第22話


「おう、近衛兵団長様じゃねぇか」

 テツにそう言ったのは城の門を守る初老の兵士だった。

 名はバード、長く城に勤める王国兵で年を取ってからはもっぱら門兵を勤めており、フレイの街への脱走の手伝いを良くさせられていたので、テツとも昔から面識がある。

 平民のテツが近衛兵団団長なる物になった後も気さくに会話してくれる希有な人物でもある。

「自分から城へ来るなんて、最近じゃ珍しいじゃねぇか」

「本当はあまり来たく無いんですけどね」

 言外に貴族の誰かに殺されるかもしれないし、と付け加えながらテツが言うと、バードが言外の言葉が聞こえでもしたかのように苦笑する。

「お前さんも大変だね。で、今日は姫様にご用かい?それとも王様かい?」

「姫様に。あ、自分で勝手に向かいますので気にしないでください」

 さらりとトンデモナイ事を言うテツをバードは苦笑で流し。

「そうかい」

 とだけ言うと門を開けるよう合図を出した。


 この時代、先触れも無く王族に会える、という事がどれほど非常識な事なのかをテツという少年は知らなかった。

 どれ程の大貴族であろうと、王族に会おうとすれば数日前どころか数ヶ月前からお伺いをたてて面会がかなう事も珍しくないのである。

 しかしテツは面会を願えば、フレイどころかジョン王にすら直ぐに面会がかなったのである。

 フレイに関しては非常識ではあっても、実質的に彼女の私兵集団である近衛兵団団長の役職もありそれ程には不自然では無かった。

 しかしジョン王に関して言えば非常識どころか平民のテツに対しての意味が分からない程の特権的好待遇である。

 先触れも無く訪れた人間と王が会う等というのは、それこそ同じ王族か皇帝ぐらいなものであった点を考えると、その特権ぶりが良く分かるだろう。

 テツがその事に気が付くのは後の事だが、彼は気付いた後も結局は気にしなかった。テツという少年は決して馬鹿では無かったが、時折このような奇妙な無頓着さを見せる時があった。

 そのような点が貴族達からの反感を買う理由にもなっていたが、結局の所テツは自分が貴族から反感を買うというのは彼女と一緒にいる必要経費だと諦めていた。

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