身は柔い粒の感触。湯気の大本。畜生。床に零れ落ちるのは水っぽい米である。

「誰だ。この野郎」

 俺は呻き、腰のベルトに括り付けてあるナイフを手に取り、シースを外した。

「テメェ、ドグサレ野郎」

 土鍋に一つだけへばりついた眼球が鏡に映り俺を凝視する。

 畜生。俺だ。やはり俺自身の間抜け面。

 ナイフを突き立てると、鏡を貫通。

「ふざけやがって。この。クソ」

 計五十六回振り下ろした。

 ナイフは刃こぼれ一つせずに済んだが、無論鏡は粉々。更に勢いあまって畳を傷つけ、鏡を逃さず確実に殺すべく押さえつけていた左掌もズタズタになり――残念ながら小指が一本吹き飛んだ。

「……どこのクソだ? あ? こんな戯けたクソ仕向けてイキッてるクソは」

 憤りつつ俺は灼熱の米に小指の切断面を押し付けた。そうすることで肉を完全に焼き、出血を押さえた。

 しかしながら、部屋は凄惨な有様である。

 生々しく真っ赤な暴力の痕跡が六畳一間を埋め尽くすようにびっしりと広がっている。万札をたらふく積んで清掃業者を呼んだところで、どこまで元通りになるというのか。

「…………」

 大家さんに怒られてしまう。追い出されたら困る。

 だが、悩んでも仕方ない。気を落ち着けるべく俺は、とりあえず部屋の隅に繋いである小型冷蔵庫に向かい、ドアを開けた。

 中に詰まっているのは、今朝購入したばかりのややしなびたイチゴパックと徳用生クリーム(チューブタイプ)。俺の主食であり好物だ。

 だが、それらを手に取ったところで思い至る。

 俺の口はどこにある。

 どうやって飯を食う?

「…………」

 玄関のドアを叩く音が聞こえた。

 それは、一丁前に瞬きを繰り返す自らの眼球を抉り出したい衝動に駆られた時であった。

「…………はぁい」

 居留守を使うのも「手」であるが、俺はそれを選択しない。

 わざわざ訪ねてきてくれた相手を身勝手な理由で騙し帰らせることは不誠実が過ぎる。

 俺は仕事用のフルフェイスヘルメット(信じられぬことに、サイズはスッポリ合った)を被り、応対することに決めた。

(顔がバレたら仮装ショーの準備と断言すればいい。仮装ショーだ……俺は仮装……)

