第17話 side: Robert

 レヴィくんに情報を渡すため、ロッド義兄にいさんの証言を頼りにデータを探っていく。


「サンダースさんのハンドルネームってどれ?」

pigeonピジョン。ハトの写真がアイコンのやつだな」


 二人はそこまで頻繁に話していたわけでもなさそうで、データの量は、膨大ってほどでもなかった。

 とりあえず、気になったところを抜き出していくことに。




 ***




 2014年9月1日


 “やっほーRod! 元気ぃ?”



 2014年9月8日


 “あんま元気じゃねぇ”

 “だろうね。返信に一週間かかってるもんね。ついに死んだかと思った”

 “俺もついに死ぬかと思った”

 “何があったの!? 生きろ!?”

 “おう……”

 “ほらほら、ウチの猫の画像見て元気出しな!!”

 “ねこ……ねこだ……いいよな、にゃんこ……”

 “へへーん、いいだろー。でも私、ぶっちゃけエサになる方だよね”

 “……まあ……pigeonハトだもんな”

 “くるっくー”

 “……鳥、好きだったんだよな。あの人”

 “あー、また思い出してしんどくなってやんの”

 “るっせぇ……”

 “でもわかるよー。私もふっと思い出すもん。美術館とか博物館とか好きだったなー……とか”




 ***




「気まずいんだけど」


 姉さんがポロッとぼやく。義兄さんは隣で耳まで赤くして顔を覆ってる。

 ごめん、正直僕もめちゃくちゃ気まずい。プライベート覗いてるってことでもあるし……。


 とりあえず「ミュージアム巡りが好き」とメモしておく。




 ***




 2014年9月13日


 “誕生日だぞー! 祝えー!!”

 “おめっとさん”

 “いえーい! あーあ、あと一年であの人の歳に追いついちゃうや”

 “反応しにくいわ”

 “25やそこらで死ぬってさぁ……早すぎじゃん?”

 “……そういや、あの人も享年21だったか。……若すぎるよな……”

 “ねー……”

 “俺、もう30なんだよな……”

 “……あ、そういやRodってあの人と同い年じゃん”

 “マジか”




 ***




「享年25。生年はロッド義兄さんと同じ」とメモしておく。

 わあ……姉さんの笑顔がどんどん引きつっていく……。まあ、複雑だよね、色々。




 ***




 2014年10月31日


 “ハッピーハロウィン! ウチの猫も仮装しました!”

 “ねこぉおおおおお”

 “Rodは猫飼わないの?”

 “責任が重たすぎて……”

 “ほんと真面目だねお前……”

 “寿命短いしな、猫”

 “ウチの子もだいぶおばあちゃんだしなぁ。あの人にも可愛がってもらってたし”




 ***




「猫を可愛がる性格」っと。

 義兄さん、もうだいぶ恥ずかしそうにしてる。姉さんはというと、慣れてきたのか笑いを堪えている。




 ***




 2014年12月24日


 “やっぱさ、こういう日って恋人と過ごしたいよね”

 “突然どうした”

 “んー……あの人ならさ、こういう日絶対デートに誘ってきたよなーって“

 “……やめろよ。締め切り前に思い出しちまうだろ”

 “Rodは好きな人とクリスマス過ごしたことあんの?”

 “ガキの頃は手繋いで買い物行ったり……カップケーキ食べたくなって弟分も誘って作ったり……”

 “へー、なんか姉弟みたいだね?”

 “…………まあ……恋人って感じじゃなかったからな”

 “あはは、こっちもそうかも。18になるまで妹みたいに扱われちゃってた”

 “pigeonもか……。……まあ、弟扱いも嫌いじゃなかったんだけどな”

 “ふーん? 私は早く大人扱いされたかったなぁ……”




 ***




「クリスマスにはデートに誘う方。でもオリーヴのことはしばらく妹扱い」……と。

 義兄さんはついに撃沈し、何も喋らなくなってしまった。姉さんの方は呑気に「あー、そんなこともあったなぁ」とか言ってる。

 いい加減可哀想だし、そろそろ休憩した方がいいかな……とは思ったけど、情報が欲しいから続けることにする。ごめんね、ロッド義兄さん。


 と、ここからはしばらく雑談ばかりだし、話すのも一ヶ月おきぐらいで気になる情報はなかった。

 そんな時、不穏な会話が目に入った。




 ***




 2015年4月30日


 “なぁ、pigeon”

 “何? Rod”

 “何とか我慢してたけど……限界かもしれねぇ”

 “ど、どうしたの?”

 “あの人は『殺される』って言ってた。誰も信じねぇが……やっぱり、ちゃんと調べて……”

 “えっ、そ、そんな物騒な事件だったの……!?”

 “あの人は殺された。……なら……俺も、犯人を……”

 “落ち着きなよRod!”

 “お前もわかるだろpigeon! 好きな人を死なせた原因があるなら、憎いだろ!?”

 “……ッ、憎いよ……私だって……彼の母親が憎い……”

 “……あ?”

 “彼が内臓を悪くしたのは……お母さんに殴られてたからだって……ちょっとだけ、聞いたこと、ある……”

 “……母親に……”

 “……。復讐できるんだよ。私の仕事なら……。詳しいことは言えないけどね”

 “俺……俺、あの人の、ためなら……”

 “……私は別に、止めないよ。Rod、苦しそうだもん……”




 ***




「ああ、そんなことあったな」


 姉さんの言葉で、はっと我に返る。


「復讐したいって……このままじゃ納得できないって、何度も言ってたっけ」


 画面から顔を離し、姉さんは義兄さんの方に視線を向けた。


「でも、俺はそうして欲しくなかった」


 義兄さんは何も言わず、俯いている。


「俺のことを忘れたっていいから、幸せになって欲しかった」


 うっすらと微笑みすら浮かべて、姉さんは語る。


「……もし『そいつ』もそうだったなら、記憶を奪ったのは……たぶん……。……いや、決めつけるのは早いか」


 僕は、何も口を挟めなかった。……何となくだけど……どんな言葉も、この場にふさわしくないと感じる。

 黙っていた義兄さんが、ぽつりと呟く。


「……続けようぜ」


 その言葉に頷き、僕は再び画面を覗き込んだ。


「……あれ、いきなり2017年になってる……?」

「ああ……俺んとこのネット……つか、パソコンの中、時間がズレてたからな」

「そういえば、そんなこと言ってたね……」




 ***




 2017年12月24日


 “もう見てないだろうけど、メリークリスマース”

 “メリークリスマス”

 “……。生きてたか、Rod“

 “生きてるよ“

 “2年間全然音沙汰なかったからびっくりしたじゃん! こっちは色々あったのに!”

 “俺もマジでびっくりした”

 “何があった……。仕事とか大丈夫だった?”

 “……今思うと、気づかなかったのマジで馬鹿だよな……時間感覚ガバりすぎてたっつうか……”

 “えっ? 何の話?”

 “いや……別に……”




 ***




 ……と、これ以降に気になる文面はなさそうなので、閉じておいた。

 ロッド義兄さんの胃のためにも、早く切り上げた方が良さそうだし。


「……アイツ……」


 レヴィくんに送る情報をまとめていると、ロッド義兄さんのぼやきが耳に入る。


「復讐、したのか……?」

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