第43話 対抗

「オリーヴ! 大丈夫かい!? 返事をしてくれ!」


 ポールが、必死の形相で私の名前を呼んでいる。

 えっと……何が、起こったの……?


「……私、一体……?」

「突然黙っちまったんだよ。話しかけても返事がないってんで、心配してたんだぜ」


 レニーに状況を説明されて、何が起こったのかようやく把握する。

 さっきまでシレイ君? に意識を侵蝕されてた……って、こと……なのかな? たぶん……。

 ポールはほっとした様子で、「良かったぁ……」と胸をなで下ろしている。……あんなに焦った顔、初めて見たかもしれない。


「どこか、痛いところはないかい?」

「大丈夫……だと、思う!」

「……思う?」

「だ、大丈夫! 本当に大丈夫だから!」


 私の返答に、ポールは「そっか……」と呟き、ぎゅっと私を抱き締めた。


「……もし、きみにまで危機が及んだら……きみが助かるのならぼくは、どうなったっていい」


 ……どうして。


「きみだけは、無事でいてくれ」


 どうして、そんなこと言うの?


「……ダメだよ。一緒に帰ろう」


 私の言葉に、ポールは曖昧な笑顔で返した。


「そうだね。……それが出来たら……。……いいや、何でもない」


 ポール。

 ……どうして、そんなに悲しそうに笑うの?


「……ともかくだ」


 レニーが気まずそうな表情で口を挟む。


「俺らの状況は非常に不味まずい。なんせ、敵はこの空間を構築してるのと同じ術を使う野郎だ」


 そう。それは、その通り。

 誰と帰るとか、帰ったらどうしたいとか、そんなことを考えてる場合じゃない。そもそも「帰る」ためには、解決しなきゃいけない問題が山ほどある。


「……説得……は、厳しそうだよね」


 私の言葉に、レニーは苦笑しつつ頷いた。


「ま、あの様子じゃ無理だろうな。話が通じる野郎じゃねぇだろうよ」


 自分を正しいと思い込んでしまっている以上、どんな言葉も通じない気がする。むしろ、正論をぶつけようとすればするほど逆効果かもしれない。


「ぶちのめすのは?」


 レオナルドが何か言ってるけど……そんな脳筋な解決方法、ある……?


「……あー……」


 ちょっと、レニーさん?? どうして悩んでいる感じなの??


「レオなら……いけるか……?」

「えっ、なんで?」


 シレイ君は優秀な呪術師で、その上で厄介な怨霊なんだよね?

「ぶちのめす」なんて選択肢があること自体、意味がわからない。


「お前さん、うちの兄弟を舐めちゃいけねぇぜ。コイツは強い」

「いやでも、物理でどうにかなる相手!?」

「おいおい、誰が『物理』だけだっつったよ」


 私たちの反応に対し、レニーは肩をすくめ、やれやれと首を振る。


「レオが強いのは腕っぷしだけじゃねぇ。心もだ」


 な、なるほど……?

 フィジカルだけじゃなくてメンタルも強いから、精神干渉やら何やらがメインの呪いも効かない……って、言いたいのかな……?


「意志の力で、どうにかなる範囲なのかい?」


 ポールも、さすがに怪訝そうな顔をしている。

 そうだよねぇ。意志の力でどうにかなるのなら、あのレヴィって人とかも相当意志が強そうに見えるし……。


「早とちりしなさんな。誰が意志が強いっつった?」

「えっ?」


 違うの……?

 私の疑問を察したのか、レニーはすかさず続ける。


「そういう強さじゃねぇ。コイツはな……」


 ポールが、隣でごくりと息を呑む。

 レオナルドはというと、神妙そうな顔をして……いたかと思ったら、大きなあくびをひとつ。

 ほんとだー。メンタル強いー……って、まさか、そういうこと……!?


「とにかく、


 …………。

 そんなの、アリ……?

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