 俺は食物を片手に抱えたまま鍵を開け、精一杯の撫で声を出した。

「どちらさまぁ――」

「わぁいーッ! ヒットッ! 私! おめでとうございまぁすッ! イエェイッ!」

「…………」

 現れたのは、おおよそ二十歳前後の小娘であった。金色のショートカットがよく似合うその女は、現れるや否や親し気に俺の手を握る。

「……どちらさんで?」

 デニムスカートと半袖シャツ姿の彼女は寒そうに白い息を吐くと、同じく白い歯を見せて微笑む。

「私、スポンジケーキギャルだ!」

「あ?」

「だからッ! スポンジケーキギャルだってばぁッ!」

 病院から抜け出したかな。

 そう思い、俺は目を細めた。今は忙しいのだ。

「最寄りの交番まで案内しぃようか。ちと遠いが」

「うっわ! ひっでぇなーッ! しらばっくれとんの?」

「だから。何を――あ?」

 頭上を巨大な影が覆う。

 もう夜が来たか。そう思い、空を見上げた。

「あ? 馬鹿だろう?」

 浮かんでいるのは、巨大なハンバーガーであった。

 そうと形容する他ない。

 このアパートをすっぽり覆い隠す程に極大なパンズ。その中心にあるミートパティからは肉汁が滴り落ちる。それはただただ浮かび、呻き声を発していた。

「ヒェーッ! キッッモッ! んじゃありゃッ」

 隣の部屋に住む学生の――ナントカカントカさんが顔を出し、空に向けて携帯端末を翳す。撮影&ネットへのブチ上げを果たして一丁、人気者になりたいらしい。

 その彼目掛けハンバーガーが黄色い液体を噴射した。

「マジで」

 それをまともに浴びた彼のボディは瞬く間に溶解。粘ついた粘着質の血肉が寄せ集まっただけの惨い塊に変化した。

「うわーッ! 待って! 待ってッ!」

 スポンジケーキギャルなる名の女が慌てた様子で手を翳す。

「順番ッ! 順番ッ! まず私がさぁ――」

 相手からすれば問答無用らしい。降下した巨大食物は、一撃でアパートを押し潰し破壊した。

「グゲェーッ! グォエーッ!」

 十秒程度は過ぎたか。鼓膜――あるとすればだが――を突き破らんばかりの爆音が脳を揺らす感覚に喘いだのもつかの間、今の俺は築七十年以上を超す建築物の残骸に押し潰され、瓦礫の下で喘いでいた。

「ウヴェーッ……!」

 多大な重量を持つ木材から這い出た俺は、まず身を震わせて呻いた。血反吐を吐きたい。だが、吐けぬ。俺の頭部は今、土鍋なのだ。代わりに零れるホカホカの米……。今はこれが俺の血と脳なのかもしれない。米が落下し、地に付着する様をそら恐ろしく思う。苦しい。

 しかし生き延びたため、斯様な嘔吐感に悩まされているのが現状だ。

 すぐ傍には、異様な方向に折れ曲がった腕が一つ二つ、天上に向けて伸ばされている。このアパートに住む住人か大家さんの誰かだろう。

 周囲が騒がしい。ご近所の暇な野次馬十数人が物見遊山でアパート前に駆けつけている。

 誰か通報をしたのか? 救急に。ポリスマンに……。

「どういう了見だ……このクソ……」

 無論、俺は悲しみに震えた。

「俺の安寧を……エロ雑誌を……付録の過剰モザイクDVDを……」

 ありえない。俺は夕陽の方向を見る。

 そこには、当然の如く宙に浮かぶ巨大クソハンバーガー野郎。

 そして、信じられぬことにハンバーガー野郎の真正面には先ほどのイカレギャルが対峙していた。同じく宙に浮かびながら。

「――ブチ殺すッ! こんボゲぁぁあッ!」

 ハンバーガーに対して何事か言葉を投げかけていた女は突如激昂、懐から自動拳銃を引き抜いた奴は、一切の躊躇なく連射。ハンバーガーのボディを情け容赦なく削り取る。

「死ぃぃぃいいねぇええええぇあぁあぁああああああああッ!」

 更に撃ち込まれた弾痕からは、白色に輝く気体が溢れ、ハンバーガーのパンズをおぞましい色に腐食させる。

 されど、ハンバーガー野郎はどこ吹く風。ただただ変わらず浮遊する。

 だが、やがて言葉を発した。

「最弱を破壊する」

 年若い女の声である。

 手裏剣のように放たれたピクルスはまず、ギャルの右足首を切断。続いて二発目、三発目が女の胸部と首を狙うも、それらが到達するよりも早く奴は左腕に大盾を装備。ピクルスを弾きつつ引き続きハンバーガーを銃撃する。

