第25話
部屋の中でテツを出迎えたのはフレイの冷たい視線だった。
父親に似て華美を嫌う性格の為か、部屋の調度はその身分に対して過剰なほどに抑制的だ。
飾り気の無いテーブルに、座り心地は良いが地味な椅子、それに座りゆっくりとお茶を飲むフレイの目は冷たかった。
俺は何かしただろうか?
テツは心当たりを探すが何も思いつかない。
「あー」
短い沈黙の中、言葉を探す。
「俺は帰った方がいいかな?」
「座れ」
何も思いつかなかったのでとりあえず帰ろうかと提案してみたが、フレイにそれを座れの一言で否定されてしまった。
まぁこの女が理解出来ないのは今に始まった事ではない。
テツはそう思い素直にフレイの対面の椅子に腰を下ろした。
途端再びおりる沈黙にもテツは動じなかった。
まぁフレイも王族なのだ、平民の自分には分からない理由で不機嫌になる事もあるだろう。
しばしの沈黙の中、テツは側に控えているメイドの一人に自分にもお茶を、と頼む。
なぜかメイドに信じられない物を見る目で見られたがテツは気にしなかった。
沈黙を破ったのはフレイだった。
「さっきの女は誰だ?」
テツは少々熱すぎるお茶を一口飲み下しながら呆れた。
「誰ってお前、彼女はお前の侍女だよ」
まさか挨拶された事すら忘れているのではなかろうな? と、テツは呆れたと言わんばかりに言外に匂わす。
「あー待て、ふむ確かに今朝がた挨拶されたような気がするぞ」
報われないにも程があるな。テツは真剣にクエルに同情した。
「それで何故に私の侍女とお前が一緒にいたのだ」
「クエル嬢な」
テツはあまりにもクエルが不憫だったので彼女の名前がクエルだった事を思い出させてやる。
「扉の前で困っているようだったから声をかけたんだよ、あーいや待て今朝挨拶されたって? だったらそこからずっと居たのか?」
意外に、いや意外でもないか、なかなか根性があるな。テツはクエルのあの表情を思い出して思い直す。
「そのクエルと、随分と、親しげだったな」
ツイっとフレイが視線を外しながら呟くように言う。
その言葉に流石にテツも呆れかえる。
「お前、そりゃ無いだろ」
「何がだ」
拗ねたようなフレイの視線を受ける。
「あのな、お前が無愛想すぎるんだよ。ちゃんと話してみれば人と人なんてあんなもんだよ」
「そうなのか?」
テツはキョトンとした表情を浮かべるフレイに再び呆れる。王侯貴族と言えば社交も立派な仕事の内だ。近衛騎士団とは親しげに話すくせに同年代の少女とまともに話せないとは。
フレイらしいと言えばフレイらしいが、王国の先行きが少し不安になるテツだった。
「そうだよ」
「そういう物か」
まるで物を知らない妹に接する兄のような顔をするテツをメイドが路傍の石を見るような目で見ていたが、テツは気が付かなかった。
そうか、そんなものか。
と頷きつつ何度か
つまりは機嫌が直ったのである。
結局は自分が上手く喋れないにも関わらず俺が上手く出来たものだから不機嫌になったのだろう。
大概の事は俺より良く出来るのに、出来ない事があると不機嫌になるなんて、まるで子供だな。
テツは、まぁそういう所も含めて俺が支えていこうと決意を新たにする。
メイドはテツを喋る木の棒を見るような目で見ていた。
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