始まり

プロローグ

「お疲れー」

「お疲れ様でーす」


 先に仕事を終えた先輩が帰宅した。

 ふと時計を見ると既に22時を越えており、思わず苦笑いが出る。そう言えばもう10時間以上何も食べていない。何か買いに行くか。コートを羽織り俺は会社を出た。


 外に出ると真っ先に飛び込んできたのは白い雪だ。あまりの寒さに身震いしてしまう。かれこれ3日間会社に閉じ込められていたから気象予報など見る暇がなかった。

 まさか都心でこんな大雪が降るとは。コンビニに向かう道中、俺はスマホで3日ぶりのニュースを見ていた。

 やはりどのサイトもこの大雪に関することばかり。まあ、そりゃそうだろう。

 世界最大規模の経済都市である東京のインフラに大ダメージを負わせるのだから。

 俺が気にするのはクライアントとのネット回線くらいだが。

 思えば俺はどうしてこんな時間まで仕事をしているのだろうか? 既に30を越えた身には堪える仕事だ。


 プルルル……。


 スマホが鳴ったので画面を見ると、そこには後輩の名前が映っていた。


「はい?」

「【・・・・】さん?! 例のサーバーでまた大規模不具合が発生したらしいです!」

「確かそこはR社が昨日定期メンテをしたよね。どうしてそうなったの?」

「R社でメンテを担当していた人がバックレたらしいです。それで素人が突貫作業でメンテした結果……」

「不具合が起きた、とね。わかった。すぐに戻る」

「お願いしますよ!?」


 電話を切ると俺は道を引き返す。最寄りのコンビニまであと100メートルというところでまさかの帰社命令。本当についてない。いやちゃんと就職活動をしていればこんなクソ会社に入ることはなかったのだが。


 もうどうせ3日くらい帰れていないのだ。あと2,3日の仕事も我慢しよう。


「はあ、早くこんな生活から抜け出したい……」


 そんな叶いもしない願いを口にし、俺は会社に戻るのだった。

 今日も家に帰れそうにない。


「というより、部屋に1か月くらい引きこもりたいなあ」


 どうしてもそんな考えが頭をよぎる。期せずしてこのブラック会社に入ることになったのだが、迂闊にそんな判断を下した自分をどうしても恨んでしまう。


 ああ、願わくば。

 この残酷なバッドエンドしかないクソゲーに終止符を。そして来世にはヌルゲーを用意して幸せな人生を歩ませてほしい。

 そんな事を考えていると、ガガッと車輪と氷が擦れる音が聞こえた。

 振り向くと、そこには巨大なトラックが突っ込んで来ているではないか。


 ああ、これは無理だな。そんな諦めとこれまでの人生の失望から、「逃げよう」という発想に及ばなかった。そうして俺はあっさり大型トラックに撥ねられ宙に浮く。


 最期の最後に思い浮かべたのは、最もハマった美少女ゲームの『Silver.get』の妹ルートだったというのは何とも救われない。

 そして俺は痛みと共に意識を失い、そのままこの世を去った。


 そう、その筈なのだが、気がつくと俺は……。

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