 だが、ピクルスもパンズを損傷させた身のままピクルスを連投する。

 余談だがギャルの大盾は、イチゴに酷似した形状とカラーを持っていた。間近に立てば甘酸っぱい香りが漂うのではないかと錯覚するほどに。

「うわぁおッ! こ、これぇッ! どうなってんすかぁッ! これぇ。あんたもッ」

「…………?」

 野次馬のうち、能天気そうな若造が歩み出て俺に話しかける。馴れ馴れしいが驚くのも当然だ。あのような訳の分からぬモンスターが宙に浮かんでいる。

 そして俺はアパート崩壊の衝撃でヘルメットが吹き飛び、今はイカれたドタマを公衆の面前で晒していた。

「……知らねぇ。知らねぇよ。俺はいつも通り仕事終えて帰って夕焼け空を見た。そしたらこれだ。何の報いだ。どれだ」

「ひぇーッ! 撮影すかぁッ! これッ! ふえー」

 イイ年こいた大人から「ふえー」などというセリフを聞くことに対しては複雑な思いがあるものの、それに対して苛立ちを感じる必要性はゼロになった。

 ギャルが明後日の方向に弾いたピクルスが――悲しむべきことに若造の身体に直撃。彼を真っ二つにした。

 いや、彼だけではない。数十近く弾かれたピクルスの一部は地上に到達。野次馬たちを老若男女の区別なく一人残らず八つ裂きにし皆殺しにした。

「…………」

 俺は命だけ助かったらしいが、無論無傷なわけではない。

 下半身がどこかに吹き飛んでいた。うつ伏せに倒れながら懸命に眼球を動かすと、切断面から腸が垂れている。

 腸? 飯が食えぬのに、何故ある。

「あッ! んにゃろーッ!」

 空を見ると、ちょうどギャルの大盾が半壊した。

 過剰の攻撃に耐え切れなかったのだろうか。

「あぁーッ! クソッ安物ッ! 賞味期限間近だからだよッ! この馬鹿ッ!」

 どうしたわけか、女は俺を指さし怒鳴り散らした。怒りたいのはこちらだが、その気力はない。

 そして、そのような無駄な行動を取ったのは、あのクソギャルにとっては悪手でしかなかったらしい。銃弾で下品な様に食い散らかされたハンバーガーは爆発。

 構成する食材を四方八方に高速でぶちまけ、そこらの建造物を滅多矢鱈に破壊しまくる。聞こえるのは無数の断末魔。

 食い物が人間を大虐殺している。

「うわーっぷッ! ぐえーッ!」

 ギャルも食物の散弾をもろに浴び、とうとう盾は完全破壊。

 盾と引き換えに暴力的食物の嵐を防ぐも、最後のダメオシが控えていた。

 黄色く強い粘着質を持つ物質。先ほど隣人を溶かして殺したものとは違う。

 ギャルはそれをまともに浴び、落下。

「うぎゃーッ! 動けねぇーッ! うぐあぁあーッ!」

 俺のすぐ傍に落下した時点で、ようやく気付いた。どうやらチーズのようであるそれは異様な粘着きを保持したままギャルに纏わりつき、身動きを封じている。

「うがぁーッ! ぎぇえああいいいッ!」

 真っ逆さまに地面へ直撃。脳天を砕き割った血達磨の女は悪鬼羅刹の如き形相を浮かべる。

「一刻も早く答えろ」

 爆発したハンバーガーの中から現れたのは、妙齢の女である。

 悪魔の髪飾りを着けた女は、水色の長髪を靡かせながら着地。そこらに散らばっている死体から服をはぎ取る。女は全裸であった。

「最強はハンバーガーか? スポンジケーキか。米か」

 ぶかぶかのスラックスとブレザーのみを身に着けた女は、首を傾げ繰り返す。

「答えろ」

 女の右腕が持つのは槍であった。

「こぉのクソ――」

 強引に身を起こそうとしたギャルだが、それ以上言葉を続けられない。

 一瞬でギャルの懐まで踏み込んだ女は、ギャルの右肩を槍で貫き串刺しにした。

「ぐっぇえええええええああああっあああッ! てめぇええぇえぇえええ」

「『ハンバーガーは最強です」と一兆回唱えろ」

そう述べつつ、ギャルを貫いたまま槍の切っ先を天に向けて掲げる。

「一不可思議回唱えろ」

「うぅぅぅううっテメェええええええッ!」

「…………?」

 ギャルが俺の方を見た。俺のことか?

