第9話 あの夏に出会った心霊現象を僕は忘れられない

『死者が生者となって見知らぬ世界で四苦八苦している。それが全てだと聞いたらどう思う?』




 そんな突拍子のない話を聞かされてセリアはどう思ったのだろう。少なくとも望んでいた話を聞けなかったことから失望は感じたんだろうな。


 だから彼女は申し訳なそうな顔で何も告げずに去っていったのだ。


 真実を告げても誰からも理解されないというのはストレートに非難されるより苦しい。


 だけど、彼女が知っているオルアが、そして俺自身も何か努力したわけじゃないのは変わらない真実で、「人が変わったよう」じゃなくて「人が変わった」のだから本当にアドバイスできる言葉がないんだ。


 はあ。




「だったらどうすればよかったんだよ……」




 誰もいない廊下で呟いたところで答えてくれる者はいない。


 セリアに問題があったわけじゃないんだ。俺が可笑しいだけなんだよなあ。


 というより俺が意地悪な対応をしてしまったんだろう。真剣に尋ねる人に「死者」やら「異世界」やらを持ち出すなんて茶化しとしても度が過ぎている。


 でもそれが真実なんだから他にどう上手く説明しろって言うんだよ。




 憂鬱だ。今日はもう王族としての仕事もないわけだし、このまま部屋で寝よう。


 もう何も考えたくない、というか頭を動かしたくない。最悪なことにここにはネットやゲームがないから自由時間はとにかく暇なんだろうが、精神を消耗させないように新しい趣味を見つける必要があるな。




「(いやそれ以前にどうしたら戻れるのか考えないといけない。……なに慣れようとしてるんだよ)」




 ダメだ。一人になってから苛立ってるし頭も回らなくなってる。


 ホントに一旦無心になって寝ないと明日の予定に差し支えが出てしまう。メイドのことを伝えに行った際に厨房長に持たされたチーズとトマトのサンドイッチを一口齧ると気だるげに扉を開ける。




「やあ! わたしはずっと待ってたのに一体どこで油を売ってたんだい?」




 そこにあったのは散らかされた客室と、内装と明らかにミスマッチなマジックアイテムと思わしき粗大ゴミ。そしてあまりに破廉恥すぎる私服を着たエルフ耳を生やした大魔女ソフィーだった。




 不思議なことにその時感じたのは「恐れ」ではなく、「希望」。


 大概な魔法馬鹿である彼女になら信じてもらえるんじゃないか、そんな願望を抱いたんだ。

 ちょっと馬鹿にし過ぎなのか?

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