「テメェーだよぉおぉぁああッ! いつまで寝てんだぁああああぁッッ!」

 ギャルは再び俺を非難するが、生憎俺は疲れていた。

 傷の度合いうんぬんだけではない。

 顔面のあり得ぬ変貌。住居の完全破壊。

 それら不条理に対する絶望は、更に埒外なモンスターどもに対する困惑で塗り潰された。

 疲労。どうしても拭えぬ。今までの人生、それを拭うために山ほど殺し、山ほど埋めてきた。だのにこの終着である。

 俺は、額を地に押し付けた。

「ふざけるなよテメェぇえええッ! 手を貸せぇッ! こいつをッ! ブチ殺せッ」

「…………」

「千無量大数回唱えろ」

「悔しくねぇかぁッ! テメェッ! どうせ何も知らネェーだろッ! わけも分かんねぇええままだッ! ぶっ殺されていいかッ! こらぁッ! 次はテメェだぞッ!」

「…………」

 眼球を土鍋の表面上で移動させ、周囲を確かめた。陰惨な光景である。

 周辺の家屋は火を放ち、そこらに散らばる死体を夕陽に溶け込ませていた。

 夕陽。死ねば、他の死体共々あの太陽と一つになるわけである。

 人類皆友達。死ねば土に還る。

「くたばれ」。俺はそう思った。

 俺の命は俺だけのものであり、誰のものではない。俺だけの安寧。俺だけの静寂。俺だけのエロ雑誌。俺だけの一人部屋。俺だけの。

 それをぶち壊される。誰に。あの、わけの分からんイカレポンチクソハンバーガー野郎に。

「舐めるな。ブチ殺す」

 俺は呟き、顔を持ち上げた。

 既にギャルは多量に出血し、意識を失いかけていた。白目も向いている。

「無限の果てで唱え続けろ」

「にく……くえ……ゲブ……」

「……肉」

「にく……掴んでドタマに突っ込めぇぇええぇえええええええええッッッ……」

「ハンバーガーが最強であることを最強のまま証明した」

 女が左腕でギャルの首を掴んだ。その掌から溢れるのは、間違いない。マスタード。あれで隣人を殺め、次はギャルというわけだ。じわじわと首が溶かされる。

 それらを尻目に、俺は腕の力のみを駆使して這った。目的はピクルスで切断された若造の死体。

 本能で理解した。俺には具が要る。そうでなければ俺は有象無象として取り込まれる。

 俺は俺の爪で若造の臓物を滅茶苦茶に引き裂き、抉り出した。

 そしてそれを、土鍋に押し込んだ。

 肉は土鍋内で溶け、全く別の物質へと変貌した。

 切断された箇所が熱を持ち、失われた下半身が再生を開始した。だが、それは慣れ親しんだ肌色の足ではない。

 鎧の如き強靭さを有した様で赤熱する、真っ赤な外骨格であった。

 外骨格は上半身を衣服ごと覆い、全身を変貌させる。

 蒸気は絶えぬ。膨張した筋肉は血管を弾き飛ばし、血を噴出させる。

「がぁぁあいい痛ッつッ!」

 激痛の中で眼球が肥大化し、分裂した。土鍋の前後左右。更に左掌に一つ。総じて十八。それらは各々が独自に生を得たかのように蠢く。俺は右掌の眼球で自らを視認した。

 豪壮な赤い鎧。そして大量の眼球を生やした頭部の土鍋も、同じ赤色に染まる。

「…………ハンバーガーは絶対的に最強であることが認められた」

「…………」

 俺はとある武器を脳裏に浮かべた。愛すべきコンバットナイフを。それを用い、眼前のクソハンバーガーを殺すことについて。

「貴様らは最弱であることが確定し、ここで消滅」

「黙れ。このクソ……」

 俺の右手に、愛用のナイフが出現した。それもまた赤色に変化し、恐るべき熱を有していた。

「テメェーの命で……アダルト雑誌とポスターの死を弔ってやる……」

 クソハンバーガーは、死にかけのギャルを投げ捨て、構えた。

 睨み合ったのは五秒にも満たない。

 一歩一歩、互いが、互いに歩み寄る。

 ブチ殺すために。

 重力に任せたままであったギャルが、地に落下した。

 それが合図であった。

 恐るべき速度で疾駆した女は、地が割れんばかりの踏み込みと同時に刺突。

 首の皮一枚つながり回避し、懐に入り込んだ俺は足払いで女の体勢を崩す。右掌を地に這わせ転倒を防いだ女は槍の横薙ぎで俺の首を狙う。俺は刃で防御。弾け飛ぶ火花の熱が皮膚に触れ、消滅する感触を味わいながらナイフを逆手に持ち、女の脳天へ突き立てにかかる。地に身を横たえた女は起き上がる最中の頭突きで俺の右肘を破壊。その勢いを生かしバネのように跳ね、バク天で後方に退くと槍を中段に構え、突き入る。

 穂先が無数に見える。それらをナイフで捌き、時には外骨格を裂かれながらも俺は思案し、決める。 

 右腕は最早要らぬ。

 肩口を貫かせた俺は噴き出る血飛沫で女の目を晦ませ槍を捕らえると、その柄に向けてナイフを振り下ろし両断。

「!」

 俺はお返しとばかりに右足の踏み込みと同時に頭突きを叩き込み、女の鎖骨を粉々に粉砕した。

「ウグゲェッ!」

 衝撃で否応なく後退したじろいだ女は血を吐き、穂先を失くした槍を果敢に構え石突きを繰り出す。

「最強! 強い! 無敵のハンバーガーッ!」

 俺は念じた。「ブチ殺す」と。

 左手が持つナイフがオーバーヒートし、白い高熱の蒸気は尋常でない量を溢れさせる。

 「グブェーッ!」

 繰り出しながら女は、口から黄色い粘液を吐く。チーズとマスタードの入り混じった死の粘着物。

 それを浴びながらも、俺は数多の眼球で女を凝視する。

 俺は今、憤怒している。

 かけがえのない安寧を砕いたクソ野郎への怒りで。

 僅かに首を動かすことで石突きを回避。同時に俺は、振り下ろした。

 普段通り。

「最強。さいきょーさぁいきょほ」

 脳天を縦に裂かれた女は、死ぬ間際まで繰り返し、仰向けに倒れた。死んだ。

 死体は跡形も残らず消滅した。


「つまりさ。誰が強いか決めてんのよ」

 安ホテルの一室で、ベッドに座るギャルは生クリーム入りチューブを啜りながら答えた。全裸である。想像以上に肌は白く、イイ身体つきをしていた。人間との違いが分からない。

 その生クリームはアパートを破壊される前、俺が抱えていた食い物だ。それを啜ることで奴の負傷は癒されていた。イチゴは、あの大盾を造るために使用したそうだ。

「それでさ、全員でブチ殺し合って、最後に残った奴が最強! 単純でしょうや」

「お前らは何者だ」

「食べ物星人」

「お前は食べ物なのか?」

「違う、違う。本当に食べ物ってわけじゃないよ。食べ物に似た形だから、そういう名前なんよ。で、各々が自分に合った食べ物をエネルギーにさ、するの。ここはエネルギー源がたっぷりあっていいよ」

「自殺願望はあるのか」

「ないよー。そんなの。でもさぁ」

 ギャルは血塗れの服を着た俺の腕を引っ張り座らせた。

「私ら、互いのこと憎んでんのよ。一匹残らずブチ殺してぇーって。今、その機会がやってきた」

「……じゃあ、俺はなんだ。クソ」

「あんたも参加者でしょうが」

「俺は地球人だ」

「あぁ、そう? 妙だね。普段から? いつもはなにしてんの」

「産まれた時からだよ。『いつもは』、だと? 毎日殺しの仕事やって生きてる」

「何で」

「誰にも邪魔されたくねぇんだよ」

「何を」

「人生」

「奇遇だね」

 女は笑った。

「私もだ」

 ギャルは俺を押し倒した、

「……殺し合いだと。『最強」? 食べ物の美味しさ対決とはいかんのか」

「えー? 無理だなぁー」

「何故だ」

「私ら、食べ物悪用して私利私欲の殺ししてんだよー。それが、その張本人が美味しさ対決? ははぁはは」

「…………」

「私だったらぶっ殺してるね。そんな糞野郎は」

「……俺も殺してみろ」

「最後だね。あんたは。なかなか強くて使える」

「ふざけるな」

「今日みたいな野郎、これから山ほど来るよー。マジに。私が世話してやるよ」

「世話だと」

「セックス」

 女は返り血をたっぷり浴びた俺の服を脱がせにかかった。

「下は、普通だろ」

 俺は俺の頭を撫でた。利用した若造の肉はどこかに消えた。そしてどうしてか腹は膨れた。傷も治癒した。

 米――いや、米によく似た形状を持つに過ぎない俺の肉片は、変わらず頭の中に残っている。

 ベッドの上で横たわっているというのに、傾きもせず在り続ける。

 この肉片が一つ残らず失せたら俺はどうなるか。試すのはいいが――それは太陽が寿命か何かで消滅した後にやるとしよう。

 

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